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夢姫  作者: 三浦黒猫
1/2

~追う者 追われる者~

年齢制限は設けませんが、一部残酷な表現等が御座います。

物語の進行上、必要な表現になりますので、この様な表現が苦手な方は閲覧しない様、お願い致します。

 月の大きな、夜だった。

 鮮やかな白い満月が重く夜空を支配している、夜。

 屋根の上に、二人の人影が対峙している。

 と謂っても、片方は屋根の上に尻餅をついた様な姿で。

 対するもう一方は小柄で、まだ子どもと云っても差しさわりの無い、姿。

 長い髪が月明りに浮かび、風で靡くが、其の色は紅みを帯びていた。

「俺を、殺さないのか」

 屋根に座り込んでいる人影が声を発した。

 男の低く擦れた声からは、恐怖感は無い。

 其の代わり、何も無かった。

 男は目の前の小柄な人影を見ている。

 否、視界に入れている、と謂う表現が正しい。

 男の正面にいるはずの人影を、唯認識しているだけで、其の先の感情を、男は人影に抱いていなかった。

 恐怖も絶望も、何も。

 然し小柄は人影は其れを気にする風でもなく、自身の長い髪を指先に巻き付けた。

「貴様、死にたいのかぇ」

 鈴、と響く可愛らしい少女の声色。

 月明りの逆光で表情は見えない。

 少女は宵闇に紛れる様な漆黒の着物を着ていた。

 小袖の裾丈は膝よりも上の位置で短く切られている。

 露出した足には黒いさらしが巻かれ、地下足袋の底は綿でも入れているのだろう、足音がしなかった。

 男は、目の前の少女に、ぼんやりと答えを返した。

「解らん」

 死んでいても生きていても、結局は同じなのだ。

 目醒めていようと眠っていようと、結局同じだった様に。

 男の金色に透けた髪が、夜風に軽く靡いた。

 綺羅綺羅きらきらと月明りを反射する其の髪に、少女は目を見張った。

「ふん」

 然し其の表情も逆光で男には見えず、少女も直ぐに表情を元に戻した。

 不遜で傲慢な、それでいて無邪気ささえ漂わせる、気紛れな秋空の様な、少女の表情。

「では、われに飼われても、異存は有るまい」

 少女の言葉に、男は首を傾げた。

「死ぬも生きるも変わらぬ、と貴様が云うなら、貴様など死んでも問題なかろう。吾の物にする」

 良いな、下郎げろう

 大きな月を背負った少女は、尊大な態度で男を見下した。

 然し男は何も云わない。

 代わりにゆっくりと立ち上がって。

 そして片膝を付いて頭を垂れた。

「夢姫様の良い様に」

 少女はにんまりと嗤う。

 そして男も。

 やっと隠れ蓑となる主が見付かった事に。

 ほんの少し血が騒いだ。



 +



 かんかん、と金槌が釘を打ち付ける音が響く。

 男達の荒々しい掛け声と共に、柱が宙に持ち上げられていく。

 そんな中で、独り黙々と次の柱になるであろう木材にかんなをかけていたトキに、声が掛けられた。

「よぅ、もう直ぐ出来るか?」

「……棟梁」

「お前な。云ってるだろ、俺の組では役割で呼ぶなって。たくみと呼べ」

 棟梁と呼ばれた男、巧はばさばさに伸ばした髪を無造作に項で纏め、煙管を吹かしていた。

 苔色の地に、紅い組紐がのたくった柄の着物が、やけに似合っていた。

 トキと呼ばれた青年は、長い前髪の向こうでちらりと巧を見たが、直ぐにその視線を手元に戻した。

 淡く、生まれつき色素の薄い透ける様な髪は、此の辺りでは珍しい。

