表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
36/101

第3章 風の城の住人たち 10

 七都は、慌てる。

 アーデリーズ、まさかそういう反応をするなんて!


「ならないよ! 魔王さまなんて背負えない! あなたがそんな軽々しいこと言わないで!」


 七都が叫ぶと、アーデリーズは神妙な顔つきになる。


「そうよね。ようく考えなきゃね。悪かったわ」


 彼女はそう言ったあと、付け加えた。


「でも、私はナナトがリュシフィンになってくれたら、個人的には嬉しい……。全然知らない人がリュシフィンになるよりはね。ナナトのことが好きだもの。一緒にいられる時間が増えるもの」


「私は、ルーアンは知ってるよ。昔、風の都を訪れたとき、彼は何かと気にかけてくれた。彼がリュシフィンになってもいいと思う。彼なら遜色ないしね。容姿も雰囲気も、私などよりずっと魔王らしい。子供心にも、彼に憧れたものだよ。そのとき、彼は確か公爵ではなく、王太子だったな」


 ジエルフォートが言う。


「あら、そんなにすばらしい人なの?」


 アーデリーズがジエルフォートを見上げた。


「会ったら、きっと驚くさ。それくらい彼は美しい。ナナトに似ているしね」

「まあ。風の都に遊びに行くのが楽しみだわ」

「では、いずれそちらを訪問する日を楽しみにして、我々はこれで失礼しよう。ゆっくりお休み、ナナト」

「ありがとうございます、ジエルフォートさま。エルフルドさま」


 七都は、再び魔王たちの映像に向かってお辞儀をしかけたが、ジエルフォートに依頼しなければならないことがあったのを思い出す。


「あの、ジエルフォートさまっ」

「ん?」

「掃除機がほしいんですっ!」


 ジエルフォートとアーデリーズが、同じような呆気に取られた顔を見合わせる。


「掃除機?」

「そのう。この城にあるのは古いものばかりで、お風呂用は壊れているし……。ルーアンのお屋敷用にも、たくさん欲しいんです」


 ジエルフォートは、おもしろそうに笑う。


「わかった。最新式の掃除機を風の都に送ってあげよう」

「ありがとうございます! 代金は宝石でいいですか?」

「いいよ、代金なんて。今回は、きみの帰還祝いの贈り物にしよう」

「ありがとうございますっ!」


 七都は思わず、魔神族のお辞儀ではなく、いつも先輩や大人たちに行っているように、ぺこりと頭を下げてしまう。


「あきれちゃうわ。光の魔王から風の姫君へのお祝いの品が、掃除機?」


 アーデリーズが溜め息をついた。それから彼女は、ふふっと笑う。


「あなたたちらしいわね。でも、ナナト。また魔王にお願いをしたわけね」

「あ……。ごめんなさいっ!」


 七都は口を手で覆い、慌ててうつむいた。

 そうだった。魔王さまに気軽に願い事をしてはいけないのだった。

 まずかったかな……。


「いいよ。たとえ掃除機でも、ナナトに何か頼まれるのは、私は嬉しい」


 ジエルフォートが笑顔で言った。アーデリーズも、いたずらっぽく微笑む。


「そうよね。ナナト、また私にも願い事していいわよ。じゃあね」

「アーデリーズ……。ありがとう……」


 七都は、アーデリーズに伝えなければならないことがあったのを思い出したが、それをここで言葉にすることはやめておいた。

 ジエルフォートさまが隣にいるのだもの。また二人だけのときにね。

 アーデリーズ。女性の魔王さまでも、赤ちゃんは出来るかもしれないよ……。

 それとも彼女は、七都の話の中のあることを敏感に理解したかもしれない。

 風の魔王であった七都の母が、七都を生んだという紛れもない事実を。


 白い光は二人の魔王の映像と共に消え去り、それまでの部屋の風景が戻ってくる。

 猫の目ナビは何事もなかったかのように、静かに七都の手の上に乗っていた。


