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白球狐の夏  作者: 春雨 蛙
第三章 強力な助っ人
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誰じゃこのオタク小僧は

 翌日の午後、体調不良で保健室に行くふりをした儂は屋上でくつろいでおった。

 退屈な授業なんぞ適度にサボるに限るわい。


「ここにいたのね」


「おん?」


 背後から声をかけられた儂が振り向くと、そこには見知らぬ男が立っておった。

 大柄でメガネを掛けた長髪のモッサリとした男じゃ。なぜか汗だくになっておる。


「探したわよ」


「誰じゃこのオタク小僧は?」


「あたしよ! あたし!」


「冗談じゃ。思ったより早く取り憑く人間を見つけたようじゃの」


 まさか昨日の今日で獲物を見つけるよるとは思わなんだ。

 予想以上に仕事が早いではないか。


「当然じゃない。あたしを誰だと思っているのかしら」


「それで、ちゃんとその人間から同意は得たのじゃろうな?」


「もちろんよ。ほら下僕、ちょっと出てきて挨拶なさい」


「は、はじめまして! 姫野耕太郎ひめのこうたろうと申します!」


 ネネが促すと、男の声色が変わりおった。

 緊張しておるのか、かなり上擦った声じゃ。


「うむ。儂はツネじゃ。ネネから聞いておるやもしれぬが、ここでは森宮恒夫という名で通っておる」


「は、はい!」


「ネネに身体を貸して本当によいのじゃな?」


 儂は姫野とやらに念を押した。


「はい! ちょうど毎日退屈していましたのでネネ様からお声掛けいただけて嬉しかったと申しますか、僕オタクに優しいギャルが好きなんですけど、オタクに厳しいギャルも新鮮というか、いいなって」


「黙れ下僕」


「ッ!?」


「誰が余計なことまでベラベラ喋っていいと言ったかしら?」


「も、ももも申し訳ございません!」


「モブのくせに自我を出すな」


「ありがとうございますッッッッッッ!」


 ネネと姫野が交互にやり取りしておる。

 身体はひとつじゃから、傍から見れば完全に危ない人間じゃ。


「ふむ。需要と供給が一致したようで何よりじゃの。姫野は野球経験はあるのかえ?」


「ありませんが、相撲をやってましたので力はある方だと自負しております!」


 見たところ身長は180センチ前後で体重は100キロといったところじゃろうか。

 たしかに力を期待できそうな体格ではある。


「ま、このガタイだし何とかなるんじゃない? あとはあたしに任せなさいな」


 ネネが呑気にほざきおった。


 あまりに楽観的じゃから少し嫌な予感がしてきたわい。

 ま、とにかくこやつを紹介するとしようかの。


 儂は大牙と主将の根岸、監督の見川に話をつけると、姫野の身体を借りたネネはさっそく体操着姿で練習に参加することになったのじゃった。



「えー、今日は皆さんに嬉しいお知らせがあります。新たに部員として1年生の姫野君が加わってくれることになりました。姫野君、ご挨拶をお願いします」


 監督の見川に促されて、ネネが前に出た。

 部員たちは周囲より一回り大きいネネの身体つきを興味深そうに眺めておる。


「今日から野球部に入る東堂ネネ……じゃなかった、姫野耕太郎よ。よろしく人間共。せいぜいあたしの足を引っ張らないことね」


「……?」


 困惑した部員たちが顔を見合わせておる。

 何だこいつは、と顔に書いてあった。


「ちょっと来るのじゃ」


「な、何よ急に!」


 儂は速やかにネネを裏へと引っ張っていったのじゃった。


「なんじゃあの喋り方は。少しは口調を考えぬか」


「アンタにだけは言われたくないんだけど?」


「儂は元からこうじゃからよいのじゃ」


「あたしだって元からこうなんだからいいじゃない」


「姫野に配慮せよと申しておるのじゃ。これではぬしが抜けた後に学校で浮いてしまうではないか」


「何であたしが下僕のために人間共に迎合しなきゃいけないのよ。下僕だって別に構わないでしょ?」


「はい! 既に学校どころか家でも社会でも浮いてるので大丈夫です!」


「……そうかえ。それなら好きにせい」


 諦めた儂はネネを連れてグラウンドへと戻った。

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