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……ここは、暗い暗い地下空間の一角。

オレは“財閥”に入って早3年になる。


「あああああああああ!!!」


地下空間を掃除中も、絶え間なく悲鳴が聞こえてくる。

あれだ、最近入った実験動物。

動物といっても人だがな。

何でも、どれだけ痛めつけても死なない化け物らしい。


「ぎゃああああああわっあわっ!!!」


ちょっとだけ様子を覗いてみたが、ありゃ酷いものだった。

10代そこそこの黒髪の少年が、鋏型の魔物が一杯入った缶に身動き取れずに詰められて……

ああ、恐ろしい、恐ろしい。


「あっ、あっ、あっ…………」


気絶したか。

あの少年はもがき、苦しんだ後必ず気絶する。

そして、気絶から戻った後には、拷問で傷付けられた体がすっかり元通りだった。

ありゃ、化物だね。


「どれ、今日はどんなイカれた実験に付き合わされてるのか……」


本当はあまり見てはいけないのだが、好奇心からちょっと覗いてみる。

拷問する場所はいつも変わるが、今日はオレの清掃区域のすぐそばだった。


「…………おえっ、ひでえことしやがる……」


思わず悲惨さにえずいてしまう。

そこには、生肉が焼きただれる匂いと、火であぶられた真鍮制の牛の置物があった。

あらかた、中に少年が入っていて少年が生きたままあぶられてるんだろう……。


---


……なんで、こんなことになった。

少年は思う。


あの日、灯璃(あかり)姉さんと同じテントで寝ていたはずなのに、気がついたら地下にいた。

初めは何が何だかわからなかったが、身動きが取れなくされているのに気づく。

その後は、思い出したくもない拷問の日々。


僕の体は、どうやら異常らしい。

初めはナイフで体を刺されようとした。

刺さらない。


指に針を差し込もうとした。

刺さらない。


包丁で腕を切り落とそうとした。

刺さらない。


どうも、この世界に来てから僕の体は異常になってしまったようだ。

僕を拉致した奴らは、どんどんエスカレートしていった。


刃物が通らないなら、魔物を使ったり、火で炙ったりすればいい。

しかし、そんな拷問で気絶する度に僕の体は何事も無かったように回復した。


そんな日々の中、僕の意識はどんどん闇に沈んでいった。

深く、深く、深く、深く、深く……


…………………………


……………………


………………


…………


……










---


あの少年が地下空間に来てから、4ヶ月が経過した。

相変わらず奴らはエグい方法で拷問を続けている。

“財閥”は少年を利用して、何か企んでいるのだろうか?

……いや、オレには関係ないな。

末端のオレには。


あれから、ちょくちょく少年の様子を覗くことがあった。

なんだか、気になったのだ。


少年は次第にやつれていき、目に光を灯さなくなった。

話を聞く限りだと、口も聞けなくなったらしい。


……まぁそれは当然だろう。

大人が死ぬような拷問を何度も行っている。


そんなある日、オレは少年と話をする機会を持った。


---


いつものように拷問でやられたのか、少年は裸で部屋に寝転んでいた。

部屋の中は血や臓器で酷い匂いがしていたが、少年の肌には傷一つなかった。


その日も、オレは少年の様子を覗いていた。

すると、少年が突然声をかけてきたんだ。


「……ねぇ、おじさん。僕もおじさんに掃除される日が来るのかな?」

「!」


オレは驚いた。

随分前に話さなくなったと聞いていたから、まさかしゃべるとは思わなかった。


「ああ……って馬鹿言え。

お前は殺しても死なないだろうが。」

「ふふっ……それもそうだね……」


少年は穏やかに微笑みかける。

正直にいえば怖い。

……オレは主に実験動物の後始末、血や骨を掃除する掃除婦として“財閥”に雇われた。

妻や子供は人質に取られてる。

でなきゃ、こんな仕事、誰がやる?


「ねぇ、おじさん、ちょっと聞きたいんだけど、いいかな……」

「ああ? なんだよ、坊主。

 答えるとは限らねえが、聞いてやる。」


少年は相変わらず微笑んでいる。

はじめの頃の拷問の絶叫が嘘のようだ。


「この実験を繰り返してるのって……何の組織なのかな?」

「ああ?」


なんだ、このガキ。

“財閥”に復讐でもしようってのか?


「……やめとけ、やめとけ。復讐なんてな。

 そんなことして反抗しても、拷問がもっと酷くなるだけだぞ?」


そうだ。

“財閥”からは逃げられない。

だからこうして俺もここにいる。


「アハハハハハハハハッハッハハハハッハハハ!!!!」

「!!」


少年がいきなり笑い出した。

やっぱり気でも触れてたのか……


「アハハハ、ごめんなさい。でも、今より酷い拷問なんて、ないと思わない?」

「……」


確かに、“財閥”も前ほど酷い拷問をしなくなった。

……単に、やれることをやり尽くしただけな気がするが。


「それでおじさん……教えてくれない、の?」

「……仕方ねえな。

 どうせテメエはここから出られないんだ。

 もちろん、オレもな。

 教えてやるよ、このイカれた実験をしてるのは“財閥”ってとこでな……」


それからオレと少年は話した。

それはもう、色んなことを。

オレの家族の話や、少年の境遇の話。

久々に人と話した気がするな。


そして、その翌日……




少年が、脱走した。

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