「あ、そうだ。ナイジェルのこと、聞きそびれちゃった……」


 七都は、金色の猫の目を見下ろして、呟いた。彼のことを聞かずに済ませてしまったことを、少し後悔する。

 二人は水の都に行って、ナイジェルに会ったのだろうか。

 そして、ナイジェルに機械の義手を装着してくれたのだろうか。どんな具合だったのだろう。

 まあ、いいや。アーデリーズ、また連絡してくれるだろうし。

 このナビ、当然、こちらからも連絡出来るに違いないもの。

 それより、ナイジェルにまた会えるよね。

 銀色の機械の義手をした、素敵な魔王さまに……。

 床に突っ伏していたナチグロ=ロビンが、むくりと起き上がる。


「あー、びっくりした。今の、魔王さまだよね。二人とも!」

「うん。地の魔王エルフルドさまと、光の魔王ジエルフォートさま」

「七都さんの交友関係には、ほんと驚かされるよ」


 彼は、ばりばりと後ろ足で首のあたりをかきむしった。


 七都は、ゆったりと食事をし、お茶を飲んだ。

 空腹がある程度満たされたせいなのか、それとも薬草のお茶に眠くなる成分が入っているのか、食事のあと、すぐにうとうとしてしまう。


「寝る? まだ夜になったばかりだけど」


 ナチグロ=ロビンが、七都の手から転げ落ちそうになったカップをあやうく受け止めて、言った。


「うん。疲れちゃった……」


 いつの間にか、寝間着らしい薄地のドレスがベッドに置かれている。ナチグロ=ロビンが持ってきてくれたらしい。

 七都は、少年の姿になった彼に手伝ってもらいながらドレスを脱ぎ、のろのろと寝間着に着替えた。そして、ベッドにもぐりこむ。

 空は暗い藍色に変化し、その奥には月が浮かんでいた。

 ブリリアンカットの巨大な窓は、ぼんやりとした光を宿した不思議な色の宝石に変化し、その色と光は短い時間の間にも、刻一刻と微妙に移り変わって行く。

 けれども大量の眠気は、その美しさをも簡単に凌駕してしまうくらいに襲って来た。

 ナチグロ=ロビンが猫に戻り、七都の首と肩の間のスペースに、すっぽりと入ってくる。


「あったかーい」


 七都はナチグロ=ロビンに手を伸ばした。


「ごろごろ言ってる」


 元の世界ではめったに喉を鳴らさない彼が、うるさいくらいにごろごろ言っているのが微笑ましい。やわらかい毛皮をまとった何か小さな機械のように、音は鳴りやまなかった。


「ね。朝起きたら、男の子の姿になってたり、ってのはやめてよね」


 七都は、彼の銀色のひげをつまんでみる。


「そんなわけないだろ」


 猫の彼が、ぶっきらぼうに言った。


 明日は……。

 朝、気分がよかったら、あのオサカナゲームをしよう。剣のお稽古もしなくちゃね。

 それから、ルーアンにシイディアのところに連れて行ってもらって……。

 そのあと、あの幽霊が閉じ込められている扉に案内してもらって……。

 ああ、明日はどんなドレス着て行こう。

 自分でコーディネイトしなくっちゃ……。

 ルーアンにまた似合ってるって言ってもらいたいな……。

 でも、シイディアって、どんな人なんだろ。

 それに、あの扉の向こう側には、何があるんだろう……。

 それよりも、それよりも……。

 おばあさまって、どんな人だったんだろう。

 無理やりおじいさまにルーアンから引き離されて……。

 おじいさまと結婚したあとも、やっぱりルーアンのことを愛していたのかな……。


 いろんなことが頭に浮かんでは、深い靄の中に消えていく。

 七都は、ナチグロ=ロビンのあたたかい体温とごろごろ音を耳の横に感じながら、心地よい眠りに落ちる――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=735023674&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