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伝えたい想い  作者: Santa
8/11

試験の勉強



『それと、本日から試験期間のため部活動や委員会は基本的に休みとします。それでは、今日の委員会はこれで終了します。ご苦労さまでした。』


学級委員長の号令とともにザワザワとする教室。


「さ、教室戻ろうか。」


隣に座っていた美里くんに促され、ふたり並んでしんとした廊下を歩く。

楽しかった自然教室も終わり、気が付けば6月になっていた。人見知りの私が男の子と2人で廊下を歩ける日が来るなんて‥ちょっと成長したかな、なんて。



「のんちゃん、もう帰る?ちょっと勉強していかない?」



教室へ戻り自分の机で荷物をまとめていると、カバンを持った美里くんが私の前の席に腰掛けてこちらを覗き込んできた。


「え‥あ、うん。」

「こんなに静かな教室って珍しいね。」


ふ、と微笑む彼の目には夕日が差し込んで、薄茶色の瞳がきらりと光る。

とくん、と高鳴る胸の鼓動を隠し「うん、そうだね。」と答えれば、よく少女漫画で見る光景が目の前にできあがっていた。


机を向かい合わせにして私の正面に座り「これじゃ、はかどらないかな。」と苦笑する。

そんな顔も素敵です、本当に目の保養になるなんて言えないけど、心で思う分にはいいよね。なんて考えながら「そんなことないよ。」と返事をする。


「一回やってみたかったんだよね、誰もいない教室で‥ってやつ。」


と言ったきり、彼は問題集にとりかかる。

それにつられて私も問題集を開く。




どれくらい時間がたっただろう。カチカチという時計の音とシャッシャッと紙の上を滑るシャーペンの音がとても心地良い。

試験期間は14時半には授業が終わりほとんどの生徒が帰宅し、ごくごく一部の生徒は補習授業を受ける。

ふと顔を上げれば、窓から流れ込む風にさらさらと揺れる髪。‥‥あれ?根本が茶色い?



「あのー、希美さん?」

「は、はいっ?」



慌てて伸ばした手を引っ込める。危ない危ない、髪の毛に触れるところでした、とドキドキしている私の前にいる彼は、問題集から顔も上げず、口を動かしながらも問題を解いていく。


「あんまり見られると緊張するんだけど。」


と言ってパッと上げた彼の顔は、思いのほか私のそれと近い距離で、反射的に仰け反った。


「あ、あの‥ごめんなさい。」

「いや、別に謝らなくてもいいんだけど。」


なんかあった?と言う彼は、心なしか顔が赤く見えたが、きっとこれも夕日によるものだろう。


「ねぇ、美里くんって髪‥染めてるの?」

「え、あぁ。俺、本当は色素薄くてさ。最初は黒くないといけないかなぁと思って黒染めしたんだけど、この学校緩いみたいだからもう染めないよ。」

「ふーん、そっかぁ。」

「少しずつ色も抜けてきたしね。」



そう言われてみればそうだ。もう後ろ姿で彼と間違えることは無さそうだ。それで瞳も茶色いのね、と納得。見つめられると吸い込まれてしまいそうなあの漆黒の瞳とは違‥‥ってダメダメ。すぐに羽瑠と比べるのやめなきゃなのに。





‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥






「ねぇねぇ、じゃあこれは?」

「これはさっきの応用でさ、ここからここまでがαで、問5と同じように解いてみて。」

「うん‥え、まだ答えでないよ?」

「そうそう、そこから問8の公式を使って、そのあとさっき導き出した数式を代入して‥」

「えっと‥‥‥‥あ、できた!さすが羽瑠ちゃん!でもこれが試験に出ても自分でできる気がしないや。」



そう言って問題集を片付けようとしたとき、私は気付いてしまった。あれ、今さらだけど羽瑠ちゃんがいつもより近い。近いよ、羽瑠ちゃん!羽瑠ちゃんの声が斜め後ろ‥いや、もうほとんど耳元でするよっ!気付いた瞬間に、心臓がバクバクしてきたよ?!


「あれ‥みいこれだけ?」

「うん、あとは美里くんに教えてもらったの。」


いいでしょー。と笑って誤魔化し、少し距離をとる。もう心臓もたない。



「美里‥」

「そうそう、一緒に学級委員やっててね、今日も委員会のついでに勉強してたんだ。」

「そいつと仲良いんだ?」

「え、羽瑠ちゃんなんか怒ってるの?」

「怒ってないよ。」


絶対怒ってるよー。何年あなたの近くに居ると思っているんですか。

でもなんで?私なにか悪いことした?



「なんで怒るの‥ごめんなさい。」

「いや‥ごめん。」



そう言ってふう、と小さく息を吐いて、私の頭を撫でる。もういつも通りの彼に戻っている。



「なんで怒るかなぁ。羽瑠ちゃんだって彼女居るくせに。それに美里くん好きな子いるみたいだし。」

「は?」

「え?気になる子居るって言ってたもん。だから、好きになっちゃダメなの。」



不毛な片思いは辛いだけだしね。それはもう羽瑠ちゃんでこりごりだよ、って言ってやりたい。言えないけど。



「ふーん‥」

「じゃ、羽瑠ちゃんありがとう。」

「いや、これくらい構わないよ。」



ふ、と目を細めて笑う彼の瞳は黒く澄んでいて、一見冷たそうに見えるその奥にある優しさを私は知っている。



「みい?そんなにじっと見つめるなよ。」

「えっ‥あ、ごめんごめん。それじゃ、私は帰ります。」

「おう、またいつでも来いよ。」

「う、わっ!「みいっ!」」



部屋からベランダへ出ようとしたところで躓き、カシャンと言う音を立てて勉強道具が散らばった。

一方で私の身体はと言えば、後ろから回された腕で支えられていた。


後ろから回された腕?ちょっと!は、は、はるちゃんの手が!胸に当たってるよ?!ど、どうしようっ!?心臓も異常な早さで脈打ってるよ?!ていうかなんか背中に羽瑠ちゃんを感じるよ?!



「あ、羽瑠ちゃん‥ごめんなさい。」

「気を付けろよ?怪我したら心配するだろ。」

「うん、ありがとう。じゃあ、おやすみなさい。」

「ん、おやすみなー。」



散らばった物をかき集め、なるべく平静を装い部屋を後にした。




どうか羽瑠ちゃんにバレていませんように。






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