51、夢見秘薬
「ならば僕があの魔法を掛けましょう!」
コニーくんが自信満々で告げている。あら、もしかして『短時間で良質な睡眠を取る魔法』のことかしら?
「あの魔法は本気を出せば、『三十分で八時間睡眠が取れる!』と資料に書いてありました――」
「あの漫画じゃねーか!」
コニーくんの言葉に被せて叫ぶユウくんを、私は不思議そうに見つめる。
「ユウくん、どうしたの?」
「……いや、なんでもない」
叫んで済まなかった、と謝罪するユウくんを横目で見ながら辺境伯様が話し始めた。
「コニー殿、それはどれくらいの人数に掛けられるのだろうか?」
「流石に全員は難しいですね……五百人くらいが限度かと」
五百と言えば、辺境伯領の騎士団四分の一ほどの人数だったはず。それだけ掛けられるコニーくんも凄いわよねぇ。
「五百か……」
ただ、辺境伯様が考え込むのも分かる。全員の体調を万全にできるなら、しておきたいわよね。私が一人で納得していると、後ろからユウくんが声を掛けてきた。
「なぁ、クリスなら使えるんじゃないか? コニーの魔法」
「えっ、そうなの?」
そう話されて私の目は点になる。あれ、コニーくんの魔法は神聖魔法じゃないのかしら? そう訊ねると、ユウくんは頭を掻きながら告げた。
「この睡眠の魔法は、日本で有名だった漫画に描かれている物だ……もしかしたら、イメージが上手くできれば魔法でも似たような事ができるのではないかと思ったんだが」
「でしたら、先ほどのように魔力の気配を辿ってみたらどうでしょう? 神聖魔法というのは、女神様の力の一部をお借りして使用している魔法だと聞いております。なんらかの神聖魔法と睡眠魔法を掛けてみて、違和感があるかどうかを探ってみれば良いのでは?」
そう言われてコニーくんにユウくんとマチルダちゃんへ睡眠魔法と神聖魔法を掛けてもらったのだが……神聖魔法はハルちゃんの存在を強く感じる。なんとなく、「これは使えないな」って思ったわ。けれども、睡眠魔法は違った。
確かにハルちゃんの存在も感じるけれど、神聖魔法ほどではない。私であっても使えそうな気がする。
そう伝えれば、辺境伯様は少し悩んだ後五百人ごとの交代で魔法を掛ける判断を下した。
まずはコニーくんが五百人に魔法を掛ける。そしてその後は私が掛ける、という形だ。私は最初のチームで寝てしまう予定。最悪最後の集団が寝ている時に来ても、私の魔法を使って殲滅できるかもしれない、という判断だ。
それ以降は、コニーくん、ユウくん、マチルダちゃんの順で魔法を掛けようと話し合った。その間にがきちんと睡眠魔法のページを開いていたので、元々これは神聖魔法ではなく、普通の魔法で使えるようにハルちゃんは作っていたみたいだ。
その頃には辺境伯様たちも順番が決まっており、第一陣が寝る準備へと入る……と言っても、この魔法の範囲がそこまで広くない事、人数が多い事もあって雑魚寝という形になっている。
私も女性の魔法使いさんたちと一緒に横になった。そしてコニーくんに魔法をかけられた私は、夢も見る事なくスヤスヤと眠った。
「……おはよう」
目が覚めると、一緒に寝ていた魔法使いさん達はもう既に起きていたようで、軽く体を動かしている。もしかしたら、寝坊したかもしれない……? と恐る恐る周囲を見回すけれど、まだ私のように寝起きの人がいるので、大丈夫そうだ。
私も皆と同じように立ち上がり、軽く伸びをする。うん、本当に目覚めが良い! 八時間くらい眠って自然に起きた時と同じような感覚だ。
「あ、クリスさん。おはようございます!」
コニーくんがニコニコと笑っている。彼の声に気がついたユウくんとマチルダちゃんもこちらにやってきた。
「お嬢様、よく眠れましたか?」
「ええ、ばっちりよ!」
満面の笑みでマチルダちゃんに告げれば、彼女は微笑む。
「それは良かったな。クリス、魔法は問題なさそうか?」
「ふふ、コニーくんの魔法を実際に受けたから、再現できそうよ」
「なら良かった」
ユウくんは魔法を再現できるかが心配だったみたい。そうねぇ、最初は難しいかもしれないと思ったのだけれど……が教えてくれた頁を読んで納得した。これって、マッサージを受けて寝てしまった後の体が軽い状態を考えるといい、と。
そうよね。ちゃんと寝たとしても睡眠の質が悪ければ、体は思うように動かないものね。マッサージを受けながら寝ているイメージで……。
色々と考えていたら、ユウくんに声を掛けられた。すでに次の番の人たちに入れ替わっているようで、コニーくんはもう目を瞑っている……早いわね。
私は今できる最上の魔法を皆に掛けた。
「夢見秘薬」




