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伝えたい想い  作者: Santa
7/11

新緑の季節‥‥other side





「ナイトおかえりー。」


部屋の扉を開けると茶髪で長身の男が無駄にさわやかな笑顔で俺を出迎えた。


「だからその呼び方やめろよ。プリンスって呼ぶぞ。」

「お、いいねぇ。」

「お前には羞恥心ってものが無いのか。」

「いやいや、プリンスとか呼ばれてみたいじゃん。」


そう言って楽しそうに笑うのは、長瀬龍也ながせたつや。まだ知り合って1ヶ月しかたたないが、部活も同じだからか気付けばいつも横に居る。そしてこいつが2組のプリンスと呼ばれているせいで、俺はナイトだなんて呼ばれる羽目に陥った。


こいつが王子だのプリンスだの呼ばれるのは、男の俺からしてもなんとなく分かる。だけどなんで俺がナイトなんだ‥


気付いたら俺は、『はぁ‥』とため息を漏らしていたようだ。



「ん?なんかあった?」

「プチ修羅場?」

「はぁ?」



───────────────



『あ‥あの、羽瑠くん‥』

「はい。」

『す‥好きですっ!』

「あ‥うん。でも俺、付き合ってる子居るし。ごめんね。」

『知ってるけど‥その‥あの‥』

「なに?」

『あ‥‥‥ごめんなさい。それだけです。』



───────────────




「って感じだったんだけどさ。」

「え、そんなに冷たい言い方したのかよ。」

「え、そうか?でもそうなんだよ、それなんだよ。ちょうど綺香に出くわしてさ‥『どうしてあんなこと言うの?』って言われて、じゃあなに?もっと気を持たせる言い方すれば良かったわけ?ってなるだろ。」



「は?お前、綺香ちゃんにもそんなこと言ったの?」


‥‥は?なんで俺が責められてんの?


「じゃあなんて言えばよかったんだよ。」


と普段より棘のある言い方で聞けば、呆れたと言わんばかりの表情でこちらを見ているプリンスと目があった。


「これだからナイトは。そういうときは~‥『ありがとう。気持ちは嬉しいんだけど‥俺、好きな子が居るんだ。今はその子のことしか考えられないから、ごめんね。』とかなんとか言っておけばいいんだよ。」

「いや、俺と同じじゃん。」

「Nuance!‥言い方っていうか、雰囲気っていうか‥分かるだろ、賢いんだから。それから、大事なのはありがとう、だ。」


こいつ発音が良すぎる‥それに俺より賢いヤツに賢いって言われてもなんだかバカにされている気分になる。



「お前はいいよな、プリンス。」

「はぁ?」

「俺もお前みたいな顔だったら良かったのに。」

「は?なに?急にどうしたの?」


そう言ってケラケラと笑う。ここに女子が居たら黄色い声があちらこちらで聞こえるに違いない。


「そんなに笑うことないだろ。」

「いやいや、お前だってかっこいいよな?俺たちは確かに部類が違うけど。」

「俺が中の上だってことは分かってる。」

「いや、上だからな。間違いなく。それになぁ、お前みたいに少し無口でミステリアスな男に惹かれる女の子は多いぞー。色素が薄い俺より、目も髪も黒いお前のほうが好青年っぽいしな。」

「でも、そういう方が好きなんだよ。」

「え、誰が?」

「あ?」



やべぇ、



‥‥‥‥墓穴。




「なぁ、なぁ、誰が誰が?」



ただでさえ大きい瞳をきらきらと輝かせてこちらに向けてくる。その姿はなんだか大型犬のようで、尻尾がついていたらはちきれんばかりに振っているのではないだろうか。‥意地の悪いヤツめ。



「いや、別に。」

「綺香ちゃんじゃないよな。あの子、聞いてもないのに俺に向かって『私は羽瑠の方がタイプなの』って言ったもんな。」



あいつそんなこと言ったのかよ。てか、しゃべり方真似すんなよ、似てねぇ‥



「おい、黙ってないでなんとか言えよ。お前、まさか他に好きな子でも居るのか?」



「いや‥居ない。」



そうだ、居ない。いないってことにしよう。どうせ彼女のことは諦めなきゃいけないのだ。


さっきも、こいつのように可愛い顔をした男と楽しそうに話してたしな。俺もこういう顔に生まれていたら‥


いや、違う。そうじゃなくて。



それに、俺は綾香のことが好きだ。一緒に居て楽しいし、可愛いとも思う。



「おい、羽瑠。じゃあさっきの言葉はどういう意味だよ。」



1人で思考を巡らせていると、目の前のプリンスが痺れを切らして口を開いた。不可解そうな表情を向けてくるこいつは、まだ納得していないようだ。それもそうか。



「だから、所詮人間ってやつは皆、ないものねだりなんだよってことだろ。」

「どうしたらそんなに話が大きくなるんだよ、羽瑠のバカ。」


でかい図体に似合わず表情がころころと変わるこいつを見ていると、本当に飽きない。こんなにも居心地のいい友人は今まで居なかったように思う。


だから、こいつにウソをつくのは少々‥罪悪感を抱く。



「あはは、お前は本当に男にしておくのもったいないくらい可愛いところあるよなぁ。」


「は?!お前やめろよ、気持ち悪いっ!」











いつか、彼女のことを思い出にできたら。


そのときは今日のことを話そう。


そして笑い話にするんだ。


そのときこの目の前のプリンスはまだ横に居てくれるのだろうか。


一緒に笑い飛ばしてくれるのだろうか。








相変わらず女々しい羽瑠くん。


さてこれからどうなるのか。


‥‥どうしよう。



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