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45、森が入る大きさですって?

 目の前にある魔法袋(マジック・バック)は、ユウくんが持っているモノと同じ大きさみたいね……全部で何個あるのかしら? 魔法袋(マジック・バック)を持っていない三人が持ったとしても、山の高さがちっとも変わらないくらい余っている。

 ユウくんは頭を抱えているし、コニーくんは呆然としている。普段ポーカーフェイスのマチルダちゃんまでもが口を少し開いているのだから、相当ね。


「先代賢者様は何を考えているんだ……」

「……勇者様の持っている魔法袋(マジック・バック)は、辺境伯家の家宝だったのでしょうけれど……まさかそれがこんなに無造作に置かれているとは……辺境伯様も思わないでしょうね……」


 マチルダちゃんも複雑そうな表情だ。

 そんな皆の表情を更に変えたのが、IPの言葉だった。


「コチラノ魔法袋(マジック・バック)ノ容量ハ、森ガ入ルクライノ大キサニ、設定サレテイルノデアーリマス!」

「はぁっ?!」

「えっ?」

「なんですって?」


 私以外の三人が驚きの声を上げている。一人だけ乗り遅れてしまった感があるけれど……IPの言葉が聞き取れなかったのよ。みんなが何で驚いているのかを尋ねようとしたところで、ユウくんがIPに問いかけた。


「森って言うのは、この魔境の森の事か?」

「ハイ、ココノ森ガ入ルクライノ、容量デアーリマス!」


 え、森? 魔境の森って今いる場所の事? この森がこの袋に入るの? この見渡す限り広大な森が?

 私が二の句をつげないでいると、コニーくんが恐る恐るIPに訊ねていた。


「えっと、全部合わせたら、この森が入るって事ですか?」


 そうよね、きっと全部使えば入るって意味よね。


「イイエ、ヒトツデ森ガ全テ入ルノデ、アーリマス!」

「いや! 魔法袋(マジック・バック)ひとつにそんな容量いらないだろっ!」


 IPにツッコミを入れるユウくんの声が、むなしく響き渡っていた。

 


「先代賢者様は……暇だったのかしら……?」


 私の言葉に、マチルダちゃんは首を縦に振る。そうよね、そう考えても良いわよね。

 私たちは相談して、魔法袋(マジック・バック)を三つだけ拝借する事にした。後は見て見ぬ振りをする事に決める。一旦この場所は、先ほどのように封印しておくつもり。だから魔法袋(マジック・バック)を悪用される事もない……と思う。


 倉庫の中はまだまだ何かが沢山置かれている。少々気後れした私たちは、後で確認しようと話し合った。……後回しにするとも言う。気を取り直して、先にIPに案内を優先してもらう事にした。と言っても、次が最後だったらしい。


「ココガ最後デアーリマス! 魔法研究室デアーリマス!」

「ここが……先代賢者様の……」

 

 コニーくんの言葉が部屋の中に響き渡る。そう、ここがあの変……先代賢者様の研究室なのね。


 研究室は今までのどの部屋より広かった。うん、学校の教室と同じくらいかしら?

 中心に大きなテーブルがひとつ置かれ、その周りには椅子がひとつ。そしてそれ以外の場所には……本が山積みに置かれ、何かを書き込んだらしきメモが足の踏み場もないほど散乱している。

 ……先代賢者様は片付けが苦手だったのかしら?


 そう思ったのは私だけではなかったみたい。マチルダちゃんが私の横から手を出そうとして――私たちは呆気に取られた。

 部屋の中心にいたIPが、光出したからだ。


「IP……?!」 


 私は思わず叫んでIPを助けようとするが、どんどん強くなる光に耐えられず目を瞑る。その瞬間ふと誰かが私をかばうように、前へと立った気がした。


 

 しばらくして私は様子を伺いながら、そっと目を開いた。目の前にはユウくんが立っている。

 先ほどの気配はユウくんなのか、と思った私は、ユウくんに声をかけようと近寄った。しかし、声をかける前に私も動きを止める。


 IPがいた場所には、黒い背表紙の本が一冊、淡い光を放ちながら浮かんでいた。

 そして気づけば……周囲にあれだけ散乱していた紙や本は、全て無くなっている。

 

「……ねえ、ユウくん。何があったの? 周囲にあった紙や本は、どうなったの?」


 不思議に思って訊ねると、ユウくんから漏れた返事は信じられないものだった。


「全部……吸い込まれた……」 

「吸い込まれた?」


 言葉の意味がよく分からず再度聞き直すと、隣にいたマチルダちゃんが続いて話し始める。 


「お嬢様、先ほどのIPが全ての紙と本を吸収したのです……そして全てを回収し終えると、あの本になってしまいました……」 


 マチルダちゃんも今見た事が信じられないかのような表情をしている。IPがいた場所に浮かんでいる本、周囲から無くなった紙や本……そしてユウくんとマチルダちゃんの言葉。つまり、IPがあの本になったと言う事なのね。


 三人が呆然としている中、私は引き込まれるように一人目の前に浮かぶ本へと近づいていった。

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