47、先代賢者様のセンスって……
「あら、ユウくん。カードキャプターウメちゃんを知ってるの?」
そう訊ねれば、ユウくんは頬を少し染めて慌て始めた。
「あ……いや、俺の娘がな……」
「勇者様……そのお歳で娘がいるのですか?」
「んなわけないだろ! 前世の話だ!」
あらまぁ、珍しくユウくんがマチルダちゃんに遊ばれているわねぇ。マチルダちゃん、楽しいんでしょうけれど、コニーくんが落ち着かない様子で二人の顔を見ているわよ……ほら、コニーくんがオロオロし始めちゃったじゃない。
マチルダちゃんも横目でコニーくんの様子が見えたからか、「冗談ですよ」と言って引いていった。ユウくんも声を荒げた事を謝罪したら、コニーくんが胸を撫で下ろしていたわ……このチームではコニーくんが最強ね。
コニーくんを思わず撫でていた私に、気を取り直したユウくんが話しかけてきた。
「この魔法は幻魔法なんだろう? ならこの家を隠す事ができるんじゃないか?」
「あ、確かにユウくんの言う通りね!」
この小屋には先代賢者様が作った大量の魔法袋が残っている。流石にこのまま放置、という訳にはいかないわね……。それに、魔法袋の奥にも色々と便利そうな道具が眠っていたような気がするのよね。
……使えるのがあれば、持っていっちゃいましょう! きっと先代賢者様も許してくれるわ!
そう考えた私は、後ろにいた三人に声をかけた。
「先に倉庫の中身を確認してから、この魔法を使いましょうか」
三人の同意も得て、私たちは倉庫内の確認を急いだ。先代賢者様は研究狂だったのか、そこらじゅうに色々な魔道具が転がっていたの……。魔力を込めて身につけたら、猫に変身する魔道具……うーん、使えるのかしら?
ただ、中には設置型の防御結界を張れる魔道具なんかもあったわ。正直どれがどんな魔道具かなんて見分けがつかなかったので、IPに出てきてもらって教えてもらって良かったと思う。
この中には実用的な魔道具も沢山あるようだけれど、その横に猫変身用の魔道具が転がってるんだから、先代賢者様のセンスは読めないわぁ……。
魔法袋をもうひとつ拝借して、魔道具専用の袋を作る事にしたわ。一応使える使えない関係なしに、魔道具は全てその中にしまったの。
もしかしたら魔法袋の中に魔法袋を入れる事ができるのでは? と思って試したのだけれど、残念ながら魔法袋の中には入れられないらしい。
何故なのかしら、と首をひねっていたら、IPが理論を教えてくれたけれど……全く理解できなかったわ。
そのため幾つかの魔法袋は持っていくが、それ以外はここに置いていく事になった。
全ての部屋を確認し、私たちは外へと出る。
そして小屋の正面に立ち、魔法陣を描いた紙を二枚取り出した。そしてその紙を二枚、小屋の扉に貼り付けると杖をかざす。アニメでは長い詠唱が多いけれど……先程の戦闘を見る限り、詠唱は短い方が良いわよね。
なら、少し短縮させて……!
「我が『杖』に力を! 幻、輪」
赤い宝石の中心から、淡い光の輪が波紋のように拡がっていく。その輪は私たちの周囲の空間を包み込んでいった。それが終わると、目の前にある小屋は私の魔法により、完全に見えなくなる。
うん、これなら大丈夫でしょう。我ながら完璧ね。まあ、半分以上は先代賢者様のお陰でしょうけれど……。
そう思った私は魔導書を開く。すると、ポン! と小気味良い音を立ててIPが現れた。
「IP、魔法を掛けて小屋を隠せたわ。ありがとう」
「良カッタ、デアーリマス!」
IPも嬉しそうにニコニコと笑っている。二人で笑い合っていると、難しい表情をしていたユウくんが話しかけてきた。
「そう言えばクリス。その本を街中で開かない方が良いかもしれないな」
「え、何故?」
思い当たる節の無かった私が小首をかしげると、ユウくんは眉間に皺を寄せながら言った。
「IPが他の人に見られたら、どう言い訳するんだ?」
「……あ、確かにそうね……」
本からキツネが出てくるなんて、驚くわよね。そう思っていたら、話を聞いていたのかIPが話し始めた。
「ソレナラ問題ナイデ、アーリマス!」
「「え?」」
まさかIPからそう言われれるとは思わず、全員が声を上げた。
「私ガ見エルノハ、小屋ニ入ッタ人達ダケデ、アーリマス!」
「そこの対策も完璧なんだな……先代賢者様は何者なんだ……?」
先代賢者様は、有能なのかどうなのかが分からないわね……。