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白球狐の夏  作者: 春雨 蛙
第二章 春季大会
14/40

強豪校の4番打者

「4番、ファースト、首藤君」


 そして迎えたのは黒海学園の厄介な4番打者じゃ。

 こやつだけは先程の打席でも特大飛球を放っておったから油断はできん。


「なっ!?」


 じゃが、ここで儂は大牙の配球を見て驚愕した。

 要するに最悪歩かせてもよいからボール球主体で勝負しろと指示しておるのじゃ。


 儂は首を振り、しばらく険しい顔でやり取りが続いたが、大牙はこれ以上揉めたくないのか、諦めたようにストライクを要求しおった。


 そうじゃ。それでよいのじゃ。

 歩かせるなど負けを認めたようなものではないか。

 それで試合に勝ったとしても儂はちっとも嬉しくなんてないからの。


「くらぇええええええ!」


 儂は初球に外角高めギリギリに入るストレートを投じた。

 首藤はこれをフルスイングするも、バットは空を切った。


 ふん、プロ注目の4番打者だか何だか知らぬが、こんな木偶の坊を相手に大牙は何をビビっておるのじゃ。ただバットを力任せに振り回すだけの典型的な金属打ちではないか。


 これではよしんばドラフトで指名されても木製バットを使うプロ野球では通用せんじゃろうな。

 しかも高校生の時点で右打ちの1塁専とくれば潰しも効かぬから、高卒でプロ入りしても3~4年でクビになって一巻の終わりじゃろう。ざまあみよじゃ。きひ、きひひひひひひひ。


 儂は勝手に首藤とやらの行く末を空想してニタニタと笑った。


 じゃが、初球こそストライクを取れたものの、そこから3連続でボールを与えてしまい、カウントは3-1。次にボールを与えてしもうたら四球で満塁じゃ。大牙はそれを望んでおるのやもしれぬが、儂は違う。それでは負けも同然ではないか。


 そしてストライクを取ろうとコントロール重視で投じた5球目のストレートでそれは起きた。


「なっ!?」


 やや真ん中寄りに甘く入ったストレートを首藤がフルスイングすると、ボールはピンポン玉のように飛んでバックスクリーンへと消えたのじゃった。


 3、3ランホームランじゃと……。


「うぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!」

「ナイスバッティング!」

「首藤さんさすがっす!」


 黒海学園側のベンチやスタンドはお祭り騒ぎになっておる。

 ついに試合の均衡が崩れたのじゃ。


「わ、儂の真っ直ぐが打たれた……」


 本当にこれは現実なのじゃろうか。

 野球を再開してから一度も打たれたことのなかった儂の球が……。


 夢じゃろこれ。そうじゃ、夢に違いない。


「落ち着けモリツネ! 置きにいった球を痛打されただけだ! お前のピッチングはちゃんと通用してる!」


 大牙が何やら叫んでおったが、既に儂の耳には入っておらんかった。


 儂の球が打たれた……儂の球が……。


「ぐあぁぁああああああああああああああああああーッ!?」


 続く5番打者に投じた初球で、儂は相手の足にぶつけてしもうた。

 死球を食らった打者は悶絶しておる。


 普段の儂ならば指を差して大笑いするところじゃが、冷や汗しか出てこんかった。

 一体儂はどうしてしまったというのじゃ。


「うぐっ!?」


 儂は続く6番打者にも死球を与えてしもうた。

 ボールは背中に当たり、打者が苦しそうに呻いておる。


「おいモリツネ、お前まさか……」


 最初の死球では「わざとぶつけてビビらせるなんて案外冷静じゃないか」とでも言いたげな表情を浮かべていた大牙じゃったが、儂が二人続けてぶつけると血相を変えおった。


「す、ストライクが入らぬ……」


 次の7番打者は完全に腰が引けていて立て直すチャンスじゃったが、儂は4球続けてボール球を放りフォアボールで歩かせてしもうた。これでまた満塁じゃ。


「落ち着けモリツネ! 深呼吸しろ!」


 大牙が何やらほざいておったが、無駄じゃ。

 思えばホームランを打たれた時点で、儂のガラス細工のように繊細なメンタルは崩壊しておった。


 その後も儂のコントロールは乱れに乱れ、気づけば5番打者から数えて八連続の四死球を与えてしまい、スコアは0対8。


 尚も1アウト満塁で打順は再び4番の首藤にまで回ってきたのじゃった。

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