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白球狐の夏  作者: 春雨 蛙
第五章 死闘黒海学園
32/40

リベンジ

「えー、皆さん。いよいよ今日は黒海学園との試合ですね。伸び伸びと自分らしさを忘れずにプレーして、前回の悔しさを晴らしましょう!」


 見川がニコニコといつもの調子でほざいた。

 まったく、こやつは変わらんのぅ。


「いくぞ皆!」


「おう!」


 主将の根岸の掛け声で、儂ら北浜の面々は元気にグラウンドへと飛び出した。


 いよいよ決戦じゃ。


 儂らは選手整列で再び因縁の黒海学園の連中と相対した。

 黒海学園の先発は前回と同じく1年生の佐山じゃ。


 マネージャーの立花が言うところの、女を笑顔でめちゃくちゃに殴りそうなエースの黒峰は温存されておる。完全に舐められておるというわけじゃな。


「大牙。君も懲りないね。今からでもうちにきたら?」


 佐山が煽ってきよる。


「悪いな。俺はこのチームで甲子園を目指すと決めたんだ」


「ああそう。なら容赦なく叩き潰してあげるよ」


 佐山が冷たく言い放った。


 黒海学園の他の連中は儂を見てニヤニヤと笑っておる。

 中には両手を目元まで持ってきて泣き真似をしとる者までおるではないか。


 もうこんな連中に慈悲をくれてやる必要はなかろう。

 完全に吹っ切れたわい。これで後顧の憂いなく全力で叩き潰せるというものじゃ。


「私語は謹んで!」


 儂らは審判に注意されてしもうた。

 これは一筋縄ではいかぬ試合になりそうじゃの。


「お待たせいたしました。第1試合、北浜高校対黒海学園の試合、まもなく開始でございます。守ります、黒海学園のピッチャーは、佐山君」


 次々に守備位置のアナウンスが告げられ、やがてそれが終わると試合が開始された。


 まず先頭打者の中林は三振に倒れたが、2番の根岸は打球を前に飛ばしおった。

 固い内野陣の守りに阻まれてアウトになっておったがの。


「よいぞ根岸! じゃが、ここでヒットにできぬのが器の限界じゃな!」


「うるせえクソガキ!」


 儂の野次に根岸が怒鳴り返してくる。

 きひひ、まったく小さい男じゃ。


「3番ピッチャー、森宮君」


 さて、儂の出番じゃな。

 そろそろ儂も打撃で活躍するとしようではないか。


「久しいのぅ小僧。今度こそ教育してやるわい」


 儂は佐山にバットを向けた。


「……僕から大牙を奪ったクズ野郎……」


 なんじゃ。なんか逆恨みされとらぬか?


「ふぉっ!?」


 儂がニヤニヤしておると、前回の試合と同様にまたしても顔面目掛けて危険球が飛んできおった。


 儂の神懸かり的な反射神経でなんとか避けたが、あやつ確実にわざとやっとるじゃろう。


 次の打席で儂もぶつけてやろうかえ。


 前回の展開をなぞれば儂をわざと四球で歩かせて大牙との勝負になるはずじゃが、さすがに夏の大会ともなれば一切の油断はせぬのか、2球目からはストライクゾーンに投げてきおった。


「ストライク!」


 キレの良いスライダーが外角ギリギリに決まり、審判が高らかにストライクを宣言した。


「どうしたの? 手も足も出ないのかな?」


 佐山は余裕たっぷりに笑っておる。


 ええい、相変わらず厄介なスライダーじゃ。サイドスローから放たれるそれは右打者に対しては外に逃げ、左打者に対しては内角を鋭く抉ってきよる。


 球速も相まって打ち崩すのは容易ではなさそうじゃ。


「舐めるでない!」


 儂は3球目のストレートをコンパクトに振り抜いたが、セカンドの好プレーに阻まれてチェンジと相成った。


 さすがに守備が良い。

 次の打席では簡単にはやられはせぬからの。


「1回の裏、黒海学園の攻撃は、1番ショート、前田君」


 そして1回裏の攻撃になり、黒海学園の先頭打者がバッターボックスに立ちおった。

 こやつは前回の試合でバントの構えをしながら揺さぶってきたやつじゃ。


「もう好きにはさせぬぞ」


 儂は初球に真っ直ぐを投じると、バッターは見逃しおった。


「ストライク!」


 ストライクがコールされ、球場から歓声が上がった。


 球速159キロ。自己最速タイじゃ。


 バッターは卑屈な笑みを浮かべると、弱点は分かってるぞと言わんばかりにバントの構えをしおった。


 じゃが、儂はお構いなしに大牙の要求するストライクゾーンへと投球を続けて2ストライクに追い込んだ。


 そして3球目。

 大牙のサイン通り魔球のフォークを投げると、バッターはバントの構えをしたまま掠りもせずに三振しおった。


「ストライク! バッターアウト!」


「いいぞモリツネ!」


「うむ!」


 儂は大牙の返球を受けて頷いた。

 上々の滑り出しじゃ。


 それにしても先程から鳴り物の音がすると思って客席を見上げると、黒海学園側のスタンドは前回の春季大会よりも遥かに人が多く、吹奏楽部の応援団まで来ておる。

 他にも黒の帽子を被った大勢の連中がメガホンを叩きながら大声援を送っておるではないか。


 こういうのも大牙がいうところのプレッシャーになって、並のチームならば呑まれてしまうのじゃろうな。じゃが、既に吹っ切れておる儂には無関係じゃった。 


 前回あれだけ泣いて恥を晒したのじゃ。あとはもう開き直るだけといえるじゃろう。


「ちっ、前より速くなってやがる」


 苦々しげに吐き捨てた先頭打者を尻目に、儂は後続の2番と3番も三振に切って取った。


 全く打たれる気がせんかった。

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