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見守りうさぎ

作者: ひだまり

このおうちに僕が来たのは半年前、その前はキチガイの住むおうち、その前はママと二人暮らし



引っ越しは何度もしているけれど、いつもママは僕と一緒、だからきっと、捨てられたりしている訳じゃないみたい



ママは誰と暮らそうと僕と二人だろうと、いつも変わらず僕の事は放任主義、無理に牧草を食べさせようともしないし好きな物だけを僕にくれる



僕の食の進み具合でその日の僕の果物は決定されるんだけど、まぁこの8年間、一貫して冬から春はいちごとみかん、夏は桃、秋だけは僕の好きな果物がみつからないのでりんご、そしてそれに加えて1年を通してキャベツと、僕たち用に売られているクッキーやゼリー、ドライフルーツや乾燥したお豆腐なんかが僕のメニュー



ケージにいれられる事もなくていつも自由、僕は世間で言うところの放し飼いというのをされている、このおうちの中だけに限ってだけど



前のおうちのキチガイは僕のりんごを食べる音や歩く爪の音がうるさいと毎日発狂して僕に文句を怒鳴っていた、でも僕は何も悪くない、だって別に僕が眠っていて音を立てなくてもキチガイは発狂していたから



ママは僕にごめんねと言いながら、僕に暴言を吐くキチガイといつもケンカをして、自分は殴られても僕の事だけは守ってくれていた



どうしてあんなキチガイと一緒に住んでいたのかはわからない、今一緒に住んでいるパパは僕の事を好きでいてくれて、だから僕もパパが大好き、パパは僕に、毎日おやつをくれるし頭を撫でてくれる、スマホの中のほとんどが僕で埋まるくらいの僕の写真を撮るのは、ちょっと嫌だけど



ママがお仕事でお留守の時は、男同士、仲良く暮らしている、ママはついに、一緒に暮らす人をナイスチョイスした



そんなパパでも最初、ママとケンカをしていたのを僕は覚えている



あれはまだ、僕たちがパパのおうちに引っ越してきてすぐの頃、どうやらパパは、ママと暮らす事に決めたのにまだ他の女の人とも繋がっていたみたいで、ケンカしていた



ママはすぐに家を出るとパパに告げ、僕の荷物までまとめにかかっていたから正直僕はがっかり、あーあ、せっかく優しいパパなのに、ママがお仕事の時はパパと一緒にいられて、僕はさみしくなかったのに



だけどママに僕の言葉は通じない、ママが出るならもちろん僕も一緒、これは仕方ない、自分の住処も食べ物も、全ては飼い主の一存で決まる、それがペットの宿命だから



しょんぼりした気持ちで二人を眺める僕、聞き耳なんて立てなくてもよく聞こえる僕の長い耳は二人の会話を余すところなくキャッチ、どうやらパパは謝っていて、行かないでとママを引き留めてる



いいぞいいぞ、がんばれパパ、僕はちょっとした期待を胸に、成り行きを見守る事に



そして二人は色んな約束をして仲直り、それ以来ケンカもなくて、僕たち3人は本当に仲がいい



「不倫する女なんて、どこがいいんだろうね」



ある日ママが僕に言う



僕には「不倫」の意味がわからない、だけどママが話し続けるから、耳をママに向けてみる



そういえばケンカ中も、その言葉が出ていたな、確かパパはそれに対して、「もちろん本気なわけないし、なのに相手が本気になってきて嫌気がさしていた」と言っていた



どうやら前のケンカの原因の女の人は不倫らしい、僕は不倫さんていう名前なのかと思っていたけど、違うみたいだ、でもパパは確か、その人の事を「不倫女」って呼んでいた、だからやっぱり、そういう名前なのかも知れない



よくわかんないな、でもママ、パパはもうその人の事嫌いだし、ママとずっと一緒にいるから許してあげなよ



そう言いたいけれどやっぱり僕の言葉はママには通じない、仕方なく僕は、黙ってママの話に耳を傾ける



「家族の為に働いてくれる旦那さんがいるのに、平気で浮気して、自分は何も悪い事してないって顔して旦那さんの事騙してるんだよ」

「それもね、変なチャットサイトで男探しして、本当に気持ち悪いね」



すごい悪口を言っているのに、相手が僕だからかママの口調は優しい、なんだったら僕の

頭まで撫でだす



「自分は平気で浮気する女ですって身をもって証明してるのに、離婚するから一緒に子どもを育てて下さいなんて、どういう神経してたらそんな事言えるんだろうね」



ママはなおも穏やかに、僕の頭から身体まで撫でる、こういう時のママの気持ちを僕はわかってる、だてに8年も一緒に暮らしていない、言葉なんて通じなくても、わかるんだ、ママは、寂しがってる



僕はママに甘えてみる、だってママは僕がいれば寂しくないから、甘える為に頭を床につけて、もっと撫でてとおねだりしてみる



「ふふふ、かわいいね」



ママが言う、ああ良かった、ママのご機嫌が直った



パパはメガネとかぬいぐるみとか変なかぼちゃの編み物とか、ネックレスとかママの物じゃない服とか色んな物をあのケンカ以来捨てて、どうやらあれらは不倫女さんの思い出らしい、ママはそういうのが目に付かなくなってホッとしていたのに、またパパの誕生日にプレゼントが送られてきて、ママは悲しそうにしていた



もちろんパパは、すぐにそれを処分していたけれど



僕はパパが好きだけど、やっぱりママが大好き、今の所は大丈夫そうだけど、今度ママに悲しい思いをさせたら足でもかじってやろうと思っている



ママが穏やかだとおうちの中も本当に穏やか、パパとママの笑い声を聞きながら居眠りする僕の指定席は今はもっぱらコタツの中で、いつもくっついて座っているパパとママの足にそっとちょっとだけ寄り添いながら僕も団欒の仲間入り



そうして思い出す、あのキチガイの館



ママはいつも悲しそうで、「キチガイは病気だから仕方ないの、ごめんね」と僕に話しかけていた

やっぱり穏やかに僕の頭を撫でながら



今は幸せそうなママの顔、お腹の中にはパパの赤ちゃんがいて、どうやら僕はお兄さんになるらしい



ちゃんと僕の言う事を聞く様にしつけなくちゃ、僕と一緒に、ママを安心させてあげなくちゃいけないからね



弟なのかな妹なのかな、今から本当に楽しみだ



































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