前から気になっていた美少女クラスメイトの妹と俺の弟が付き合ったらしい。そのことを本人に伝えてみたら甘々な展開が待っていた件。
「俺さ、彼女できた」
唐突に俺の前まで来てそう言ってきたのは、俺、目黒瑛治の弟、勇治だ。
勇治とは子供部屋を共有していて、お互い控えめだからかほとんど喧嘩をしないので仲が良い。
そんな勇治が高校1年生のくせに俺(高校3年生)よりも先に彼女が出来るとは……。
「え、良かったじゃん。どんな子なの。写真とかないの」
「まだ撮ってないよ。今日付き合ったんだから」
「名前だけでも教えてよ。可愛いの?」
「言っても分かんないのに……木村瀬奈って人。前に1回だけ瑛治に話した気がする」
「ふーん……」
俺はここで「可愛らしい名前だな……」と思ったのだが、その感想に既視感があった。
俺のクラスに、木村映奈という人が居るからだ。
それも、実は俺が前から気になっていた女子。
2年の時に同じクラスになってからずっと、彼女の安定感のある可愛さと大人びた凛々しさに惹かれていた。
つい先日の席替えで近くの席になって、数回話したことがある。
結構真面目なイメージだったけれど、話すと意外にも明るかった。
それに加えて、授業中に真面目に受けているのに分からないところが多くて俺に聞いてきたり、友達も多くて色んな人に遊びに誘われていそうなのに休み時間は教室で一人でいる事が多かったり、というギャップがある。
そんな憧れの存在とも言える彼女と、苗字が同じで名前の形もどこか似ている。
「その彼女さんさ、姉が居たりするとか聞いてない?」
「姉? うーん、なんか上が居るって言ってた気がするけど……なんで?」
「……いや、なんでもない」
さすがに無いと思っていたけれど、返ってきた答えに思わず固まる。
こんな偶然あるのだろうか。
俺が前から好きだったクラスの女子の妹が、俺の弟と付き合い始めたかもしれないのだ。
「そんなことより今週の土曜日に映画誘われてるんだよ。瑛治、なんか服とか貸してくれよ」
俺の方こそ、そんなことより大事なことを考えていた。
気になっていた女子と数少ない接点を持つチャンスなのである。
「好きなの持って行っていいよ。どうせ俺はその日に家出ないし」
「サンキュー瑛治。それでさ、当日どんな立ち回りしたら良いかとかも教えてくれよ」
「知らないよ。お前が先に彼女できたんだろ。何で経験のない俺に聞くんだよ」
「あれ、瑛治好きな人いるって前俺に言って来なかった?」
そういえば言った気がするな。
「今は関係ないだろ」
「良いじゃん。瑛治も青春してるじゃん」
俺はこの時、弟に先を越されたという悔しい思いもあったが、それと同時に僅かな希望を感じていた。
弟に言われてしかもそれが偶然チャンスに変わったのだ。
明日の休み時間に、さりげなく話題を振ってようかな。
翌日――。
「ねえねえ、木村さんってさ、妹いる?」
「ど、どうして?」
彼女はあまりにも唐突に聞かれたために、驚きと緊張が混ざったような目をこちらに向けてきた。
「実は昨日、俺の弟が彼女できたって言っててさ」
「……え? うん」
「名前を聞いたら、木村さんと同じ苗字で……」
「…………」
「もしかしてだけど、瀬奈って妹?」
「……待って」
彼女は驚いた表情のまま固まった。
「目黒くんの弟と、私の妹が付き合ったってこと?」
「多分」
「えええ!?」
普段は静かな彼女が派手に声を出すものだから、周りからジロジロと見られて緊張感が高まった。
慌てて声のトーンを落とす彼女を前に、俺も小さく頷く。
「やっぱりか……」
「やっぱりって……?」
「いや実はね、私の妹、私に対して何にも話してくれなかったの。昨日、お母さんに彼氏の話をしてるのをちょっと聞いたくらいだったんだけど……。なんか妙にコソコソしてると思ったら、そういうことだったんだ」
「姉妹で仲悪いの?」
「あんまり良くないの。昔は仲良く話してたんだけど、最近は私と話すのが好きじゃないみたいでさ」
彼女はクラスの中でも信頼が厚く、男子からも女子からも人気があったから意外だった。
きっと、そういう完璧なところも妹は好ましく思わなかったのかもしれない。
「なんか、気になってきた。今度、瀬奈と弟くんが会ってるところとか見に行かない……?」
「ええっ、そんなことして良いの」
「普段私に隠し事ばっかりしてる妹についてこんなに面白い情報を聞いちゃったんだもん。それに、目黒くんの弟くんもどんな人か気になるし、さ」
いたずらな目でこちらを見てくる彼女が、俺の鼓動をドキドキと素早く打たせる。
これに俺は惹かれたんだ。
授業中とか一人でいる時とかはキリッと真面目な風格を漂わせている彼女が、余裕を持つと見せるギャップの効いた表情。
思わずゴクッと唾を飲む。
「デートの日とか知らない? 聞いてみてよ」
「昨日、今週の土曜日に映画に誘われてるって言ってたよ。立ち回りがどうとか聞いてきたから、多分デートじゃないかな」
「本当? 土曜かぁ……、確かに瀬奈もお母さんにそんな話してた気がする。私達も行かない?」
えっ?
