表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白球狐の夏  作者: 春雨 蛙
第四章 灼熱の夏
24/40

みんなで料理

「飯じゃ飯じゃ飯じゃ!」


 外から保養施設に戻るなり、儂はドタドタと足音を鳴り響かせながら食堂へと走った。


「アンタ練習のときより元気ね」


 呆れたようにネネが呟く。


 すっかり野球部員となったネネは今回の合宿にも参加しておる。

 相変わらず体力はからっきしじゃがのぅ。


「当然じゃ! 日中さんざんシゴキ倒されて腹ペコじゃからの! 合宿なんぞ飯ぐらいしか楽しみがないわい!」


 じゃが、そんな儂の淡い希望を打ち砕くかのように、食堂では信じられぬ光景が広がっておった。


「ごめん……」


 マネージャーの立花が謝っておる。


「な、なんじゃこれは……」


 今日の夕食はカレーじゃと聞いておったが、見ればまだ何もできておらぬではないか。


「食材がさっき届いたばかりで全然用意できてないの。今のうちにお風呂に入ってきてもらえるかな?」


 両手を合わせた立花が申し訳なさそうに言った。


 周囲からは落胆の声が聞こえ、部員の中にはショックのあまり床に倒れ込む者までおるではないか。

 辛い練習を終えてようやく飯にありつけるという状況でこの仕打ちはあんまりじゃった。とはいえ、嘆いたところで現状は何も変わらぬ。


「ええい、やむを得ん。こうなれば皆で手分けして作ろうではないか!」


「え?」


 儂の提案に立花が驚いておる。


「おれ料理とかできねぇよ……」


「カレーってどうやって作んの?」


「もう野菜生で食わねぇ?」


 部員たちからは不満の声が上がっておった。


「料理せんでも野菜の皮くらいなら剥けるじゃろうが。包丁が扱えぬならピーラーを使え。儂らが食う飯じゃろう? マネージャーばかりに仕事を押し付けるでないわ!」


 儂はエプロンを着けて厨房に入ると、次々に指示を出した。


「ニンジンとジャガイモの皮が剥けたら儂のところまで持ってくるのじゃ!」


 既にタマネギと肉を切り分けた儂が吠えた。


 部員たちがぎこちなく皮を剥いとる間に、儂は大鍋2つにタマネギを均等に投入して炒め始め、やがて運ばれてきた野菜を高速で切り刻むと、ジャガイモ、ニンジン、肉の順に鍋に放り込んだ。


「やけに手際が良いな。家でも料理してるのか?」


 もう片方の鍋を手伝いながら、大牙が感心した様子で尋ねてきた。


「ふん、この程度は女の嗜み……い、いや、いつもは瞳に任せきりじゃが、儂もたまには料理するからの」


 儂は慌てて誤魔化した。 

 部員たちも料理する儂の姿が新鮮なのか、勝手な感想を口にしておる。


「なんかイメージ変わるわ」

「普段とのギャップが……」

「結婚してくれ!」


 やれやれ、勝手なやつらじゃ。


「さて、あとは水を沸騰させたらルーを入れて煮込むだけじゃな。立花、残りは頼めるかえ?」


「うん。ありがと森宮君」


「気にするでない。立花にはいつも世話になっとるからの」


 これは日頃の恩返しでもあるのじゃ。


「……アンタ変わったわね」


 ネネが意外そうに呟いた。


「そうかえ?」


「昔のアンタなら文句しか言ってなかったと思うわ」


「ふむ。儂が変わったとすれば若人たちのおかげかの」


 そんな儂の姿を、大牙も頷きながら見ておった。

 なんじゃ、あの後方腕組み理解者面は。

 まるでモリツネも成長したな、と言わんばかりの顔じゃ。


「よし、じゃあ今のうちに皆で風呂に入るぞ」


 そのとき、主将の根岸がとんでもないことを言い出しおった。


「皆で風呂じゃとぉ!?」


 儂は思わず声を上げた。


「何を驚いてるんだ?」


「い、いや、儂はよい。やはりここでカレーを見ておる」


 なぜ全員で風呂に入らねばならぬのじゃ。


 全員で入浴するということは、つまりこやつらの裸体を目にするということじゃ。

 儂は今たしかに男の姿をしておるしモノもついておるが、やはり恥ずかしいものがあった。


「汗かいたんだからさっさと入った方がいいだろ」


「な、ならば儂は後で入る!」


「風呂から上がったらすぐに食事なんだから時間ズラしたら面倒だろうが。和を乱すなよ」


 出おった。チームの和を乱すなという体育会系にありがちな同調圧力じゃ。

 こんな因習ばかり引き継いでおるから、野球部に入りたがる若者も減っておるのではないか。


「くっ……やむを得ん。一緒に行ってやろうではないか」


 儂は覚悟を決めた。


「大げさなやつだな」


 根岸が呆れる。


 儂とて800年の時を生きる中で浮いた話の一つや二つなかったわけではない。嘘ではないぞ。真じゃぞ? 

 じゃが、男の裸なんぞ久しく見てはおらんかった。こんなの試合よりも緊張するではないか。


「あ、あたしは身体の調子が悪いからパス。後で落ち着いたら入らせてもらおうかしら」


 ネネは逃げることにしたようじゃ。

 儂は腹を括ったというのに、けしからん。


「皆の衆! ここに和を乱す裏切り者がおるぞ! よいのかえ?」


 儂は周囲に訴えた。


「姫は……仕方ねぇよ」

「あぁ……」

「お姫様だからな」


「なぜそうなるのじゃ!?」


 すっかりお姫様キャラクターとしての地位を確立したネネだけは無事に逃げ果せたのじゃった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