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白球狐の夏  作者: 春雨 蛙
第一章 球春到来
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反省文と入部テスト

「えー、この度は儂の身勝手な行為により、関係者の貴様らに多大なるご迷惑をお掛けしましたことを深くお詫び申し上げますですじゃ。誠にごめんなさいなのじゃ。たしかに未成年飲酒はいかんことですじゃ。儂は大いに反省しておりますですじゃ。今後は軽率な行動は控え、高校生らしく清く正しい学校生活を送る所存じゃから、何卒よろしゅう頼むのじゃ」


 ふむ。800年生きて初めて反省文なるものを書いてみたが、こんなところじゃろうか。

 担任は400字詰めの原稿用紙5枚分書けとほざいておったが、そんなに書けるはずがなかろう。

 じゃから残りは儂の川柳で埋めてやろうではないか。こういうのは気持ちが大事なのじゃ。


「桜散り 先公共が 小うるさい」

「無能共 儂の覇道の 贄となれ」

「停学後 増える課題と 減る積みゲー」


 興が乗った儂は担任の似顔絵も描いてやった。

 こういう遊び心はきっと喜んでもらえるじゃろう。


 他にも山のような課題を出されたが、それは瞳の力を借りてどうにか乗り切った。


 こうして地獄のような1週間の謹慎生活が終わり、ようやく儂は復学したのじゃった。

 儂が謹慎しとる間に部活紹介はとっくに終わり、今は仮入部期間になっとるらしい。


 すっかり出遅れてしもうたが、真打ちは遅れて登場するものじゃ。今から高校野球界に儂の名を轟かせてやろうではないか。

 そうして意気揚々と登校した儂じゃったが、やはり初日の停学が効いたのか、教室ではすっかり腫れ物扱いじゃった。


 おまけに自己紹介で盛大にぶちかましたものじゃから、陰で『ホラ吹きスネ夫』なる屈辱的な渾名で呼ばれておることも知った。


 まぁよい。馴れ合いにきとるわけではないからの。


 儂はあくまでも野球をしにきたのじゃ。

 甲子園の出場が決まれば、儂を見るこやつらの目も変わるじゃろう。


「おう大牙。野球部に案内せい」


 放課後、儂は野球部に入ると申しておった倉敷大牙の席へと向かったが、既にあやつの姿はなかった。

 儂を避けておるのか、授業が終わるなり即座に教室を飛び出しおったらしい。


 ええい、面倒をかけさせおって。ならばこちらから出向いてやるまでじゃ。


 儂は制服のまま野球部のグラウンドへと向かったのじゃった。


「たのもう!」


 グラウンドでは既に練習着姿の部員たちがたむろしておった。

 見たところ20人ほどじゃ。

 弱小校なだけあって部員も少ないのぅ。


「おい誰か来たぞ」

「あれって例の……」

「ほら、入学式の日に停学になった1年だよ」


 儂をジロジロと遠慮なく見た部員たちが囁き合っておる。

 地獄耳の儂には全部聞こえておるがの。

 どうやら儂はそれなりに名が売れておるらしい。


「部外者は出て行け」


 やがて中肉中背の小僧が一歩前に出て儂に舐めた口を利きおった。


「なんじゃ、ぬしは?」


「野球部主将の根岸ねぎしだ」


「ほぅ、ならば話は早い。儂は森宮恒夫。部外者ではないぞ? 今からこの弱小野球部を甲子園へと導く者じゃ」


 儂は得意気に名乗ったが、根岸という小僧は迷惑そうな顔をしおった。


「お前のことは聞いている。いきなり飲酒で停学したらしいな。そんな不良はうちの部にはいらないんだよ」


「なんじゃとぉ?」


 儂は根岸を睨みつけた。


「す、凄んだって無駄だからな。いいか? 高校野球ってのはな、他のどの部活よりも不祥事にうるさいんだよ。たったひとりの不始末でも連帯責任で活動停止にされちまうことだって珍しくない。だからお前みたいな何をしでかすか分からない不良なんていらないんだよ」


