拘束しマス
あの少年が帰ってきた。
そう、オレはいつかこんな日が来るのではないかと予感していた。
少年が脱走したあの日から。
「……やぁ、おじさん……
……まだ、いたんだ……久しぶりだね……」
「オマエ……」
少年の手には“幹部”の首が何個か握られている。
ホントにやりやがったよ、このガキ。
まさか、“財閥”を壊滅させるまでに至るとは思わなかった。
「……で、オマエさんは、オレも殺すのかい?」
オレは生を諦めた。
こんな怪物、闘って勝てるわけない。
「……まさかぁ……
……おじさんには話し相手になってもらった恩もあるし……
……情報も、くれたしね……」
「……」
数ヵ月前から噂は聞いていた。
“財閥”に様々な実験器具(拷問道具)を卸している業者が次々にヤられていると。
しかも、ヤったのは黒髪のまだ少年だという。
少年は“異常”な怪力と回復力を持っていたと。
……そりゃあ、オメエ。
目の前にいるこいつしか、そんなことできるやついねえじゃねぇか。
「……ハッ!どうだかな。
オマエさん、随分と“シカエシ”できたそうじゃねぇか。
ええ? 『拷問王』さんよ。」
「………………」
自分たちが売っていた拷問器具で殺される。
それが、こいつのやり口だった。
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「お姉ちゃん、ここが“そう”なの……?」
「ええ、ここが確かに、魔都デモリックで間違いないはずなんだけど……」
「……間違いないもなにも、廃都じゃねぇかよ……」
俺たち三人は、魔都デモリックに来ていた。
……はずなのだが、目の前に広がるのは破壊の残滓であった。
「魔都デモリックは、周囲は『魔の森』で囲まれています。
『魔の森』は貴方たちがよく行く『世界樹』と同じ古代文明の迷宮。
まさか、『魔の森』のモンスターにやられたのでしょうか……」
アカリが思案顔で首をかしげる。
「……いや、おそらくそれはない。
魔都デモリックは周囲を強力な封魔装置で覆っていたはずだ。
モンスターが近づける道理はない。」
「でも、お兄ちゃん。
それならこれは、人為的なものってこと……?」
ユイカが心配そうな顔で尋ねる。
「心配すんな、ユイカ、アカリ。
俺たちの目的はタクヤを見つけ出すことだ。
魔都デモリックがなくなってたとしても関係ないさ。
それに、直接闘った俺には分かる。
あいつはこんな程度じゃ、絶対死なない。」
「お兄ちゃん……」
「ソウジ……」
二人は目的地が廃都になって動揺しているようだ。
もちろん、俺だってビックリはしている。
しかし、そんなことで動揺している暇はないようだ。
「…………ほら、やっぱりな。」
「………漱二兄さん……」
廃都の中から現れたのは、虚な目をしたタクヤだった。
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「「タクヤ君!!」」
アカリとユイカが悲痛な声をあげる。
「……」
タクヤは彼女らの方は見ずに、俺の方を見る。
「タクヤ、お前、ここで何をしていた?
……まぁ、大体の予想は着いているんだが。」
「……」
俺はタクヤの様子を伺う。
前に会った時から、特段変化はないように見える。
しかし、俺には分かる。
こいつは、嬉しそうな表情を浮かべている。
「お前、何かいいことあったみたいだな。
……“目的”がついに達成できたのか?」
「……」
タクヤがうつむく。
「……はぁ、兄さんは、何でも……お見通しだね……
そうだよ……僕の“目的”は達成された……
“仕事”も終わった……やっと、休める……」
「……」
タクヤが、今度ははっきりとわかるように笑顔を浮かべる。
「……タクヤ、俺が“それ”をさせると思うか?
……リベンジマッチだ、俺はユイカ、アカリ、そしてタクヤ、お前の為に、俺はお前を止める。」
「……兄さんは、やっぱり、僕の邪魔をするんだね……
……いいよ。
……兄さんを乗り越えて、ぼくは、いく。」
俺はタクヤの言葉を聞いて、全力開放モードに入る。
タクヤも俺の姿を見て、戦闘体制に入った。
「……さぁ、『知力』と『体力』。
どちらが最強か、決着をつけようぜ。」
戦いの火蓋が切って落とされた。
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「おらぁああああ!!!」
「……」
俺は全力開放で『拘束魔術』を再び放つ。
……俺は、便宜上、『拘束魔術』を三つの種類に分けていた。
一つは、初めに会得した“重力で押しつぶす”イメージのもの。
これを使うと、対象は体に絶大な負荷がかかり、地面にくずおれる。
『世界樹』では第三階層まで、これでモンスターを倒すことができた。
二つ目は、ブラーナさんも使っていた“全方位の座標を固定する”イメージのもの。
これは、相手の体を傷つけないので、『拘束魔術』といえばこの形が一般的だ。
だが、これでは全方位を拘束しなければならないため、威力が分散される。
おそらく、タクヤには効かないだろう。
三つ目は、俺のオリジナルだ。
しかも、対タクヤ専用に編み出したものだ。
それをタクヤに行使する。
「! …………!」
「…………上手くいったな。」
今、タクヤの体には“黒い手錠”・“黒い指錠”・“黒い足錠”の三つがかけられている。
これが俺の編み出した“三連拘束”。
重力や全方位の拘束とは違い、人体が動けなくなるのに必要な部分を限定して拘束した。
それによって、威力が格段にアップした。
……“黒い三連星”とか名付けようとしたが、やっぱり止めた。
「お兄ちゃん!!」
「ソウジ!!」
ユイカとアカリが駆け寄ってくる。
彼女らにはタクヤと戦いになるかもしれないと言っていた。
だが、やはり心配だったのだろう。
タクヤが身動き取れず、地に臥せっているのを見ると、駆け寄ってきた。
「……お兄ちゃん、タクヤ君は大丈夫なの……?」
「ああ、これはあくまで『拘束魔術』の亜種だからな。
別段傷つける類のものではないよ。」
タクヤは身動きを取ろうともがいている。
だが、この“三連拘束”はそう簡単に敗れるほどヤワではない。
おそらく、人型ならこれを敗れるものはいないだろう。