48、辺境伯様との面会
全ての事を終えた私たちは、街へと戻る道を歩き始めた。
道中も魔物に遭遇する事はなく、私たちの歩く音以外聞こえない森が異様なほど不気味に見える。何事もなく街にたどり着く頃には、既に陽が落ち始めていた。私たちは慌てて、辺境伯様の元に向かう。
辺境伯様も私たちのために時間を空けていてくれたらしく、ユウくんが執事さんに声をかけるとすぐに面会が整った。応接間で向かい合わせに座り、魔物がほぼいなかった事を話す。
「やはり……スタンピート、なのか……」
辺境伯様が考え込む。最悪の事態について考えているのかもしれない。しばらくして考え事を終えたのか、辺境伯様は扉の側で佇んでいた執事さんに指示を出す。執事さんが頭を下げて部屋を出ていった後、私はユウくんに目配せをされた。
事前の打ち合わせ通りである。私は魔法袋から、日本の占い師が使うような水晶玉を取り出し、魔力を込めた。
薄い魔力の膜が私たちの周囲に現れる。辺境伯様はその魔力の揺らぎに気がついたのか、周辺をキョロキョロと見回した。
「これは……?」
「断りもなく使用して申し訳ございません。こちら、音を遮断する魔道具です」
ユウくんが私の膝の上に置いてある水晶玉を指差して告げる。私は魔道具を壊さないよう、目の前のテーブルの上にゆっくりと置いた。
辺境伯様は私が置いた遮音の魔道具をじっと見つめている。そして何かに思い至ったのか、ユウくんへと視線を向けた。
「もしかして、この魔道具は……」
ユウくんは無言で頷く。
「小屋を見つけました。そこで入手した魔道具です」
この言葉だけである程度理解したのだろう。辺境伯様は額に手を置いて少し唸る。
「眉唾だろう、と思っていたが……まさか本当に小屋があったとは……」
「辺境伯様にはお伝えした方が良いかと思いまして、このような形をとらせていただきました」
「いや、正解だ。これは、警戒するのも分かる。詳しく教えてもらえるだろうか?」
ユウくんは首を縦に振った後、話し始めた。小屋の周辺は先代賢者様により魔法が幾重にもかけられていた事、それを私が解除して小屋を見つけた事。そしてその中で魔道具を大量に見つけた事……。
「最後にクリスティナが、先代賢者様の魔法を利用して小屋自体を隠しております。いかにせん、これが山のように置かれていたので……」
魔法袋を見せながらユウくんが伝えると、辺境伯様は私たちが彼と似たような袋を持っている事に気がつき「成程」と言葉を漏らした。
「君たちが持っている魔法袋は小屋の中にあったものか」
「はい。本当は持って来れれば良かったのですが……魔法袋の中に魔法袋は入れられない仕様になっているようでして」
ついでに袋ひとつで魔境の森が入るほどの容量だと伝えると、辺境伯様は額に手を当てたまま、ガクッと肩を落として頭を垂れている。
「……容量もそうだが……作りすぎだろう……」
辺境伯様もユウくんと同じ感想のようだ。そして魔法袋とは別の袋を持っていたユウくんが、小屋から拝借した魔法袋を何個か辺境伯様に手渡した。
「こちら、辺境伯様に預けます。必要となる時が来るかもしれないので」
「……ああ、受け取ろう」
先程コニーくんが言っていたけれど、この魔法袋で私の杖と同じ……いや、それ以上の値段が付くんですって。正直ただの袋にしか見えないけれど、IP曰く魔法袋の中には「時間停止能力」も付いていて、それが価値を跳ね上げているんですって。
最初は意味が分からなかったけれど、ユウくんが例えで教えてくれたの。
「鍋で作ったシチューが出来立てのまま、腐らずに何年も保存できる。しかも大量に保存が可能って聞いたらどうだ?」
「便利ね」
そう考えたら本当に魔法袋というのは凄い物なんだなと思えてきた。そんな事を思い出していると、ユウくんと辺境伯様の話し合いはまだまだ続いていた。
「設置型魔道具を――」
「いいのか?」
どうやら先代賢者様の魔道具の幾つかを辺境伯様にお渡しする、という話になっていた。街への帰路の途中、皆で話し合ったのだ。その際に魔力を込めると使用できる設置型魔道具で、防御壁……バリアを張ってもらおうと話が出ていた。ユウくんはその事について話をしているらしい。
ユウくんに目配せをされ、私は魔法袋から魔道具を取り出そうとした。その時――。
ぞくりと、背筋をなぞる何かがよぎる。思わず私は魔境の森の方向へと視線を送っていた。
「クリスさん、どうしましたか?」
首を傾げるコニーくん。
「えっと、なんと言えば良いのかしら……いい知れぬ何かを感じ取ったような気がして……気のせいかしら……」
一瞬の事で先程の不穏さが嘘のようだ。困惑しながらそう答えると、ユウくんと辺境伯様は眉間に皺を寄せた。
「クリスティナ嬢、済まないがその設置型魔道具を今から設置し、発動する事はできるだろうか?」
「あ、はい。魔力を込めるだけですから、問題なく発動するかと……」
急な話だなぁ、と首を傾げると、分かっていない私にユウくんが言う。
「クリス、もしかしたらスタンピートが発生しているかもしれない」




