ハートマス
聖都セレナード。
この世界には様々な宗教がある。
しかし、どの宗教もこの地が神の住まう都と信じられている。
その為、宗教同士で争いが絶えないそうだ。
「……」
「……」
俺と妹は、二人でこの地にやってきている。
そう、タクヤにこの地にアカリがいるとの情報をもらったからだ。
だが、俺たちの顔は浮かない……
タクヤが、あんな風に変わってしまうとは……
「……ねぇ。タクヤ君、どうしちゃったんだろうね。
また、会えるのかな……」
「……」
ユイカは悲しそうにうつむく。
ユイカとタクヤは同じ中学生だ。
年齢が同じこともあるし、仲も良かった。
「……ああ、きっとまた会えるさ。
……それより、今はアカリのことだ。
アカリだって、俺たちと同じように“異常”な力を持ってるかもしれない。
早く、見つけ出して合流しないとな。」
「……うん、そうだね。」
アカリはそう一度うなづく。
そして、何かを決心したように前を向いた。
……昔からこいつは、前向きで、立ち直りが早かったな。
「……それよりお兄ちゃん! この町スゴイね!
ライデリックよりも広いんじゃない!?」
「ああ、こんなに大きい町は初めてかもな。」
聖都セレナードは学都ライデリックから馬車で1ヶ月の距離だ。
馬車の旅も、この1年で随分と慣れたな。
「おお! お兄ちゃん!
なんかたくさん彫刻が並んでるよ!
ルーブル美術館みたい!」
「そうだな……いや、お前ルーブルに行ったことないだろ!」
ローマ彫刻のような神々しいモニュメントが町のあちらこちらにある。
さすが、宗教の町だ。
「……もぅ! 細かいことは気にしないの!
……ってアレ!? お兄ちゃんアレ見て!!」
「ん? 何だよ急に……って!?」
町の中央に一際大きい彫刻があった。
それは、胸の前で両手を組んでいる。
さながら、聖母マリア様だ。
……しかし、そのご尊顔には見覚えがあった……
「……アカリお姉ちゃん……」
「…………」
知り合いの顔が彫刻になっていた。
いや、何やってんの、アイツ。
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道行く人に例の彫刻のことを聞いてみた。
「あのぉ……あの彫刻って、どなたがモデルなんですか……?」
「?」
裕福そうな商人が歩いていたので聞いてみる。
「! まさか、知らないのかい!?
彼女様はこの聖都セレナードで今もっとも勢力を持っている“ブリリアンス教”!
そのトップであそばされる“アカリ様”の彫刻に決まっているではありませんか!?」
「…………」
「…………」
俺たち二人は絶句した。
幼なじみが随分と有名になっていた。
「……ああ、そうだったんですか。
すみません、俺たち二人はこの町に来たばかりでして……」
「! なるほど、それでは分からないのも無理はありません。
なにせ、半年ほど前にできた宗教ですからな。
……ところで、お二人は“ブリリアンス教”に興味がお有りの様子。
良かったら、この後の集会にご一緒しませんかな!?」
「…………」
「…………」
鼻息荒く、俺たちを招待する商人。
まぁ、何かアカリに近づく手がかりがあるかもしれないからなぁ……
ちょっと怖いが、行ってみるとしよう。
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「「アカリ様! アカリ様!」」
「…………」
「…………」
そこはブリリアンス教の教会のような場所だった。
やたらと広い。
学校の体育館くらいあるかもしれない。
そこでは、アカリの熱狂的な信者?が熱いコールを行っていた。
(ねぇ、お兄ちゃん、どうしてこんなことになっちゃってるんだろうね……)
(さぁ……俺にも何が何だか、さっぱり分からん。)
俺たちがひそひそと今後の方針を話し合っていると、幹部らしき人が壇上に出てきた。
「……皆の者!! 静まれぃ!!」
「ざわ、ざわ、ざわ……」
なんだか、やたら装飾華美な服装をした人だな。
あのおっさんがおそらく幹部なのだろう。
「皆の者、本日は我がブリリアンス教の集会にようこそ集まってくれた。
……本日はなんと!多忙な中、『聖母』様がお越しになられている!!
皆の者! 有り難いお言葉を真摯にお聞きするのだ!」
「「うおおおおおおおおおおおぉおおお!!!」」
熱狂が凄い。
てゆうか、暑苦しい。
宗教というか、あれだな。
アイドルのファンみたいな感じだ。
「「アカリ様! アカリ様! アカリ様!」」
信者がヒートアップしている。
すると、奥から和服をきた美女が現れてきた。
「皆の者。静まりなさい。
本日は良く集まってくださいました。
私がブリリアンス教の教主、アカリでございます。」
「「わぁああああああああああああ!!!」」
大歓声である。
しかし、あの顔はどうみても俺たちの知っている灯璃だな。
名前も同じだし。
……どうにかしてこっちに気づかないだろうか?
「…………!!」
あ、こっちを見て一瞬固まった。
俺たちはこの世界では珍しい黒髪だから、目立ったのだろう。
心なしか、冷や汗をかいているように見える。
「ほ、本日はブリリアンス教の教えを皆様にお伝えしたく存じます。
最後まで、どうぞご清聴ください。」
「「きゃぁああああああああああああ!!」」
アカリの演説?はほんの短い時間で終わった。
というか、今、女の歓声が聞こえたな。
見渡せば、何も信者は野郎だけではなく、老若男女そろっている。
……ふむ。
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集会が終わり、俺たちは楽屋?のような裏方スペースに行った。
当然、信者たちが詰めかけていたが、ちょいっと『拘束魔法』を使った。
信者たちが動けないでいる間に、すいすいとアカリの元に向かう。
「ねぇ、お兄ちゃん。アカリお姉ちゃん、凄かったねぇ~。
何でこんなことになってるんだろう?」
「さぁな。……おそらくは、俺たちと同じようなもんだろう。」
『モラル』。
アカリが某人生ゲームで極フリしていたステータスだ。
おそらく、人徳やら信頼といったものが、この世界で加速されたのだろう。
その結果が、新興宗教の教主か……おそろしい。
「な、何だね!? 君たちは!?」
あ、最初に壇上で音頭をとっていた偉い人だな。
この幹部らしき人まで来たということは、アカリは近くにいるだろう。
「!! 待ちなさい! その者たちは、私の知り合いです!!」
奥の扉からアカリが出てきた。
ほらな。
「し、しかし『聖母』様。
こんなどこの骨ともしれぬ者をお通しするわけには……」
「黙りなさい。私が良いと言ったのです。」
アカリが幹部らしき人を怒鳴りつける。
なんだか、俺の知ってるあいつとキャラが違うな……
……いや、キャラをかぶっているのか。