いくらカップルがどんなことをするのか気になると言っても、デートを監視するかのようについて行くのはどうなのだろうか?
彼女だけならまだしも、俺まで行くとなるとかなり危ういのでは?
「うーん、そういうの良くないんじゃない? バチが当たりそう」
「そう……? でも私は行きたい。どちらかだけで行ってもそれが本当にカレカノか分からないからさ、目黒くんも一緒に行かない?」
俺は本当に、バチが当たると思っていた。
勇治とは誇れるほどに仲が良かったから、極力邪魔はしたくなかった。
……けれど、前から好きだった人に誘われて、バチごときの理由で断れるはずがなかった。
バチでもなんでも当たるがいい。
こんな千載一遇のチャンス、逃す方が絶対に後悔する。
「分かったよ。俺も行く。ただ弟のことを考えるとさすがに可哀想だから、絶対バレないようにしようね」
「もちろんよ」
その日の夜、なんとか怪しまれないようにしながら弟が行く映画館を知り、LINEで彼女に教えた。
するとLINEを初めて繋いだはずなのにすぐに既読がつき、『ありがとう!』と返ってきた。
それから土曜日までの間は、弟に少しでもフレッシュな気持ちでデートを楽しんでもらおうと、映画館の話は一切しなかった。
土曜日――。
彼女が黒い帽子を被って手を振りながらこちらに近付いて来るのが見えた。
白のTシャツに黒のスウェットパンツを身につけ、帽子の後ろから文字通りしっぽみたいなポニーテールを出している。
ほっそりした腰や体のラインが見えそうな格好に、思わず目が引かれてしまいそうになる。
恐らく目立たないようにしているのだろうけれど、俺からしたらただただ可愛くてしょうがなかった。
弟たちの集合場所から少し離れたところで待つと、すぐに弟と彼女の妹が来た。
弟たちが歩いているのを2人で見ていると、彼女は突然「なるほどね……」と呟いた。
「どうしたの?」
「いや、私実は心配だったんだ。瀬奈、いっつも私に話してくれないから。でも、こんなに楽しそうにしてるのを見れるなら、私は十分だよ」
「確かにな。俺も、勇治に彼女ができるとは思ってなかったけれど、案外お似合いに見えてきたよ」
不意に彼女の顔を見ると、そこには大きく開いた花のような、温かい笑顔があった。
きっと、心から心配していたから、今すごく安心しているのだろう。
「もう大丈夫。ありがとね、一緒に来てくれて」
「あぁ、うん……」
彼女の言葉が遠くに行くように聞こえた。
……違う。
最初は抵抗があったけれど、本当は心の底から隣で歩きたいと思っていたんだ。
だから、この時間がもっと続いて欲しいと思っていた。
この時にはとっくに、心臓の高鳴りを抑えられていなかった。
彼女と二人で歩いていると、どう見てもカップルに見えるからだ。
「なんか……俺たちまでデートしてるみたいだな」
「……そういうこと言わないでよ」
「ごめん」
「ふふ、嫌とは言ってないけど」
「そっか。なら良かった」
「一件落着したし、帰る?」
「うん……」
せっかくだからこの後どこかに行こう、と勇気を出して誘おうとしたところだった。
「あ、電話だ。ちょっと待ってね」
彼女のスマホが鳴り、ポケットから取り出して画面を見たのだが、その顔は驚きと恐怖が混ざったような感情を表していた。
そして、画面を俺に見せながら言った。
「どうしよう。妹からだ」
咄嗟に2人で周りを見たが、弟と彼女の妹の姿はない。
さすがに、大丈夫だ。
俺らが尾行しているとか、バレているはずがない。
「ただ、お金が足りなくなったとか、何気ない相談かもよ?」
「デート中に電話なんてする訳ないでしょ。それに、瀬奈から電話をかけてくるなんて初めてよ」
「俺は弟から何にも連絡来てないから多分大丈夫だと思うけど……」
「怒ってるのかな? 怖い……」