 故に彼は酷く目立つ存在だったが、其れは外見だけの話で、彼自身は没個性どころか無個性の、居るのか居ないのか解らない人間だった。

 整った容姿は女達が放ってはおかないだろうが、昼行灯どころか空気の様な存在に、巧みの知る限りではトキが女に囲まれている場面は見た事がなかった。

 トキの真剣な目が薄く削られた木材を無視して、其の向こう側を見ている。

 後二回かな。

 巧が煙管の灰を落として懐に仕舞ったところで、鉋がけが丁度終わった。

「終わりました」

「んぁ、ご苦労さん。んじゃ、行くか」

 通りすがりの男に削り上げられたばかりの柱を任せ、巧は歩き出す。

「お願いします」

 後を任された男に律儀に頭を下げた後、トキが其の後を追っていく。

 丁度昼時。

 建築現場から足を踏み出すと、活気のある街に出た。

 通り沿いの様々な店では買物をする姿が絶えず、通りを売り歩く棒振りも、威勢の良い声を上げている。

「此処で良いか」

 巧が行きつけの定食屋の暖簾を潜る。

 別にトキと昼食に出る約束をしていた訳ではない。

 然し、巧がトキと昼食を摂る事は暗黙の了解になっており、其れは彼が巧の気に入りだからと謂う理由ではない。

 トキが桐々とうとうや巧の纏める大工の組に入ってからの、不思議な習慣だった。

 巧が席に着き、トキもまた向かいに腰を落ち着ける。

「今日は何にするかねぇ……」

 品書きを見ながら、巧が呟く。

 トキは壁に掛かった品書きを見て、もう決めてしまったらしい。

 長い前髪越しに、巧を見た。

「早いな」

 苦笑交じりに呟くと、トキは。

「昨日、山菜蕎麦が美味かったから、今日もそれにします」

 特に表情を変える事も無く、普通の声量で応える。

「良しっ、んじゃ、俺は日替わりな」

 注文を取りに着た娘が、席を離れる時にちらりとトキを見たのを、巧は見逃さなかった。

が、其れを敢えてトキには云わなかった。

 トキがほんの少し深く俯いたからだ。

 トキのささやかな仕草から感情を読み取れる様になったのは何時からか。

 彼を組に誘い、彼を気に掛ける様になって、どの位経っただろうか。

 運ばれた日替わり定食、鯖の味噌煮を口に運びながら、巧はトキを眺めた。

「前髪、汁に入りそうになってんぞ」

 そう云うと、「はい」と短く返事をして、前屈みになっていた姿勢を少し伸ばして、トキが蕎麦を啜った。

 静かに降る、雨の様な音だった。


 一日の仕事を終え、組の者達は続々と解散していく。

 トキも自分の大工道具を仕舞い、静かに長屋へ向かって歩いた。

 夕暮れても、街は賑やかだ。

 其れでも段々と人気を無くしていく通りを、トキは黙々と歩き続けた。

 とくん、とくん、と、自分の心臓の音に歩調を合わせながら、ゆっくりと。

 自分自身を落ち着けるかの様に。

 やがて長屋に辿り着き、大工道具を静かに置く。

 銭湯に行くのも億劫だった。

 湯を沸かし、盥に開けて水を混ぜ、丁度良い温度にしたもので行水紛いに身を清めた。

 長屋の前にある下水の溝に盥の水を流し、冷えた米に少しの野菜と味噌を加え、水を入れた焚き直す。

 雑炊らしいものを黙々と掻き込むと、歯を磨き。

 床を整え。

 其の上に胡坐をかいて座る。

 軽く目を伏せ、ぼんやりとした半覚醒の状態で其の侭座り続けたトキは。

 夜半過ぎに、伏せていた目蓋をゆっくりと持ち上げた。


 とーん、と軽く屋根の上を飛び回る人影。

 早々に閉まる長屋の門を超えて出歩く者は殆どいないはずの街で、其の人影だけは自由に屋根の上を飛び回っていた。

 月が照らした其の横顔は、あどけない少女のものだった。

