籠の女
何をすることでもなく、何かされることもなく、私はここにいる。
いつから、ここにいるのか、考える事も飽きた。
蒼に染る頃に起き、食事が運ばれ、それを食し、空を眺め、住む建物を目的もなく歩き、気が向けば書を読み、時には書き、紅に染まる頃にまた食事が運ばれ、それを食し、汚れてもいない身体を洗い、漆黒に染まる頃、眼を閉じる。
どれだけ経ったのか知らない。
…違う、知らないのではなく、知ることを諦めた。
珍しく主が私に声をかけた。何時ぶりだろう。内容は特に覚えていない。
ただ、一人の面白い男を見つけたと満足していた。
私には関係のない話であったが、適当に相槌をこなし、その業務が終えるのを待った。それが、短絡に彼との会話を終える事を知っていたから。
彼は私に何も求めなかった。
私は人形
一人の男性が、LIFE bankという銀行に採用された記事を見たことがある。
特に騒ぐ事でも無い他愛の無い記事なのに、私は歓喜した。
「飛んだ鳥がいた。」
知りもしない男性に惹かれた。確かに珍しい採用であることは理解しているのだが、心が納得しなかった。
私は、一体なんなのだろう。
この世界の仕組みは知っている。
なのに私は、何もせず、寿命があるのだろう。…これはわからない。
「私は飼われた鳥。空へ飛ぶことは出来ない。でも、餌を食べる自由はまだある。」
窓から外を眺め、一つの覚悟を決めた。
「空は飛べなくても、塀は飛べるはず。」
会いに行こう。
私は飛べない。
飛んだ人に餌を提供しよう。