「バレてるかなぁ? とりあえず出てみなよ。俺もいるし怖がらなくて大丈夫だよ」
少しでもフォローしようと頼りがいのあるセリフを言ってみたけれど、彼女に響いているかは分からなかった。
彼女は応答ボタンを押して通話を始めると、妹の声が聞こえてきた。
『お姉ちゃん? さっき後ろに居たでしょ』
バレてる。
彼女は焦って声が出なくなっていた。
俺もどうすることも出来ないから、とりあえず何か喋らないとと促した。
「え?」
『なんか横に男の人もいたよね? 彼氏?』
「ち、違うよ!」
彼女の顔がぽっと赤くなっていくのが見えた。
ただの勘違いなはずなのに、なぜか俺の顔もじわじわ熱くなるのを感じる。
『すごい焦ってるけどどうしたの? まさか、前からママに話してた、好きな人なんじゃないの?』
「ちょっ、違うって……」
『あたしがデートするからって、お姉ちゃんもデートしたくて誘ったんじゃないの? もしかして』
「もうだめー!」
彼女は恥ずかし過ぎたからなのか、即座に通話終了のボタンを押して俯いた。
顔を赤くしながらハァハァと息を切らす彼女を前に、俺は何をしていいか分からず呆然と突っ立っていた。
「なんか、俺が来たばっかりに変な勘違いをさせちゃってごめん」
「ううん。目黒くんは何も悪くないから。私はもう、大丈夫。瀬奈が、思ったより私に関心があったみたいで、それが知れただけ嬉しいよ」
今はそこじゃないだろ、と突っ込みたくなったが、自分から言い出すのはおかしいと思い黙るしかなかった。
彼女には好きな人がいるんだ――。
何もおかしくないのに、今は異国の言葉のように遠い存在に聞こえた。
「こんなヘンテコな女の子に好かれるの、迷惑だよね……ごめんね」
……そこまで聞いて、「んっ?」となった。
ごめんって。
それ俺に言うの?
「ちょっと待って。好きな人って……俺のことだったの?」
「……実は、うん」
ここに来て鼓動の速さがマックスにまで加速する。
もじもじしながら上目遣いでこちらを見てくる彼女は、今まで見てきた中でいちばん可愛らしかった。
その可愛さに思わずじっと彼女の顔を見てしまう。
目が合うと、彼女はさらに顔を真っ赤にして黙り込む。
「席替えしてからよく話しかけてくれるようになってさ、嬉しかったよ。授業中も優しく教えてくれるしさ」
そんな、俺がただ接点を持ちたくて話しかけていただけなのに――。
「待って。実は、俺もずっと気になってた」
「えっ……?」
「前から気になってたんだよ、木村さんのこと」
「本当……? 私のことを?」
「うん。好きだった」
言ってしまった。
俺の頬も火がついたように真っ赤に熱くなり、ふと目を逸らす。
「嬉しい……!」
「やばい、両想いだったのか、どうしよう。俺と、付き合ってくれる?」
「もちろん……! ありがと……!!」
彼女は、慎重な足取りになりながらも、思い切って俺の胸に寄りかかるように顔を埋めてくる。
ずっと好きだった人がこんな形で俺の彼女になるなんて、思ってもいなかった。
本当に、こんなに幸せで良いのかと思うくらい。
「ありがとう、映奈」
「名前で呼んでくれるの嬉しすぎて、幸せだよ」
「なら俺のことも呼んでくれよ」
「うう、瑛治、大好きだよ」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がいっぱいになった。
まさか弟に彼女ができたことが、俺自身の恋に繋がるなんて。
嬉しくて、照れくさくて、どうしようもなくなった。
映奈は泣きながら俺のことをぎゅっと抱きしめてくる。
俺も優しく、その背中を抱きしめた。
お読みいただきありがとうございます!
こうして現実恋愛を書き続けてもう2年くらいですね……! まだまだ甘酸っぱくなります!笑
☆やブクマ、感想など、モチベになりますのでぜひぜひよろしくおねがいします!




