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白球狐の夏  作者: 春雨 蛙
第三章 強力な助っ人
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大牙と夕飯

 ネネの襲来から数日。


 儂は悶々とした気持ちを抱えながら野球の練習に出ておった。

 案の定というべきか、ネネはあれから儂の監視という名目で家に居座るようになった。


 瞳も迷惑じゃから叩き出せばよいものを「ツネちゃんのお姉さんにそんな失礼なことはできない」などとほざいておる。

 おかげでネネはつけ上がる一方じゃ。

 今日は儂に向かって帰りに菓子を買ってこいなどと偉そうに命令しおった。


 これ以上あやつのワガママが悪化する前にどうにかせねばならぬ。


「モリツネ、ちょっといいか?」


 練習後、今後の対処法を思案しておる儂に大牙が話しかけてきおった。

 いかん。今日の練習に身が入っておらなんだことを指摘されるじゃろうか。


「なんじゃ?」


「今のチーム状況について話したいことがあるんだが、帰りに食事でもどうだ?」


「なぜ儂が練習後の貴重な時間を割いてまでぬしと飯なんぞに行かねばならぬのじゃ。儂は多忙を極める身じゃぞ」


「俺の奢りでもダメか?」


「奢りじゃと? それを先に言わぬか。奢りならば行ってやらんこともない」


「現金なやつだな」


 大牙が呆れたように苦笑しおった。


 実のところ、家に帰ればネネがおるのかと思えば足取りが重かったゆえ、良い息抜きになりそうじゃ。

 予め瞳に飯は要らぬと連絡を入れておけば問題はあるまい。


 瞳はネネと予想以上に上手く付き合っておるみたいじゃし、ふたりきりにしても特に心配はいらぬじゃろう。


「ふん、何を食わせてくれるのかと思えばファミレスの飯にドリンクバーか。少しでも期待した儂が間違いじゃったわ」


 やがて儂は大牙が案内した近所のファミリーレストランの上座でふんぞり返った。


「高校生に何を求めてるんだお前は。その割にはさっきから炭酸ばかり喜んで飲んでるようだが?」


 注文した料理が来るまでにドリンクバーを5往復しておる儂に大牙が眉をひそめた。


「別に喜んでなどおらぬ。儂はドリンクバーでは元を取るために最低でも10杯はおかわりすると決めておるだけじゃ」

 

「ドリンクバーで元を取ろうとする発想が俺には理解できねぇよ。原価がどれだけ安いと思ってるんだ?」


「重要なのは値段ではない。精神的に勝利するか否かじゃ」


「ますます分からないな」


 大牙が首を傾げた。

 ま、こやつ如きには一生かかっても理解できぬ領域じゃろう。


「それで話ってなんじゃ?」


 儂は運ばれてきたハンバーグを解体しながら尋ねた。


「ああ。モリツネ、今のチームをどう思う?」


「どうってなんじゃ? いつも通りじゃろう」


「質問を変えようか。今の状態で夏はどれだけ勝ち進めると思う?」


「ふむ。この儂がおるのじゃから当然優勝……と言いたいところじゃが、厳しいじゃろうな。その辺の高校に負ける気はせぬが、黒海学園のような強豪相手では打線があまりにも貧弱すぎるわい」


 儂は正直な感想を吐露した。


「お前も同じ考えか。俺も今のままでは難しいと思ってる。先輩方を信じていないわけじゃないが、俺やお前が打つだけではダメなんだ。チーム全体の打力を向上させないとな」


「それを信じておらぬと言うのじゃ。きひひ、普段口ではチームプレーがどうじゃの、リスペクトがどうじゃのとほざいておきながらこれじゃ。まったく腹黒いやつじゃのぅ」


 大牙は現実主義なところがあるからの。

 眠たい綺麗事を抜かしておっても内心では色々とシビアに計算しておるのじゃ。


 ま、そういう強かなところは儂は案外嫌いではないがのぅ。


「なんとでも言え。本気で勝ちを狙うためにできることをするまでだ」


「具体的にどうするつもりなんじゃ?」


「打撃中心のメニューと並行してできれば新戦力も欲しいところだな。お前、野球経験者でまだ部活に入っていない同級生を知らないか?」

 

「野球経験者でまだ部活に入っていない同級生じゃと? この時期にそんな都合の良い存在がおるわけなかろうが」


「まぁ、そりゃそうだよな……」


 やれやれ、そんな夢物語に縋るとは大牙も焼きが回ったものじゃのぅ。


 いや、待つのじゃ。


 都合の良い存在……。

 都合の良い存在……。


「きひ! きひひひひひ!」


「いきなり不気味な笑い方してどうした?」


 なぜこんな簡単なことに気がつかなかったのじゃ。

 野球経験者というわけにはいかぬが、おるではないか、都合の良い存在が。


 そうじゃ。家でゴロゴロしておる穀潰しに働いてもらおうではないか。


 あやつは気に食わぬが、腕力だけはあるからのぅ。

 当たれば飛ぶロマン砲の枠としてチームの打力を向上させるには充分じゃろう。

 

 そしてあやつを野球部に引き込めさえすれば、もう母上にチクるなどという脅しは使えなくなるのじゃ。

 自分で自分の首を絞めることになるだけじゃからのぅ。


「その問題、儂に任せてもらえば解決できるやもしれぬぞ」


「心当たりがあるのか?」


「うむ。ま、大船に乗ったつもりで儂に任せ……ぅげぇぷッ!」


「汚ねぇな!? 炭酸ばかり飲むからだ!」


 盛大にゲップした儂を大牙が非難した。


 うぅ……儂としたことが乙女にあるまじき醜態じゃ。

 まぁよい。ようやく光明が見えた。


 あやつを……ネネをこちら側に引き込んでやろうではないか。

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