49、賢者はスタンピートの予測ができる?!
「え……スタンピートが?」
思わず声に出る。皆が私のいいしれぬ不安に反応したようだ。なんとなくそんな感じがしただけなので、正直勘違いかもしれないと思ったのだけれど……皆はそう思わなかったらしい。辺境伯様やコニーくんも少し難しい表情をしていた。
「魔力量の多い者はスタンピートの予測ができると言われている」
え、どういう事? と首を傾げると、コニーくんが私に教えてくれた。
「これは史料に書かれていたのですが……魔力量の多い方は、人一倍他者の魔力を感じ取る事ができるそうです。先代賢者様はその筆頭だったらしく、一度スタンピートが起きた時、事前に察知されているらしいのです」
「コニー殿の言う通りだ。先代賢者様は『大きい何かがこちらに来る』という感覚だったらしいがな」
そう考えると、大きい何かが遠くでうごめいているという感覚に近かった気がする。
「魔物というのは、その身に厄災の魔力を宿しているモノの事を言うそうだ。それ以外のモノは動物と呼んでいる。そのため魔境の森にいるモノは魔物と呼ばれ、動物はいない。ただし、凶暴な動物は魔物と呼ぶ事がある」
なんでも、それが判明したのは先代賢者様の研究の結果だそう。それまでは、人間を見たら攻撃する凶暴なものを魔物と呼んでいたそうだ。
「先代賢者様曰く……厄災の魔力を宿している魔物は、普通の動物や人がまとう魔力よりも感じ取りやすいそうだ。だから、クリスティナ嬢の違和感は大事にするべきだ」
何かが遠くで起きているかもしれない、その恐怖に私は背筋が凍る。そんな時――。
「お嬢様、精神を統一して気配を感じ取る事はできないのですか?」
「精神を統一して……え?」
精神を統一、と言ったらよく武道で行われる黙とうみたいなものかしら? 首を傾げるとマチルダちゃんが話を続ける。
「目を瞑って心を落ち着かせた後、先程と似たような違和感がどこかにないか探ってみてはいかがでしょうか? お嬢様は先代賢者様の家を発見する際、魔力元を見つける事ができました。あの時と同じ要領で行えば、もしかしたら感じ取れるのではないかと思いまして」
「なるほど、確かにあの時クリスは魔力を感じ取っていたな」
マチルダちゃんに言われて思い出す。
そう言えば先代賢者様の小屋を見つけた時も、魔力で魔法の位置を把握していたような気がするわ。あれが、気配を感じ取る、という事なのね。
目を瞑り、先程と似たような不快感を察知してみましょう。
私が目を瞑ったからか、部屋は静寂に包まれる。そして顔を上げると左前方向……ずっとずーっと遠くではあるけれど、そこから不快感が漂ってくるような気がした。それが少しずつではあるけれど、動いている気配まで。
目を開けると、辺境伯様の真剣な表情が目に入る。
「……不快な感覚が、こちらに向けて少しずつ動き始めているのを察知いたしました。今はまだ遠い場所ではありますが……」
私が告げると辺境伯様は驚き、机の側にいた執事と話し始める。スタンピートに向けての対策だろう。
「すまない、騎士団との連携を取ってくる! 君たちは設置型魔道具を今から設置し、発動してくれ! それが終わったら、また屋敷に来て欲しい!」
私たちは頷いた。
「マチルダ、よく気配を感じ取るなんて事を思いついたな」
魔道具を設置している際、ふとユウくんがマチルダちゃんに声をかける。
彼女はきょとんとして首を傾げていたが、「ああ」と声を上げた。
「ああ、あの件ですね……まさか本当にできるとは思いませんでした。本当にお嬢様は規格外ですね」
しれっと告げるマチルダに、ユウくんの目がまんまるになった。
「はぁ?! クリスができると思って言ったんじゃなかったのか?!」
「いえ、私も驚きましたよ……私の適当な発言が、現実になるとは思いませんでした。結果的には私が正しかったという事になりますね」
満面の笑みで告げるマチルダに、ユウくんは肩をすくめた。




