測定しマス
「いらっしゃい、ようこそガイアード街役場へ。本日はどんなごようですかい?」
「……」
なんだか厳つい顔をした人が受付となってしまった。
漫画でしか見たことないような傷が、顔に着いている。
チェンジしたい。
「あ、あの実は私達、ちょっとここに来るまでの記憶がなくて……この街のことを教えて欲しいんです。」
俺が絶句していると、唯香が気丈にも話しかけてくれた。
「ん? そうでしたかい。大方、魔術の発動に失敗したか、いたずらで記憶喪失の魔術をかけられたかですかね。」
「アハハ、そうかもしれません。」
魔術! やっぱりこの世界にも魔法みたいなものってあるのか。
「まぁ、それでしたら2、3日で元に戻るでしょうけど……それまで不便でしょうから、簡単にこの街のことを教えてあげやすよ。」
「ハイ! ありがとうございます。」
ほとんど唯香に対応してもらってるな。
それにしても、この世界では記憶喪失は多々あることなのか?
「っと! その前にお二人がこの街の住民番号をお持ちか確認しやすね。」
「マイナンバー……ですか?」
ふーん、この街の住民票みたいなものかな。
「さようでやすよ、お兄さん。この街で生活している方は皆、住民番号を持っているんす。」
「へぇ~そうなんですかぁ。」
おい、唯香。だんだん対応が面倒になってきていないか。
「それでは、この水晶に手を置いてくだせえ。それで住民番号を登録しているか分かりやす。」
職員はなんだか黒い水晶を持ち出した。
近代的なのか原始的なのか判断に迷うところだな。
「ハイ! 私先にやります!」
妹が率先して手を挙げた。
別にどっちが先でもいいと思うけど。
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「う~ん、お二人は登録されていないので、この街に住んでらっしゃるのではないようでやすね。」
「そうですか。」
やはり、俺と唯香の登録はなかった。
初めから分かってたけどね!
異世界からきましたとか言えないし!
……今はまだ、ね。
「んじゃあ、お二人には取り敢えず登録いただくとして……これからどうしやす? その様子じゃお金とか持っていないんでしょ?」
「えっと、恥ずかしながら…。」
この職員、親切な人だな。
怖い顔しているのに。
人は見かけによらないということか。
……さて、お金についてはちょっと当てがある。
「えっと、職員さん……入口の掲示板に貼ってあった依頼とかって、僕たちも受けることができるんですか?」
「ん? ああ、掲示板の依頼かい。うん、お二人でも受けることはできやすよ。」
そう、建物の入口に結構な数の依頼が貼ってあったのだ。
[飼い犬を探してください]やら、[引越しの手伝いをしてください]なんかだな。
これなら俺たちにもできるものがありそうだ。
「ああ、その前に住民番号を登録してもらいやすので、ちょっとお待ちくださいね。」
登録が終わったら、早速依頼を見に行こう。
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「はい、ではこの用紙に名前等、必要事項を記入してくだせい。」
(お兄ちゃん、質問も日本語みたいだし、良かったね!)
(ああ、助かったな。)
街の中には見慣れない文字があったのだが、役所では日本語で書けるらしい。
この世界での読み書きは多分、大丈夫そうだな。
「はい、ソウジ様とユイカ様でやすね。後は魔力チェックをしやすので、この金色の水晶に手を当ててくだせえ。」
「? 魔力が登録に必要なのか?」
おい、初めて聞いたぞ。
というか、異世界から来た俺たちに魔力ってあるのか?
「ああ、いえいえ。魔力は誰でも微弱にもっているもんなんで、別に少ないからといって登録できないことはないでやすよ。」
「……じゃあ、どうして測定するの?」
「これは、犯罪防止のためですよ、妹さん。犯罪歴や悪事を働いたことのある人間は、黒く光り、逆に普通の方は明るく光るだけでやす。」
「ふーん、そうなんだ……」
唯香がちょっと心配そうな顔をする。
そりゃあそうだ、俺たち兄妹が異質だって分かるのはあんまりよろしくない。
この魔力チェックにはその可能性がある。
「あとは、魔力が強い人間ほど水晶が強く光るんで、優秀な魔術使いに唾をつけとくためですかね。」
確かに住民番号の登録の時に、それが分かるのならば、街の防衛や治安にも良いだろう。
「それじゃあ、どちらからやりやすかい?」
「……じゃあ、私からやります。」
おお妹よ、兄を案じて危ないことを率先して……。
って、違うな。
あの顔はワクワクドキドキしてる時の顔だ。
大方、自分が魔法少女になれるかもしれないとか思ってるんだろう。
「手のひらをかざすだけでよいでやすよ、どうぞ。」
「ハイ! ん……。」
唯香が金色の水晶に手のひらをかざす。
……うん、ほんのわずかだけど、金色にぼやっと光っているのが分かる。
「……」
「ハ、ハハ……お嬢ちゃん、一般の方はそのくらいで十分でやすよ。普段の生活でもそんなに魔術は使いやせんし。」
職員が唯香のフォローにまわっている…。
哀れ、妹よ……。
「じゃあ、次はお兄さんの番ですかい。」
「あ、はい。宜しくお願いします。」
いやいや、唯香よ。
この世界で変に目をつけられてみろ。
異世界から来てるだろう俺たちには不都合じゃないか。
普通が一番だよ、ふつうが……。
「な、な、これはぁ!!!」
「…………!!!」
目、目がァー!!
金色の水晶はとんでもなく光っている。
あれだ、太陽を直接見ているかのようだ。
直視できない。
「くあ、そ、そんな、これは……!」
「……あ。」
手のひらで目を抑えて様子を伺っていたが、水晶に亀裂が入り始めた。
……うん、割れるな、アレは。
ガシャーーン!!!!!
水晶が割れた。
「……」
「お、お、お兄さん、アナタは一体…!」
妹が何かこっちを睨むように見ている。
こっちを見ないで!!