43、デ、アーリマス!
扉を開けて一歩足を踏み入れると、真っ暗だった部屋が一瞬で明るくなる。
驚いて立ち止まっていると、私の張ったバリアに何かがぶつかり……吹っ飛んでいった。うん、バリアには傷がついていない。結構な音がしたような気がするけれど、頑丈なのね。
飛んでいった先を見ると、何かが床に落ちている。
……黄色くて、全体的に丸っこい。あれ、どこかで見た事があるようなロボット……?
咄嗟にユウくんを見るけれども、ユウくんはアレが何かは知らなそうである。
あ、思い出した。昔テレビの三番でやってたアニメの……あれ、アニメの名前は忘れちゃったわねぇ。その主人公の相棒に似ている気がするわ。
私が近づくと、ロボットは顔を上げる。うん、やっぱりそうだ。あのキツネのような顔をしているキャラクターにそっくりだ。
ロボットは私の顔を見た後、声を発した。
「ア、ア、ア、コンニチハ、デアーリマス!」
意外と流暢に、しかし音声合成のような喋り方をするロボットを見て、私は目を剥く。後ろから入ってきた三人も、動いているロボットを見て目が点になっていた。
「私ハ、IP、ト申シマース」
ぺこりとお辞儀をするIP……そう、あのアニメの相棒もIPという名前だったわね!
あら、でも何であの魔法少女アニメの相棒が、この小屋に? そんな疑問を持った私だったけれど、次の言葉でその疑問は頭から抜けていってしまった。
「アナタハ、新シイ、賢者サマ、デアーリマス、ネ?」
IPの言葉に目を丸くする。私の後ろでは息を呑む音や、武器を構える音が聞こえた。
ユウくんとマチルダちゃんは警戒しているみたい。それもそうよね……動く何かが、私の事を知っているのだもの。
ただ、私は何となくだけど、このIPが悪いモノのようには思えなかった。だから訊ねたの。
「え、何で分かったの?」
「私ノゴ主人サマガ、教エタノデ、アーリマス! 私ノ仕事ハ、新シイ賢者サマニ、コノ小屋ノ、案内ヲスルノデアーリマス!」
私は目をまたたく。ご主人様、という事は先代の賢者様という事よね?
どうして私の事を知っているのかしら? 私が首を横に傾けていると、後ろにいたコニーくんが呟いた。
「夢見……によるものでしょうか?」
「ですがコニーくん。辺境伯様は『違う世界で自分が暮らしていた時の夢』の事を夢見と仰っていませんでしたか?」
「そうですね。未来視の力は隠していた……事は考えられませんか?」
確かにコニーくんの言う通り、未来視の力があったら誰かに悪用される可能性も高いわよね。だから先代賢者様は二重にも三重にも魔法をかけて、この小屋の存在……自分の存在を隠す必要があったとか?
コニーくんとマチルダちゃんと私の三人は、IPに視線を送る。IPは体を傾けている……多分首を傾げているのよ……ね?
ユウくんは二人の話を静かに聞いていたけれど、顔を上げた。
「まあ、まずはそのIPとやらに小屋の中を案内してもらうのはどうだ? それから先代賢者様について考察しても遅くはないだろう?」
私たちはユウくんの言葉に同意した。