起業家
「先日、お話しいただきました起業ですが、当銀でも内部で高い評価を得まして、融資することと決定しました。」
「それは、大変助かります。起業するには、御社の認可がないといけないもので。これで、世の中の寿命を買えない人たちが救えます。貴方にこの話をして良かった。」
「いえ、私は貴方の熱い思いに同調したまでですよ。この閉鎖された世界には、そろそろ変革が必要でしょうに。」
「そう言っていただけると非常にうれしく思います。…それで融資の方ですが」
「10年一括返済の19億540万円に利息として2億3000万円を足した21億3540万円…貴方の寿命にして35年分です。」
「35年?そんなに、私の価値はそんなに少ないのかね?」
「いえ、そうではありません。国際寿命売買法をご存知ですよね?規定でどのように蓄えがある方でも融資できる金額は20億円と決まっておるのです。」
「それは知っているが、私は世の中を変革する、そのことに費やして、長い年月をかけているのだよ。君の給与では決して買えない50年の寿命を得て!」
「それは、存じ上げております。ですので、差額の1億3540万円は私の寿命を担保としております。…私は貴方に同調したのです。」
「だが、私の寿命50年の内35年分の融資は少なくないかね。」
「この世界は1割の富豪、1割の普通、8割の貧相に区分けされております。失礼ながら、貴方は普通に分類されております。20億の融資自体、そもそも受けられませんよ。」
「…ありがとうございます。」
「そこに、私の個人資産も投資したのです。これ以上は、余りにも我儘過ぎませんか?」
「いや、だが私は…」
「起業されるのは、結構。だけど、誰もが寿命を投資しているはお忘れないように。私もその1人なのです。」
起業申請をした老人は頷くと、融資金を手に持ち、外へと姿を消した。
この融資が僕の破滅へ歩みとは、まだ知らなかった。