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愛したいろのかたち  作者: あおぞら えす


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あかい実  後日談その二  鏡の中の世界



 アミが生まれる前の話。


 ユミにはまだ自分のことを半分しか理解していなかった。『愛する』ということが、彼女を守り、成長させ、そして、愛の形を作り出した。

 誰もがそれを己の自己陶酔だというかもしれない。そこに偽りがなく、事実があるだけ。

 ユミの持っている知識や力は確かに素晴らしかった。死ぬ直前になるまで、彼女はその瞳は輝いていた。生きている全ての人間に優しさを与えた。

 どうしてユミはこの星で生きて死んだのか。



 ある暮れる前の夕方。ユミは家で静かに編み物をしていた。部屋の戸がノックされ、返事をしたユミは、目の前の状況に言葉を失った。

 開かれた扉の先は、見知った光景。いや、遠い彼方に忘れてきた風景。

「やぁ。」

 声には張りがあり、まるで本当に生きているような。

「ははは。忘れられているならそれでもいいさ。俺はあんたのことを忘れはしないし・・・。なんなら『現実』がこっちだといってもいい。そちらの世界は閉じられている。不思議だろう。俺には不思議でもなければ、これが真実だから。」

 扉の先にあるのは異世界だ。そして、その異世界こそもう一つのユミが生きる世界。いいや、違う。ユミという名前は単なる肩書き。

「・・・。宮訊癒魅は元気かしら。」

「うーん・・?元気ではないよ。あんたと同じさ。あんたがそうであるように、鏡の向こう側も同じ。死ぬことも含めて、あんたと同じ。ただし、こちらとそちらでは違う。あんたは大勢いて、そちらの鏡の世界の住人は気がつきもしない。」

 ユミは言葉を失ってしまう。確かに、鏡に映された世界と鏡の中の世界は違う。元気がないユミが映った鏡を見た、癒魅は少し元気を失せたのかもしれない。

「癒魅はわたくしの鏡をもう見ないのね。」

「・・・それが現実。あんたが見せた世界にうちの癒魅の力は一時でも消えてしまった。魔力のある鏡だからこそ起きた出来事。とはいえ、あんたも悲しみの中にいるようだ。もう二度と会うことはないが。」

 笑顔で笑う男性は、まるで全てを見通しているかのように呟く。

「・・・会う必要もないのに、わざわざ教えてくださったのね。」

 ユミは笑う。相手の優しさはこちらの世界でも同じだった。

「ふふふ。そうだな。お前の旦那は俺によく似た顔をしているだろう。鏡の中はどうしてもそうなる。」

「えぇ。全て同じように感じる。けれど、名前は違う。」

「・・・。そこに意味がある。決して全て同じではない、ということだ。力が戻らないのは、魔力が失せる時が来た、ということ。鏡の世界は変わらずあるだろうが・・・。あんたはいなくなる。あんたのその力そのものがこの鏡の世界で生きられたのだから。」

 ユミは呟いた。

「他の、みんなもね・・・。」

「場違いな人々が消えていくのは、魔力の供給が止まったからだ。それに、このまま暴走した鏡がどうなるかなんて、わかりきっている。」

「・・・、割れて、世界は消える。」

「だから、魔力を止めることにした。それはこちらの現実では必要だったから。あんたが知ることに意味はないが、あんたの心のモヤモヤは晴れただろう?」

「・・・えぇ。そうね。生きられない理由も納得した。あとは、私が死ぬことで、この『鏡の世界』を知ることは出来なくなる。この世界は・・・孤独なのね。」

「現実は意外と恐ろしく極めて不愉快だよ。俺が真実を話したところで、あんたが誰かにそれを教えることもない。現実主義であるところは、現実の彼女と同じ。」

 ユミは小さく頷いた。宮訊癒魅の性格が鏡の世界の自分と全て同じ。そして、彼女のことだ。その性格に則って、魔力を全て止めるのだ。本人は鏡の世界が壊れないことを望むのだから。鏡と同じように作り出された自分が消えたとしても、何も想わない。

 ユミはコピーされているからこそ、その性格の中の中心に、己を守るという最も大きな想いがあることも知っている。

 宮訊癒魅は、自身の力を周りに悟られないように生きる、物静かな女性。彼女が異世界では、誰よりも冷たく、相手への優しさがあっても、仲間にしかその優しさを与えない、冷えた女性だと言うことを、ユミは知っている。性格が同じでも、強い個性が表れたのは、本物の強い魔力があったからだ。

「・・・。わかったわ。私の死が終りと同時にこの鏡の世界は閉ざされるのね。」

「・・・・・そうだな。他にも似たように、俺たちのコピーされた奴らがいるだろう。あの鏡の前に立った奴らは全員、同じ鏡の世界の住人としてインプットされた。まぁ、いずれは死ぬだろうとは思うが、その時に理由を教えるか悩んだ。あんたに話してこちらも決めたよ。あんた以外は知らなくて良いってね。」

 彼はひとしきり話した後、ようやく、肩の力を抜いた。


 鏡の世界に入ることはできないが、何かしらを通じて連絡した。それこそが凄いことなのだが。

 幻零夢鷹。コードネーム:星夜。人知れず、努力するタイプの人間。極めて強い魔力と魔力量を保持しており、普段温厚であるがゆえに、怒りを伴うと破裂してしまうタイプ。無論、現実と鏡の中の人間がまったく異なったのは、彼の力が強い上に、どうしてもコピーは劣った。

 そんな彼が連絡をするために、魔力を使い、鏡の中のユミとコンタクトをとる。本来なら、できないことでも、出来てしまうからこそ、彼が星の連なりのメンバーのトップになったのだ。とはいえ、宇宙を旅行したりとか、そういうことではない。ただ彼とそのメンバーは魔法が使われる世界でとある国の人間としてメンバーの何人かと国を動かしているだけ。実際に魔法使いや超能力を使う人間が問題を起こす度に、制裁や、場を設けて戦うなんて事もしている。


 ユミには分からない世界だ。彼女は、宮訊癒魅ではないし、幻零夢鷹というすぐれた人なんて、知り合いもいない。でも、彼女と同じ顔で性格を持つ女性なら知っている。それが答えで、全て。

ーー死ぬ私は、きっともう何も知る必要はない。私の愛する子が生まれて・・。

 徐々に扉の先が揺らいだ。もう、お別れ。一つだけ知りたくて、尋ねた。

「ねえ。貴方の世界は、今も変わらないままなの?」

「そうだな。ただ、俺たちの世界がこの世界を繋ぐこともはもうないから、言おうか。」

「・・・?」

「この世界にあったはずのゼノロワ国は、こちらの世界で消滅した際に、失われた。だから、探してもないはずなんだ・・・。」

「・・?」

「伝えて欲しい・・・。ゼノロワ国・・・・。消滅は、カウントダウン・・・。」

 戸の先が揺らぎ、全てが消えた。

ーーなんのことかしら?

 ユミには分からない事だった。

 そして、ユミが亡くなる前にゼノロワを探している者達は真実を知ることもなく、消滅する。

 魔力が消え、鏡の中に閉じ込められた。




             あかい実  終り


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