46、真の……魔導書
「お嬢様?!」
「クリスっ?!」
後ろでマチルダちゃんとユウくんの声が聞こえる。
引き留めようとする二人の手をするりと抜けて、私は本の前に立った。なんとなくだけれど……この本から悪い気配はしないの。むしろ、懐かしい気配。これが分かるのは、私が賢者だからかしら?
「二人とも大丈夫だよ」
振り返ってそう私が微笑む。それを見たユウくんは、必死でマチルダちゃんをなだめている。……きっと、私の決意を感じ取ってくれたのね。さすがユウくんだわ。
そんな二人のやり取りを聞きながら、私は本に手を伸ばす。淡い光に少し触れると、私の中から言葉があふれ出てきた。
「世界でただひとつの……魔導書。私の力になってくれるかしら?」
その言葉と同時に、私は本に触れる。すると途端に光が拡散し、開いていた本は自動で閉じていく。本がパタンと音を立てて閉じると、私の手に重さを感じた。
じっと私が本の表紙を見ていると、隣から声が聞こえる。
「クリスの言う通りだったな……無事で良かった」
「お嬢様がご無事で良かったです……!」
「あの……! 本には何が書かれているのですか?」
みんなの言葉に微笑んで答えた後、私は表紙をめくる。
一ページ目に描かれていたのは、IPの絵だ。そう言えばIPはどこにいったのかしら? と思いながらも、私がページをめくろうとしたその時。
「オ助ケアシスタントデ、アーリマス!」
そんな言葉が聞こえたと思ったら、本が次は青く光出して――。
ポン!
どこかのアニメでよく使われそうな効果音と共に、現れたのはIPだ。けれども、いなくなる前のIPと比べて小さい。先ほどのIPが大体ビーチボールくらいの大きさだとすれば、今のIPはテニスボールくらいの大きさくらいかしら。
流石の私も混乱した。
だって、いきなり消えたと思ったら、今度は本の中から出てくるのよ……。不思議に思わない方が、驚きよね。
でもその中で、一人冷静にIPに訊ねている人がいた。ユウくんだ。
「お助けアシスタント? と言うのはなんだ?」
「私ハ、ゴ主人様ノ残シタ研究ヲ管理シテイルノデ、アーリマス! ゴ主人様ヨリ、『次の賢者がここに来た時、助けになるように』ト命ジラレテイルノデ、アーリマス!」
そこからIPの話は続く。
この本は、部屋の中に置いてあった全ての紙や本の内容が全て収められているのだそう。先代賢者様が亡くなる前にそのように魔法を掛けたのだとか。
IPはアシスタント……助手という立場になるらしい。この本を持っているだけで、私が望む魔法を探してくれるのですって。
「いや、それって昔パソコンにいたアシスタントのイルカみたいなやつじゃないか?」
「ソウイウモノデ、アーリマス! ア、モシ私ヲ消シタイ場合ハ……本ヲ開イタママ、消エテト願ウダケデ、アーリマス!」
「消せるのか?! 凄いシステムだな!」
意味が全く分からなかった私のために、ユウくんが教えてくれたのだけど……。
以前のパソコンには検索ボックスを表示してくれるアシスタントがいたらしい。それのひとつがイルカ。他にも文房具のクリップや魔法使い、犬もいたんですって。
そのアシスタントは画面上から消せなくて、「おせっかいすぎる」「邪魔」と思われてしまい無くなったそう。
便利そうなのにねぇ。色々あるのね。
「マズハ試シニヤッテミルノデ、アーリマス!」
IPの声と同時に、手元にある本のページが自動的にめくられる。そしてあるページまで辿り着くと、そこで動きが止まった。
そのページには幻と書かれている。
あら、この魔法って……。
「カードキャプターウメの魔法じゃないか?」