 きっとした大きな瞳、小さいながらもすっと通った鼻筋、硬く結ばれた唇。

 長い髪を高い位置で一つに結っていたが、其の髪は紅みがかっている。

 丈を短く切った小袖を纏った其の少女は、軽やかな身のこなしで物見櫓に駆け上った。

「おらぬの……」

 詰まらない、退屈。

 そんな風情を出しながら、少女は唇を尖らせた。

 物見櫓の縁に腰掛け、足をゆらゆらと揺らす様は、水辺で夕涼みを愉しむ姿を髣髴とさせる。

 然し其処は地上から遥か離れた物見櫓の上。

 落ちれば一溜まりも無い。

「姫様」

つむり様」

 不意に、彼女の背後から声が響いた。

 どちらも彼女を指す言葉なのだろう。

 そして、彼女が良く知る物の声なのだろう。

 紅い髪の少女は不遜な笑みを浮かべながら振り返った。

「良い度胸じゃ。吾を振り向かせるとは、の」

「ご容赦を」

 先に声を掛けた男が、片膝をついた。

 緩く波打つ、鮮やかな金色の髪を高い位置で一つに結った男。

 少女を見上げた双眸は蒼く、人目で此の国の者ではないことが解る。

 もう一方の人影も、蒼い瞳の男と同じ様に片膝をついて少女を見上げている。

 黒い髪に黒い瞳は紛れも無く此の国の者だが、何処と無く他の二人とは雰囲気が違った。

 男も女も、漆黒の着物に、袴を穿き、脚絆を巻いている。

「良い、首尾は如何じゃ」

 少女の問いに、男が口を開く。

「今宵も外れで御座います」

「ふむ、毎度毎度、やりおる」

 苦々しげに少女が吐き捨てる。

「尾の無き猫の様な奴じゃ」

「こうも毎回見えぬとなると、わたくし達の動きを先読みされているとしか思えませぬ」

 女の言葉に、少女が苦笑を漏らす。

「先読みなどと謂う真似が出来るなら、後も残さずやりよるわ。……彼奴は、本能的に吾等が動きを察知しているに過ぎん」

 少女の苦笑が、心底愉しげなものに変わっていく。

「まるで獣じゃ畜生じゃ。……然し」

 少女の微笑が深くなる。

「吾の領地を荒らす下郎は、駆逐せねばのぅ」

違うかぇ、フェリシモ、えにし

 男と女はそれぞれ返事を返す。

「姫様の仰る通り」

「瞑様の仰せの通り」

「もう良い、今宵は帰ろうぞ」

 すたん、と少女の足が櫓の壁を蹴った。

 鋭く風を切りながら落下する其の身体は、然し途中で横から風を受け始める。

 緩やかな跳躍の振動に、少女の顔が顰められた。

「フェリシモ、吾は自分で跳べる」

「然し姫様、今宵は時間が御座いません」

 にこりと微笑むフェリシモに、少女は憮然と答える。

「知っておるわ」

「瞑様、私は先に帰らせて頂きます」

「うむ」

 縁がひゅっ、と消える。

「縁に気を使われたか」

「そんな訳なかろう。あれは日の元では生きられぬだけじゃ」

 横抱きに抱えられた少女は、フェリシモの首にそっと腕を巻きつけた。

 空が淡い紺色に変わっていく。

 徐々に濃く橙色の変化していく空の其の先で。

 やがて昇る朝日は、まだ見えない。


 街は噂で溢れていた。

「あのお侍様、殺されたらしいよ」

「厭だ怖い。何だってまた」

 口々に囁き交わされる話の最期は、然しどれも同じ言葉で締めくくられた。

「まぁ、あのお侍様じゃねぇ」

「殺されても」

「仕方ない」

 朝の喧騒に多く紛れる屋敷町の一角で殺された侍の話は、瞬く間に知れ渡った。

「何でもねぇ、辺りは血の海だって」

「お座敷中が真っ赤な血の海」

「其の真ん中で死んでたらしいよぉ」

「頭が」

「かち割られて」

「まるで柘榴の様だって」

「嗚呼厭だ、怖ろしい」

