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再会しマス

「ここが、翡翠のドラゴンの生息地……キレイ……」

「ああ、そうだな……」


俺たち兄妹は、ライデリック学都の南にある、峠に来ていた。

ライデリックの南を除く三方角は陸地に面しており、南は海に面している。

この峠はちょっとした観光名所にもなっている。


この峠から少し離れた一般人立入禁止の絶壁が今回の目的地だ。


「うへぇ……この崖は高いねぇ……」

「おい、あんまり覗き込むと落ちるぞ。」


ここら一帯は、翡翠色をした岩石で出来ており、幻想的な光景が広がっている。

もっとも、崖の下は海なので、落ちたら一巻の終わりだが。

……意外と、ユイカなら大丈夫かもしれないな。

『豪運』だし。


「ねぇ、お兄ちゃん、何で翡翠のドラゴンの素材が必要なんだっけ?」

「ああ、とある魔道具を作るのに必要でね。

 これだけはちょっと旅に出る前に作っておきたかったんだ。」


翡翠のドラゴン。

ライデリック地方では強敵に該当するモンスターだ。

しかし、今の二人の敵ではない。


「じゃあ、パパっとお願いね。私あとで観光名所の峠の方にも行きたいから。」

「ああ、弱めの『拘束魔法』で動けなくして、素材だけちょっともらうとするか。」


---


「……あのドラゴンさん、ちょっと可哀想だったね。

 悲しい事件でした……」

「……」


翡翠のドラゴンから無事に素材はとれた。

しかし、思った以上に暴れてしまい、素材のウロコが上手く取れなかった。

最終的に、何十枚ものウロコをはぎ、やっとキレイな状態のものを手に入れたのだ。


「……お兄ちゃん、強いのは分かるけど、もっと人の気持ちも考えてよね!」

「……ドラゴンは人じゃないだろ……」


妹に無駄に説教をくらいつつも、俺たちは峠に向かった。

夕暮れどきだというのに、大分観光客が残っている。


「うはぁ……ここが名所の峠かぁ……素敵だなぁ……」

「うん、この世界は本当に美しいものが多い……」


夕焼けに浮かぶ月と、どこまでも広がる水平線。

空が真紅に染まっており、まるで燃えているようだ。

なんだか、地球の夕焼けと似ていて……懐かしいな……


「ねぇ、そういえばお兄ちゃん、さっきのウロコは何に使うの?」

「ああ、それは……」


……その先を、俺は言うことができなかった。

とてつもないプレッシャー、そして悪寒。

それが一気に襲いかかってきたからだ。


「!」

「!」


ユイカも気づいたようだ。

これは……この観光客の中から発せられているのか?


「お、お兄ちゃん、これ、いったい……?」


妹がガタガタと震えだしている。

当然だ。

こんな得体のしれないプレッシャーにさらされれば。


「ッツ! あれか!」


観光客の中に、群青色のローブをかぶった奴がいる。

後ろ向き。

背丈は小柄だ。

このプレッシャーはそいつから発生している。


「誰だ! お前!!」


群青色のローブの奴はゆっくりとこちらを振り向いた。


「え……ウソ…………」

「お前…………」


俺と妹はそいつの顔を見て絶句する。

どう見てもまともなオーラではない。

あらゆる凶兆を孕んだ雰囲気を持っている。

そんな奴は、俺たちの知り合いだった。


「…………漱二兄さん……」


タクヤが、そこにいた。


---


「え、拓矢君……? ど、どうしたの……?」


唯香が戸惑うのも無理はない。

実際に二人のどちらかに会ったら飛び上がるほど嬉しいだろう。

そう思っていた。


しかし、今のタクヤの雰囲気は昔のものではない。

正直、タクヤの幽霊が現れたような感覚さえ覚える。

知り合いに会っただけなのに、ずっと自分の体が警鐘を鳴らしているのだ。


「タクヤ、やっぱりお前も、この世界に来てたのか……」

「……」


タクヤは答えない。

昔のあいつなら、人懐っこい笑顔で「漱二お兄ちゃん」と言いながら飛び込んできたはず……

一体、この世界で何があったというんだ。


「拓矢君……。何があったか分からないけど、無事で良かった……」


唯香が初めのショックから立ち直ったのだろう。

唯香は拓矢と仲が良かった。

拓矢のことを、一番心配してたのは唯香のはずだ。

どんな形であれ、会えたのが嬉しいのだろう。


「……無事?……」

「……」


しかし、タクヤは答えない。

ちょっと呟くだけで、それ以外の反応を見せなかった。


「タクヤ、久しぶり。

 随分様子が変わってしまったみたいだけど、会えて嬉しいよ。

 そういえば、アカリのやつのことを知らないか?

 あいつもこの世界に来てるかもしれないんだ。」

「……」


タクヤの様子がおかしい。

でも、灯璃のことを聞くチャンスかもしれない。

……おそらく、魔法か洗脳。

タクヤはどちらかにやられている恐れがある。


「……灯璃姉さんなら、“無事”だよ……僕も会えて嬉しいよ。漱二兄さん、唯香……」

「拓矢君……」

「タクヤ……」


……やっぱり、灯璃もこの世界に来ていた。

タクヤの方も、会話はしっかりとできるようだ。

これなら、回復の見込みはあるかもしれない。


「タクヤ、お前、もしよかったら俺たちと一緒に来ないか?

 金はある。

 お前は何も心配しなくていい。

 ゆっくり休んで、それから灯璃に会いに行こう。

 俺たちは助け合って生きていくべきだと思うんだ。」

「……」


タクヤは答えない。

だが、考えてるふりはしてくれているようだ。


「……うん、いいよ。

……でも、その前に仕事を終わらせちゃうね。」

「……“仕事”?」


タクヤがやっと答えてくれた。

しかし、仕事ってなんだろう?


ドン!


「! おい、ガキャ……!

 こんな人混みの中でつっ立ってんじゃじゃねぇぞ、コラァ!?」

「!」


立ったまま俺たちと話をしていたせいだろう。

明らかにカタギではない人間にタクヤがぶつかってしまったようだ。

早く誤解を解かねば。


「おい! ! ……ッテエなぁ!??

 ……ぁ。」

(ケタケタ)


俺が助けに入ろうとしたその瞬間、

タクヤの腕が男性の胸から飛び出した。


ピチャ、ピチャ。


心臓から、血が、滴る音がした。

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