はぐれマス
……世界は、真っ黒だ。
どこまでも深く、深く、深く、そして暗い。
誰も彼もが闇を持ち、疑い、涙し、怒り、殺す。
だから僕は、こんな世界を……
---
「……お姉ちゃん、ここ、どこなんだろうね……」
「うーん、お姉ちゃんにもちょっとわからないかな、従兄弟君。」
僕と灯璃お姉ちゃんは、森林にいた。
辺りには鬱蒼とした木々が生い茂り、緑が生い茂っている。
「お姉ちゃん、従兄弟君じゃなくて、拓矢って呼んでよ。」
「……私も君のお姉さんじゃないんだけど……はぁ、まあいいか、拓矢君。」
僕たちはゲームをしていただけなのに……どうしてこんなところにいるのだろう?
---
そう、今日は新年の挨拶で親戚の家に行ったところだった。
いつも親切にしてくれる漱二兄ちゃん。
同じ中学生で、可愛らしい唯香ちゃん。
それに、漱二兄ちゃんと幼馴染の灯璃お姉ちゃん。
仲良しな四人で、楽しく某人生ゲームをしてたんだ。
そんで漱二兄ちゃんと唯香ちゃんがステ振りを遊び始めたから、僕たちも真似することにした。
僕は『体力』にポイントを、お姉ちゃんは『モラル』に全部のポイントを振った。
……正直、勝負は度外視だったけど、楽しかったなぁ……。
記憶に残っているのはそこまで。
お姉ちゃんも同じらしい。
……僕たち、一体どこまで来てしまったんだろう?
「うーん、でもこれはアレだね、拓矢君。
どうもここは地球じゃなさそうだよ。
ほら見てごらん、この草!
透明に透けて見える葉っぱなんて、見たことないよ!」
お姉ちゃんは凄く理知的だ。
つまり、頭がいい。
お姉ちゃんの言うことに従っていれば、何とかなりそうな気がする。
「確かに、見たことないね……。
それで、これからどうするの、お姉ちゃん。」
「まずは、人里を探さないといけないかな……。
いつまでも、こんな森の中にいるわけにも行かないしね。」
そうして、僕とお姉ちゃんは人里を求めて森を探索することになった。
---
「ん? あの明かりは……人がいるんじゃないか!?」
「あ! ホントだ! さすがお姉ちゃん!」
森を迷い歩いて数時間。
ちょっと足がくたびれてきたところに、明かりが見えた。
もう夜になりつつあるから、夕御飯の明かりだろうか?
「あ、あの! すみません!
どなたかいらっしゃいませんか?」
お姉ちゃんが明かりに近づき、声を上げる。
明かりはちょっとしたキャンプファイヤーのものだった。
テントが周りに点在している。
「はい? どちら様でしょうか?」
しばらくして出てきたのは、優しそうなお兄さんだった。
なんだか、民族衣装みたいな格好をしている。
「あ、あの、実はちょっと森で頭を打ったみたいで……。
ちょっと記憶が混濁してて、有り体にいえば、迷子なんです……」
お姉ちゃんがしずしずと答える。
お兄さんはそれを聞いて目を見開いた。
「! そうでしたか!
それは、大変でしたね。
私達はアルト民族という者で、旅をしつつ生活する民族です。
宜しかったら、こちらで少し休まれますか?」
……親切なお兄さんだ。
でも、ちょっとなんか胡散臭いぞ。
いきなり会った人にそんな親切にするかな?
「あ、えっと、助かるんですけど、少しだけ食事等分けてもらえればそれで……」
ほら、やっぱり。
お姉ちゃんもちょっと警戒したみたいだ。
「いえいえ、そんな滅相もない!
貴方みたいに神々しい方にお会いできたのです。
もてなさずにお返しすることはできません。」
?
あれ?
このお兄さんは何を言っているのだろう?
……もしかして、お姉ちゃんに一目惚れしちゃった?
---
アルト民族の人にもてなしてもらっている。
しかし、その光景はちょっと異常だった。
どの人も会うたびにお姉ちゃんのことを讃え、握手を求めようとしたのだ。
お姉ちゃんの容姿が可愛いからって、ここまでにはならないだろう。
ちょっと狂的なものを感じて怖い。
「あ、あはは……あの、ありがとうございます……」
お姉ちゃんも、かなり戸惑っている。
会う人会う人に褒められれば、逆に不気味だろう。
……ちょっと、助けに行った方がいいかな?
「あ、あの! すみません、僕たち、今日ちょっと森の中を歩きづくめで……
お姉ちゃんも疲れていると思うので、少し休ませてもらえませんか?」
「……」
アルト民族の人が一斉に真顔になる。
「……おお、そうでしたね、これは大変失礼いたしました。
アカリ様、タクヤ様、今日はテントに寝所を作りましたので、そちらでお休みください。
……皆のものも、今日はもう解散だ! 散れ!」
最初に相手をしてくれたお兄さんが助け舟を出してくれた。
どうやら、あの人が、この民族のリーダーらしい。
(何であんな餓鬼が、アカリ様と一緒にいるのよ……)
なんだか、アルト民族の人たちが僕のことを恨めしい様子で見つめていた。
---
「う~ん! いい朝だなぁー!」
私は族長さん(最初に声をかけたお兄さんがそうだ)に借りたテントで伸びをする。
地球じゃないっぽいところに飛ばされたみたいだけど、昨日はしっかり眠かった。
親切な人たちに助けられてよかったかな。
……ただ、ちょっと親切すぎて不気味なところがあるかも。
取り敢えず、この世界のことをもう少し知ったら、あの人達とは離れた方がいいかもしれない。
「……ああ、お目覚めですか、アカリ様。」
テントの中で動く様子が聞こえたのか、族長さんが声をかける。
「あ! おはようございます!
昨日はありがとうございました!」
「いえいえ、こちらこそ。
久しぶりに我ら以外の方とお話ができて楽しかったですよ。」
族長さんというお兄さんがにこっと笑顔を見せる。
……うーん、確かに整ってる容姿だと思うけど、好みじゃないなぁ……。
「……あれ、そういえば、拓矢君見ませんでした?」
今気がついたが、拓矢君がテントにいない。
……さすがに、中学生の男の子は男とは意識しないし、何かあったら困るので一緒のテントで寝ていたのだ。
「ああ、彼ですか。
彼なら、朝早くに旅立ちましたよ。」
「……え?」
聞き間違いだろうか?
「え、すみません、もう一度……」
「彼は旅立ちました。
なんでも急にやらなきゃいけないことができたとか……」
この日から、私が拓矢君に会うのは随分先のことになる。
それも、変わり果てた姿で……