「惨い仕打ちだよ」

「此れで何人目だよ」

「確か十五人目だよぅ」

「怖ろしい」

「怖ろしい」

「怖ろしい」

 飛び交う噂の間を、トキは縫う様に歩いていた。

 担いだ大工道具がかちゃりと音を立てる以外、トキから気配を感じない。

 色素の薄い、褪せた髪が朝の風にほんの少し靡いた。

 気持ちの良い朝。

 街を騒がす噂の血腥さを吹き飛ばす様な、風。

 トキの足取りは普段と変わらない。

 然し、見る者が見れば、何時もよりも軽いと、思っただろう。

「ぃよう、トキ。今日は随分機嫌が良いな」

「お早う御座います」

 巧の揶揄やゆには答えず、頭を下げたトキは、黙々と仕事の準備に取り掛かる。

 普段と変わらぬ其の様子に、巧は複雑な表情を浮かべる。

 が、其れも一瞬の事で、直ぐに仕事の指示を飛ばしていく。

 此の現場ももう直ぐ終わる。

 然し次の仕事は既に決まっている。

 次は、とある武家屋敷の別邸の建設だった。

 余り評判の良くない武家だったが、仕事を断る訳にはいかない。

 女遊びの激しい其の武士は、新しく建てる其の別邸に、囲っている女達を住まわせるらしい。

 女達、と謂う処が引っ掛かるが、あくまで噂話の類だ。

 譬え其の噂話が限りなく真実に近いとしても、巧達には関係のない事だった。

 下手に首を突っ込んで其の儘首を斬られる事態になりかねない。

 気は進まなかったが、報酬が良かった。

 子の産まれたばかりの奴もいるしな。

 巧は割り切った。


 やがて其の武家の別邸の竣工に取り掛かる事になった。

 優男の風貌に脇差が妙に似合わない男だったが、腕は相当立つらしい。

「良い出来を期待している」

 竣工にかかる初日、巧にそう云うと、其の男は去っていった。

「何かいけ好かねぇ奴ですね、棟梁」

「巧って呼べっつってるだろ。……まぁ、滅多な事は云うなよ。俺達は仕事させて貰えりゃ其れで良いんだ」

 地鎮の儀にも出なかった男に不快感を出す組の者達を宥めて、巧がふと見ると。

 トキが男の去った方向をじっと見ていた。

「トキ、如何した」

「……否、あの方は、それ程に評判がお悪いのかと思って」

「おー? トキがそんな興味持つなんて珍しいじゃねーか!」

 たちまち組の者達がトキの周りに集まる。

「まぁあいつは顔が良いからな。やりたい放題だって噂よ」

「勿論女の事だぜ」

「気に入った女は遊女だろうが町娘だろうが人妻だろうが、ものにしないと気が済まない性質たちだってな」

「相手が武家じゃ、訴える訳にもいかねぇ。同じお武家さんなら如何にか出来るって思うだろうがそれも違う」

「結局金を積まれて無理矢理示談だ」

「どいつもこいつも泣き寝入りするしかないって寸法よ」

「全く酷い奴がいたもんだね」

 ここぞとばかりに飛び出す男の評判の悪さに、トキはほんの少し目を見開いた。

「其れでは、女達も、また女の縁者共も救われないではありませんか」

「だからそう云ってるだろ、あいつは酷ぇ奴なのさ」

「見た目に騙されてころっといった女が何人泣いた事か」

「おい」

 其処で巧がやっと口を挟んだ。

「お前等好い加減仕事仕事始めろや」

「うわっ、すんません巧さんっ」

「直ぐ始めますわー」

 散り散りになる組の者達の中心で立ち尽くしていたトキは、巧の顔を一瞬見た後、ぺこりと頭を下げて自分の仕事に取り掛かり始めた。

 巧はトキの後姿を目で少し追った後、仕事に戻った。



 +



 男は走っている。

 つい先週手を付けた女散々床の中で弄んだ後、気持ち良く眠りについたはずだったのだ。

