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夢魔と魔法使いの少女たち  作者: 野村勇輔
第2章 夢と悪魔と

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第2回

   2


 しとしとと雨の降る音が聞こえていた。

 それはとても小さく、けれど静まり返った辺りに大きく響き渡り、異様な寂しさを感じさせた。


 その雨音に目を覚ました私は、ゆっくりと上体を起こした。


 いつの間に眠っていたのだろうか、わたしは大きく伸びをして、両手を高く上げて欠伸をひとつする。


 そこはよく見知った家庭科室で、けれど人影ひとつ見当たらなかった。


 しんとした広い部屋にひとり取り残されたわたしは、誰にも起こされなかった事実にショックを受けた。


 ……ヒドイ。ユキもカナタもミツキも、誰もわたしを起こさずに教室に戻っちゃうなんて最悪だ。

 友達だと思っていたのはわたしだけで、いつからハブられるようになってしまったのか。


 とは思いながら、心の奥ではそうでないことを理解していた。


 それはこのあり得ないほどに静まり返った家庭科室に、いや、家庭科室どころか、物音や誰の声も聞こえてこない校舎そのものに違和感を感じたからだ。


 一時間目の授業が終わったのだとしても、この静けさは普通じゃない。

 ただ雨音だけが静かに聞こえて、そこにあるのは戸惑いと孤独だった。


 ふと窓の外に目を向ければ曇天の街並み。

 けれどその街並みにはぼんやりともやがかかっていて、まるで絵筆で描いたような不確かさだった。


 窓に乗り出し眼下を覗くも、広いグラウンドには人ひとりいやしない。


 そればかりか、どんなに耳を澄ましてみても、やはり雨音以外、何も聞こえてこなかった。


 ――あぁ、夢だ。これは夢なんだ。


 わたしは確信し、頬を抓って見た。


 うん、痛くない。何も感じない。やっぱりこれは夢なんだ。


 けれど、それにしてはイヤにはっきりとした感覚があった。


 夢特有のどこかふわふわした感じじゃなくて、目の前の光景はあまりにも現実味を含んでいた。


 わたしひとりを取り残して、世界の方がどうかしてしまったんじゃないか、と思えるほどのリアリティ。


「……早く目を覚まさないと」


 わたしは独り言ち、目を閉じる。


 それから大きく深呼吸を一つして、

「起きろ、起きろ、起きろ、起きろ……」

 何度も何度も、呟いてみる。


 それからゆっくりと瞼を開いて、

「覚めない」


 何も変わらない、誰もいない世界がそこにはあった。


 夢だということは自覚している。認識できている。


 それなのに、夢から覚める方法が解らなかった。


「いつもだったら、これで起きれるのに」


 相変わらず窓の外にはしとしと降り続ける雨と薄暗い分厚い雲。


 どこからも人のたてる音や声は聞こえず、不安だけが募っていく。


 どうしよう、どうしよう……ううん、ダメ。こんなことで不安に思ってたって仕方がない。どうせこれは夢なんだから、いつかは目が覚めるはず。だったら、この夢の中をちょっと探索してみるのも面白いんじゃないだろうか。


 そう思ったわたしは、家庭科室の外へ向かった。

 がらりとドアを開けて、恐る恐る廊下に出てみる。


 静まり返った廊下には、灯りひとつ点いていない。


 そればかりか、廊下の先、突き当りのあたりはぼんやりとした闇に覆われて不気味だった。


 どうせ夢を見るんだったら、もっと楽しい夢が良かったんだけどな……


 けど、そんなことを思っていたって仕方がない。


 勇気を出して、わたしは一歩一歩、廊下を踏みしめ歩き出した。

 

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