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41、先程から私は全く同じ道筋を辿っているからです

 気を持ち直した私は、午後も調査のために歩く。

 午前中には数匹出てきたスライムも、今や全く現れず。森の中は静寂に包まれていた。


 全員が周囲を警戒をしながら歩いていた中、ある場所を通る時に私は違和感を抱いた。私が周囲をキョロキョロと見回すと、それに気がついたユウくんが話しかけてくる。


「どうした? クリス」

「えっと、うまく言えないんだけど……なんか違和感を覚えたの……」


 しどろもどろと話す私を見て、ユウくんは他の二人に顔を向けた。

 

「コニー、マチルダは何か感じたか?」

「いえ。何も」

「僕も……感じませんでした」

「なら、気のせいかしら?」


 警戒をしていたから過敏になっていただけかしら? と首を捻る私。そんな時、マチルダちゃんがクナイ……もとい、ダガーを取り出した。


「お嬢様、違和感を持ったのはこの場所でよろしいですか?」

「え、ええ」

「それではこの木に傷をつけましょう」


 マチルダちゃんはダガーで木に傷をつけていく。文字を彫っているようだ。


「ここに『勇者』と彫りました。これなら私が彫ったものだと分かるでしょう」

「……何で勇者なんだ?」


 ユウくんがマチルダちゃんに訊ねる。確かに何で勇者なのかしら?


「自分の名前を彫るのもアレですし、このチームは勇者様が率いていますから……まあ、なんとなくでしょうか?」


 首をコテン、と傾げて話すマチルダちゃんに、ユウくんはひとつため息をつく。


「まあ、今回はいい。次は簡単な絵にしてくれると助かる」

「そちらの方が良いですね。次からはそうします」


 二人が話す事を聞きながら、私はもう一度マチルダちゃんが彫った『勇者』の文字を目に焼き付ける。何故かは分からないけれど、なんとなくそうした方が良いのかな……と思って。

 その後も勇者の文字が刻まれた木が見えなくなるまで、どうしてか……私は何度も振り返ってしまった。


 

「……おかしいですね……」


 歩いているとふとそんな声が隣から聞こえた。マチルダちゃんを見ると、彼女は腕を組んで考え込んでいる。


「マチルダちゃん、どうしたの?」


 彼女の声に前を歩いていた二人も、マチルダちゃんの方へ体を向ける。不思議に思った私が訊ねると、彼女は教えてくれた。


「先程から、何度か同じ場所を通っているような気がします」

「……同じ場所……ですか?」


 コニーくんも首を傾げている。

 見渡す限り、木、木、木ばかりの場所だ。同じ場所を通っていると言われても、私は分からず首を捻るだけ。


「マチルダ、どうしてそう考えたんだ?」


 ユウくんが訊ねると、マチルダちゃんは信じられない事を言い始めたの。


「先程から私は全く同じ道筋を辿っているからです」

「え?」


 思わず声が出てしまったけれど……あれ、自分が通った道筋って覚えているものかしら?

 無意識にコニーくんの顔を見た私。彼も私の意図を理解していたようで、首を左右に振っていたの。そうよね、普通は覚えていないわよね。


「木や石の配置が先程から似ているな……とは思いましたが、三度目にしてようやく『同じだ』と確信いたしましたので、お伝えしました」

「木や石の配置が……?」


 あれ、私の耳がおかしくなったのかしら?

 マチルダちゃんの言葉は理解できても、意味が理解できないわ……。え、木や石の配置なんて普通覚えてる……?

 目を瞬かせる私とコニーくん。首を傾げる私たちを置いてきぼりに、マチルダちゃんの話は続く。


「そろそろ、私が木に彫った文字のところに辿り着くと思います……あ、ありましたね」


 マチルダちゃんが指を指した先には、「勇者」の文字が彫られた木が。確かにあれはマチルダちゃんが彫った文字……。

 私はある事に気がついて声を上げた。


「え、おかしくないかしら? あの木に文字を彫った時、私たちは下から()()()()()はず……一度も下っていないのにどうして……?」

 

 足元には緩やかな傾斜が続いていた。地面は確かに上に向かっていて、下る感覚は一度もなかった――はずだ。

 自分の身に何が起きたのか、全く理解できないでいると「もしかして……」とコニーくんが呟いた。


「あの……もしかして魔法だったりしますか?」

「その可能性が高いかと」


 頷くマチルダちゃん。それに反論したのはユウくんだ。


「マチルダ。君の言う通り、何度かこの道を通っていると仮定する……俺は周囲を確認して歩いていたが、あの勇者の文字はどこにもなかったぞ?」

「それは多分認識阻害か、幻影の魔法が使われているのかもしれません」


 マチルダちゃんが言った魔法は、「そこにある」と見抜けば破れるらしい。

 

 頭に疑問符を浮かべた私を見て、コニーくんが説明してくれた。

 認識阻害や幻影系の魔法は、本来そこにあるものを隠したり、別の物に見せたりする魔法なのだとか。つまり、魔法をかけられた側……今回は私たちの事。その私たちが文字に気がつかない限り、魔法の効果は続いたという事ね。

 けれども、今回はマチルダちゃんが「あそこに文字がある」と意識した事で、魔法の効果が切れたの。だから今全員が、あの文字を見えるようになったようだ。

 

「でも、それだけだと何度も同じ場所を歩いた理由の説明にはならな――あ!」


 私は自分で言いながら、ある事が思い浮かんだ。

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