57、完全勝利……?
「はっ?」
誰かの疑問の声が響く中、私は大幣と呼ばれるお祓い棒を手に取った。
大幣は神主様がお祓いの時に使う祭事用具のひとつで、紙垂と呼ばれる紙、麻の繊維を使用した紐、そして榊などの木の棒を利用して作られているもの。
罪や穢れを大幣に移し取って祓うという意味があるらしいのよ。神社で神主さんをしている友人が以前教えてくれたわ。
本当はお供物だったり、色々祝詞をあげてから大幣を振るのだけれど……私も正直そこまで詳しく知らないの。だから、まずは大幣を振るところから始めましょう!
私の手には、杖よりも大きくなった大幣が握られている。大きいので重量があると思われがちではあるけれど、片手で持ち上げられるほどの重さしかない。私は大幣が飛んでいかないよう、両手でしっかりと握り、左側へと大きく振った。
次に右、そして左……周囲が唖然と私の行動を見守る中、アンデットドラゴンに変化が起きる。
「ウウゴゴゴァァァァ……!」
私が大幣を振り回してから、ドラゴンが苦しみ出したのである。そして心臓があるであろう部分に、今までは見えなかった光り輝くものがチラチラと見え始めた。
それを見たコニーくんが目を見開いて大声を出す。
「あ……あれです! あれが魂の欠片だと思います!」
大幣による効果か、魔力で守られていた魂の欠片が顔を出す。けれどもすぐに魔力によって覆われてしまう。大幣で魔力に穴を開けてはすぐに閉じる、そんな状態が続いていた。
辺境伯様の攻撃も、タイミングが合わない。他の魔法使いさんも魔法で応戦するものの……すぐに閉じてしまうために、なかなか欠片まで届かないでいた。
手詰まりか……誰もがそう思ったその時――。
私の目の前を黒い何かがスッと飛んでいく。そしてそれは丁度空いた魔力の穴へと吸い込まれていき……魂の欠片へと突き刺さる。
思わずマチルダちゃんの方を見ると、彼女は満面の笑みでこちらに手を振っていた。隣でユウくんは頭を抱えていたけど。
辺りにアンデットドラゴンの悲痛な叫び声が響き渡る。
チャンスだと思った。
魂の欠片を捉えたのなら、あとは魂を浄化し、あるべき場所へ戻すのが鎮魂の儀なのよ!
「水の牙!」
アンデットドラゴンを呑み込めるであろう大きな水の虎を作り上げ、アンデットドラゴンへ放った。
「アンデットドラゴンに水……?!」
コニーくんが後ろで驚いているけれど、これはただの水じゃないの。
ドラゴンも苦しんではいるけれど……攻撃が水属性だからか、避けるそぶりもない。
「これは私特製の水よっ!」
虎がドラゴンを呑み込んだ、その瞬間。
「GUGYAAAaaaaaa――」
今までにないほど大きな悲鳴を上げる。
その出来事に、私の周囲にいた全員があんぐりと口を開けていた。
私はその間……再度左右に大幣を振ってから、祈りを捧げる。最後の水魔法が効いたのか、アンデットドラゴンの咆哮がだんだんと小さくなり……顔を空に向けたまま動かなくなってしまう。
私が祈りを捧げ終わると、魂の欠片がある部分から赤い光が放たれ始め……光が収まると、魂のあった場所には火の玉のようなものが鎮座していた。
最初はその場から動かなかった火の玉であったが、しばらくすると何かに導かれたのか、私の方へと向かってくる。誰かが「危ない!」と声をあげたけれど、私は何故か「これは大丈夫だ」と自信があった。
「クリスさん!」
焦るコニーくんの声が聞こえる。私はコニーくんへと振り向いて「大丈夫だよ」と告げた瞬間に、火の玉が私とぶつかった。そしてそれは私の身体を燃やすことなく、あるモノの中へと吸収されていく。
私はソレを取り出した。そう、以前マチルダちゃんに作ってもらった袋だ。
ピーコ一世を作り出した石……肌身離さず持ち歩いていたのだが、その石の中へと欠片が入っていく。
私の近くにいた人たちは、息を呑んでその様子を見守っていた。
そして欠片が全て石に回収されたと同時に、アンデットドラゴンは意志を無くしたのか……そのまま動くことはなく。
魔力も失った骨たちは、大きな音を立てて崩れていった。
その瞬間、辺境伯軍が沸く。
アンデットドラゴンに完全勝利したためだ。
「うおぉぉぉぉぉ!!」
地響きのような声が辺り一面に響き渡る。辺境伯軍は完全勝利を収めたのであった。