 其れなのに。

 男は町中を走っている。

 疾うに門は締まっている、往来の行き来は出来ない筈だ。

 然し男の身体は門や壁など無いかの様に走り抜けている。

 死んだのだろうか。

 男は走りながら必死で考え続けた。

 否、女が気をやった瞬間、俺は確かに恍惚とした気分になったはずだ。

 そして女が「憎らしゅう御座います、こんなに気をやられては、何時か死んで仕舞います」と、可愛らしく足を身体に絡み付けて来た其の瞬間だって、俺は生きていた。

 女の悦楽に満ちた頬を撫でながら、俺は眠りについたはずだ。

 ならば。

 此れは夢か。

 夢ならば恐れる事はない。

 男は背後の気配を必死に探った。

 男を追掛けている者の正体は解らない。

 然し男は武士だった。

 見た目の柔和さからはとても想像つかないほど、剣の腕は立つ。

 ふと気づくと、左手に愛用の脇差を握っていた。

 やはり此れは夢なのだ。

 男は口元を伝った汗を舐め取った。

 辺りは何時の間にか竹林になっている。

 相変わらず男の背後の気配は消えない。

 そろそろ成敗してやる。

 目の前は仄かに明るくなってきた。

 途端に視界が開ける。

 竹林の中に突如、丸い空間が現れた。

 男は勢い良く其のぽっかり空いた竹林の中の広場に飛び出す。

 そして振り向きざま、愛用の脇差を抜こうとした瞬間。

 目の前に追手が、居た。

「ひぃっ」

 満月の逆光で追手の顔は良く見えない。

 然し其の眼は、黄金色に光っている様に見えた。

 まるで目の部分に穴が開いており、背中からの月光を其の儘差し込んでいるかの様に。

 追手が振り上げた手の先で、何かが鈍い光を反射した。

(金槌……っ?)

 脇差を抜きかけた其の体制のまま、男が考えを巡らせていると。


 ごぐしゃ。


 男の頭に、金槌が減り込んだ。



 +



 トキは何度も金槌を振り下ろした。

 何度も、何度も。

 やがて頭の原型が解らぬほどぐちゃぐちゃになった其れを見て、手を止めた。

 此の男は確かに女を嬲り者にしていた。

 何人の女が、そして女の家族が悔し泣きに泣いただろうか。

 然し其の者達の想いを酌んだ訳では、ない。

 其れは建前に過ぎない。

 トキはぼたぼたと血を垂らし続ける金槌を握りしめたまま、男の死体を見詰めている。

 ややほっとした様に息を吐いた瞬間、トキの身体はびくんっ、と跳ねた。

 何かが、向かってきている。

 其れは今のトキの方ではない、布団に横たわって夢を見ているトキの方に、だ。

 トキはっ、と目を見開いた。

 布団を跳ね除け、長屋から飛び出し、屋根の上に跳躍する。

 とても人間業とは思えない身の熟しを、見ている者は月だけ。

 の、筈だった。

「ほほほ、見付けたぞ! 見付けたぞ! 到頭とうとう見付けたぞ!」

 何処ぞの屋敷の瓦屋根に飛び移った処で、背後から声が響いた。

「夢殺し! 夢殺し!」

 其れは少女の様な、否、少女そのものの高く愛らしい声だった。

 其の声に、トキの足が縺れた。

 屋根の上に倒れこみながら、其の事に驚いていたのはトキ自身だった。

 声を聴いた瞬間、縛られたかの様に身体が一瞬動かなくなった。

 がしゃんっ、と瓦に転んだ瞬間を逃すはずもなく、背後の少女はトキにあっさりと追い付き。

「此の、人殺しが」

 そう云い放って。

 にこりと無邪気に微笑んだ。

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