運ぶだけの仕事
簡素な馬車が軽やかに街中に入ってきた。そのまま街路を進んでいく。魔術教室の前で馬車は止まり、そこからベルンハルトが降り立った。
「こら!待ちなさい!」
ソムナリアの声が外まで聞こえてくる。教室の中では、魔術で火を出す児童がいれば、泣いている児童もいる。ソムナリアは別の児童を追いかけていた。
「へえ……大変そうだ……」
ベルンハルトは微笑みながら、教室の様子を眺めていた。
子どもを捕まえてひとしきりお説教を終えたソムナリアが、ようやくベルンハルトに気づいた。
「あら、早かったね」
近づいてきたソムナリアに、ベルンハルトは軽く会釈する。
「確かにそうだね。少し待つよ」
「ごめんなさいね。もうすぐ終わるから」
ソムナリアはそう言って教室へ戻った。
ベルンハルトは馬車に戻り、荷台に横になった。しばらくして、街の中心部から鐘の音が響く。鐘を合図に、ベルンハルトは起き上がった。
魔術教室から児童たちが思い思いの方向へ帰っていく。入れ替わるようにして、ベルンハルトは教室に入った。
「ごめんね、待たせたね」
「そんなことないよ。俺が早く着きすぎただけだよ」
ソムナリアは床に落ちていた袋を拾いながら言った。
「で、その手紙ってどんなものなの?」
ベルンハルトはバックパックから革製の筒を取り出し、その中から巻物を引き出した。
「これがその手紙だ」
「ふうん……高貴な女性からの恋文……かな」
ベルンハルトが目を向ける。
「分かるのか?」
「だって、ローズウォーターの匂いがするもの」
「へえ……俺、知らなかった」
「それとね、封蝋してあるでしょ?」
「あるね」
「ここにローズウォーターを仕込んでおくと、封蝋を取ったときに匂いがするんだって」
「ふうん……」
ベルンハルトは巻物を筒に戻した。
そこへ中年の女性が入ってきた。
「あ、ベルンハルト君……だっけ?」
「ローザさん、こんにちは。そうです。ベルンハルトです」
ベルンハルトはバックパックから、手紙と入れ替えに書類を取り出した。
「こちらの命令書にサインをお願いします」
「あ、確かに私が職場長になるわね。ちょっと待っててね」
ローザは羽ペンを取り、命令書に署名した。
「これはソムナリアに渡せばいいのね?」
「そうです」
ローザが立ち上がる。
「じゃあ、ソムナリア、ちょっと来て」
「はい」
ソムナリアがローザの前に立つ。
「はい、命令書。ベルンハルト君に同行すること」
ソムナリアは命令書を受け取った。
「いっといで」
「いってきます」
ソムナリアは命令書を懐に納め、床に置いていたバックパックを担いだ。ベルンハルトが教室のドアを開く。
「あ、ありがとう」
ソムナリアが外に出る。振り返ると同時に、ベルンハルトがドアを閉めた。
ベルンハルトは馬車へ向かい、荷台に乗った。ソムナリアも馬車に近づく。
「ソムナリア、そのバックパックを渡して」
言われるままにバックパックを渡すと、ベルンハルトはそれを荷台に置いた。
「ここまで上がれる? 手を貸そうか?」
ソムナリアは首を横に振る。
「ここにステップがあるから、上がれるよ」
「あ、そうか。それなら大丈夫だね」
ベルンハルトは愛想笑いを浮かべた。
ソムナリアは独りで荷台に乗った。ベルンハルトは進行方向に向かって左側の奥に座っている。ソムナリアは右奥に腰を下ろした。
ソムナリアが座ると同時に、ベルンハルトが御者に向かって言った。
「いいぞ、出せ」
御者はうなずき、手綱を操る。馬車はゆっくりと進み始めた。
ほどなくして門をくぐり、街を出る。太陽に向かって馬車は進む。
「あ、そうそう」
ソムナリアはバックパックの中に手を入れた。
「魔術士同行だから、こういうのもいるかなと思って」
片手に収まるほどの、薄い円筒形の物体を取り出す。
「これはマナ感知器といって……」
マナ感知器の上面が、ぼんやりと光っている。
「……え?」
ソムナリアの口が止まった。




