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白球狐の夏  作者: 春雨 蛙
第二章 春季大会
17/40

すまんかった

 そして迎えた翌日の夕刻。


 儂は瞳に持たされた菓子折りを抱えながら公園のベンチで項垂れておった。

 そろそろ部活の時間じゃろう。


 教室で大牙と鉢合わせするのは気まずいゆえ、授業には出んかった。

 ただ一言「昨日はすまんかった」と詫びて頭を下げるだけじゃというのに、足が棒のように重い。

 もうここで菓子折りを平らげて、謝った体で家に帰ってしまおうか。


 じゃが、瞳はそんな嘘は簡単に見抜いてしまうじゃろう。

 あやつは抜けておるようで案外鋭いところがあるからのぅ。


「ええい、覚悟を決めるか」


 物事には逃げても良いときと逃げてはならぬときがある。

 今ここで逃げてしまえば一生後悔するに違いない。


 儂は清水の舞台から飛び降りる心持ちで部室へと向かうのじゃった。


「た、たのもう……」


 遠慮がちにドアを開けて中へと入る。


 部室には既に半数以上の部員が集まっておった。

 昨日あれだけ喚いて飛び出した後じゃったから、さすがの儂も気まずいものがあった。


「そ、その、なんじゃ、きき、昨日はその……」


「お、スネ夫きた」

「スネ夫が来たぞ」

「遅かったなスネ夫」

「待ってたぞスネ夫」

「元気だったかスネ夫」


 儂が言い淀んでおると、部員たちが一斉に口を開いた。


「恒夫じゃ! わざとらしくスネ夫呼びするでないわ!?」


 ええい、せっかく儂が勇気を出して謝罪に来たというのにふざけおって。


「それで、何か言いたいことがあるのか?」


 大牙が儂を真っ直ぐ見据えておる。


 これ絶対怒っとるじゃろ。


「あー、その、なんじゃ、本日はお日柄も良く……」


「結婚式かよ」


「やかましい! 揚げ足を取るでないわ!? ……その、なんじゃ、一晩経って頭が冷えたというべきかの、勢いで野球を辞めると申して飛び出してしもうたが、やっぱり取り消してはくれぬかの? それと、その……色々と迷惑をかけて、その、すす、すまんかった」


 儂は菓子折りを差し出しながら頭を下げた。


「すげぇ……あの森宮が人に謝るところなんて初めてみた」

「俺たち夢の中にいるのかもな」

「そのうち地震でもくるんじゃね?」


 部員たちが好き勝手に言い合っておる。


「茶化すでないわ!?」


 儂はたまらず抗議した。


「モリツネ。そもそもお前が勝手に辞めるとか言って飛び出して行っただけで、俺たちはまだ何も言ってないんだよ」


 淡々と大牙が言った。


「のぅ、それってつまり……?」


「好きにしろってことだ。野球を続けたいなら続ければいい」


 なんじゃそれは。

 全部儂の独り相撲じゃったというわけか。


 儂は無言で腕組みしておる主将の根岸を見た。


「そういうことだ。さっさと練習着に着替えろクソガキ」


「クソガキとは何じゃ! クソガキとは!?」


「あと……悪かったな」


 根岸がポツリと呟く。


「おん?」


 儂は一瞬、耳を疑ってしもうた。

 今こやつは儂に謝ったのじゃろうか。


「ひとりで野球をするなと言っておきながら、俺たちはお前を孤立させてしまっていた。プライドの高いお前のことだから下手に声をかけるよりも好きにやらせた方がいいと思っていたが、間違いだった。もっと積極的に声をかけてやるべきだったんだ」


 いやはや驚愕じゃ。

 あの器の小さい根岸が謝罪するとはのぅ。


 これは儂の謝罪よりも貴重なのではないか。


「ふ、ふん! 分かればよいのじゃ! 分かれば!」


「調子に乗るんじゃねえ!」


 激昂した根岸にヘッドロックを仕掛けられ、儂は手にしていた菓子折りを床に落としてしもうた。


「え……てかこれ、もう封開いてね?」


「おぉ、小腹が空いておったからのぅ、既に儂が5つほど平らげてやったわい。人数分残っておるかは怪しいところじゃな」


「お前全然反省してねえだろ!?」


 根岸のヘッドロックに力が入った。


「ギギギ! 暴力事件じゃあ! 高野連に通報して出場停止じゃあ!」


 儂の悲鳴が部室に木霊した。


 ま、紆余曲折あったが、これで儂は無事に北浜高校の野球部へと復帰したというわけじゃ。

 それにしても黒海学園の連中め、儂にこれほどまでの屈辱を味わわせてくれたからには、畳の上で死ねるとは思わぬことじゃな。


 夏じゃ夏。本番となる甲子園大会の予選で叩き潰してやろうではないか。


 儂は黒海学園へのリベンジを強く誓うのじゃった。

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