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白球狐の夏  作者: 春雨 蛙
第五章 死闘黒海学園
33/40

一進一退の攻防

「2回の表、北浜高校の攻撃は、4番キャッチャー、倉敷君」


 大牙の名が呼ばれると、北浜高校のスタンドからは一際大きな歓声が上がった。


「倉敷君!」


「打って倉敷君!」


 応援に駆けつけた学校の女共がキャーキャーと黄色い声を飛ばしておるのじゃ。

 そんな声援を聞いておるのかおらぬのか、大牙はいつものように涼しい顔で打席に立った。


 いや格好つけておるが、こやつ前回の試合では2三振じゃからな。


「大牙……絶対に打ち取ってやる!」


 対抗意識を燃やした佐山が投じた初球のストレートを大牙がフルスイングすると、打球は右中間のフェンスに直撃した。


 大牙は快速を飛ばしてそのまま一気に3塁まで到達しておる。

 大牙の3塁打にスタンドからは割れんばかりの拍手が巻き起こった。


「きゃぁぁあああああ倉敷君かっこいい!」


「抱いて! 私を思いっきり抱きしめて!」


 興奮した観客の女共がキャンキャン鳴いておる。 


 大牙は相変わらず冷静じゃった。


 ええい、脳味噌マラボウのドスケベ男の分際で気取りおって。

 内心では浮かれて女共に弾道ミサイルを射出する計画を進めておるじゃろうに、生意気じゃのぅ。


「くそ!」


 敵の佐山が怒りを露わにしておる。

 大牙にだけは打たれたくなかったのじゃろう。


 残念ながら後続の打者たちは打ち取られて無得点に終わってしもうたが、前回の何もできずに負けた時とは違う、確かな手応えを儂らは感じたのじゃった。


「2回の裏、黒海学園の攻撃は、4番ファースト、首藤君」


 アナウンスと共に、黒海学園の主砲である首藤が悠然と打席に向かいおった。

 前回儂が大崩れするきっかけとなった3ランホームランを放った大男じゃ。


「うおおおおおおおおおおっ!」

「首藤さん頼みます!」

「ぶちのめしてやってください!」


 黒海学園側のベンチが湧き上がっておる。


 チームの大黒柱であるこやつが打つと相手を調子づかせてしまうからのぅ、何としてでも抑えねばなるまい。


「打てるもんなら打ってみぃ!」


 首藤は儂が投じた初球のストレートを大きく空振りしおった。


 相変わらず高校生離れしたスイングスピードじゃ。油断は一切できぬ。

 自分のピッチングと大牙のリードを信じるしかないじゃろう。


「ナイスボール!」


 大牙の返球を受けた儂が無言で頷く。

 2球目の真っ直ぐを首藤がフルスイングすると、ボールはキャッチャーフライとなり大牙のミットに収まった。


「良いね森宮!」

「球走ってるよー!」

「愛してる!」


 野手陣から続々と称賛の声が上がった。 

 チームの方針で積極的に声をかけるようになったのじゃろう。 


 孤独感しかなかった春季大会の試合とは大違いじゃ。


「ふふん、任せておけい!」


 調子を良くした儂は次の5番6番を連続で三振に切って取り、2回裏の守備を終えたのじゃった。


 こうやって仲間に声をかけてもらうというのは良いものじゃのぅ。

 これこそ儂がテレビで高校野球を見て望んでおった、憧れておった光景なのやもしれぬ。


 3回の表裏は両校とも三者凡退じゃった。


 儂は一切打たれる気がせんかったし、相手の佐山もギアを上げて躍動しておる。

 これは投手戦になりそうじゃの……。


 儂の予想は当たり、その後も両校共に無得点のまま試合は中盤の5回へと突入したのじゃった。


 緊張感のないネネなんぞは試合が動かぬ退屈からベンチで眠りこけておる。


 ええい、どうにかして攻略の糸口を掴めぬものじゃろうか。


「佐山君の癖、少し分かっちゃったかも……」


 打ちあぐねておる儂らを見兼ねたのか、5回表の攻撃中にマネージャーの立花がぽつりと呟いた。


「どんな癖じゃ?」


「スライダーを投げるときに角度を意識しすぎて前足のつま先が左に流れ気味になってる」


「ふむ……」


 儂は立花の指摘を受けて、佐山の投球を冷静に観察した。


「ほら」


 たしかにストレートのときはつま先が真っ直ぐ出ておるのに、スライダーを投げるときは若干ズレておるではないか。


「ほほぅ、よく気づいたのぅ。伊達に日頃から男をジロジロと視姦しておらぬな」


「ちょっと! 人聞きの悪いことを言わないでよ!?」


 儂らはさっそくこの情報をチーム内で共有した。


 予め球種が分かっておれば、得意な方を待って打てば良いというわけじゃ。

 おかげで上位打線からは徐々に安打も出るようになってきた。


 じゃが、下位打線は相変わらず手も足も出ておらぬ。

 佐山の球種が予測できたとて、打てるかどうかはまた別の問題というわけじゃ。


 その後、儂らは出塁はするものの得点には結びつかず、試合は終盤へともつれ込んだ。

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