 根岸が震える声で抜かしおった。

 小心者の分際で精一杯の虚勢を張っておるのじゃろう。


「ふん、言い分はもっともじゃが、儂とて悪気があったわけではないのじゃ。この通り未成年飲酒はいかんことじゃと学んだし、心も入れ替えた。更生した生徒には寛容に広く門戸を開くべきではないかえ?」


「飲酒がダメなんて当たり前の話だろ。いいから早く出て行け」


 根岸は憮然としておった。

 ええい、いつもの癖でつい飲んでしもうたのじゃから仕方ないじゃろうが。


「儂の実力も見ずに追い返すというのは感心せぬな。かなりの掘り出し物やもしれぬぞ?」


「お前みたいなチビに何ができるっていうんだよ……」


「では何ができるか見せてやろう。1打席でよい。儂が投手として代表の者に1打席勝負を挑む。それで打ち取れば儂の勝ち。打たれれば儂の負けじゃ。そのときは潔く入部を諦めてやろう」


「本当に負けたら入部を諦めるのか?」


「武士と儂に二言はない。負けたらすっぱり諦めてやろうではないか。どうじゃ?」


 どの道ここで打たれるようなら儂も所詮はその程度ということじゃ。


「けどな……」


 根岸はまだ迷っておるようじゃった。

 ええい、はっきりせんやつじゃのぅ。もう一押しといったところじゃろうか。


「勝負を拒めば学校中の教師や生徒に言い触らしてやるぞ? 入部の機会すら与えず、持ちかけられた勝負からも逃げる弱小腰抜け野球部じゃとな」


「ちっ……分かったよ。おい倉敷、相手をしてやれ」


 根岸が後ろに控えておった大牙を見た。


「ぬしが勝負するんじゃないのかえ!?」


「お前如きにわざわざ俺が出るまでもない。倉敷、い、いけるよな?」


 根岸が不安そうに大牙の顔色を窺っておる。

 主将とは思えぬ小物臭じゃ。


「はい」


 大牙が冷静な顔で頷いた。


「ははっ、よく聞け! この倉敷はな、去年全国優勝した名門霧島シニアで4番を張っていたスラッガーなんだぞ。お前が勝てる可能性はゼロだ。ははは!」


「なぜぬしが得意気なのじゃ? 自分のことでもないのに偉そうに威張って情けないやつじゃのぅ。虎の威を借る狐そのものではないか」


 儂は主将のくせに情けなく1年坊主の力に頼る根岸をなじった。


 それにしても大牙のやつめ、やはり儂の見立て通り只者ではなかったようじゃな。

 中学時代にそれだけの実績があれば強豪校からも引く手数多じゃったろうに、なぜ北浜のような弱小野球部に入ったのじゃろうか。

 ま、儂も似たようなものじゃから人のことは言えぬがのぅ。


「倉敷」

「はい」

「あの生意気なガキを理解らせてやれッ!」

「……はい」


 親の仇を見るような目の根岸とは対照的に、大牙は迷惑そうな様子じゃった。


「投球練習しろ」


 グラブを借りて制服のままマウンドに立った儂に、大牙がぶっきらぼうに言った。


「あー、いらぬいらぬ。儂、のっけから全開でいけるタイプじゃし」


「いきなり投げて怪我されたらこっちが困るんだよ。肩を作ってなかったから負けたと言い訳されたくもないからな」


「ええい、うるさいやつじゃのぅ。そんなこと言って手の内を見たいだけじゃろうが」


 誰がその手に乗るものか。


「肩を作らないなら勝負しないぞ」


 大牙は譲る気はないようじゃ。

 儂は仕方なしにマスクを被ったキャッチャー役の部員に向かって、キャッチボール感覚で何球か投げた。


 大口を叩いておいて投げる球はそんなものか、という嘲笑と安堵感が部員たちの間に広がっておる。

 ふん、笑っていられるのも今のうちじゃからな。


「もうよいぞ」


 儂が投球練習の終了を告げると、大牙は左打席へと入った。


 ふむ。線こそ細いが、打席に立つと実物以上に大きく見えてかなりの風格じゃ。

 そして構えたバットをピタリと静止させて微動だにしておらぬ。まるで剣豪の居合のようではないか。


 こやつ……相当できるの。相手にとって不足はなしじゃ。

 儂の力を見せつけるにはうってつけと言えるじゃろう。

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