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40、仲間がいるわ

 翌日早朝。

 まだ確認していない東側の森へと入る。地図を見ると、先代賢者様の研究室は奥の方にあるようだ。今日は森の調査と、先代賢者様の小屋探しが主な仕事となるだろう。

 

 森は静かだった。魔物はスライムが数匹襲ってきたくらいだろうか。西側や北側を調査した時よりも格段に少なかった。

 昨日辺境伯様の話を聞いていたので、これがスタンピートの前触れなのかもしれない。


 そう実感し、体が震えてくる。

 本格的な戦闘、というものをした事がない私は、その場に立った時、きちんと動けるのだろうか。

 もしスタンピートとなったら、私は戦わなくてはならない。そして人々を守らなければならない。


 本当に守り切る事ができるのだろうか。


 そのために私は色々な魔法を思い出そうと頭を悩ませる。

 けれども、焦れば焦るほど……どんな魔法があったかを忘れていく。


 今まで使用した魔法はユウくんから渡された本に書いてある。けれども、それだけだ。使用できる魔法の種類が少ない事を、私は気にしていた。


 私が静かだったからだろうか。

 昼食の片付けをしている時、ユウくんが声をかけてきた。


「大丈夫か? クリス」

「え、ええ。大丈夫よ! 元気元気!」


 私は力拳を作って答えたけれど……微かに声が震えてしまったような気がする。笑みを貼り付けて、「おっかたづけ〜!」と音程の外れている鼻歌を歌っていると、片付けを終えたらしいユウくんが私の左肩を軽く叩く。

 後ろを振り向いた途端、私の頬にユウくんの人差し指が当たり、頬がむにっと凹む。


「ユウくん! 何するの?!」


 驚いた私が声を上げると、遠くにいたマチルダちゃんが一瞬で私のそばにやってくる。


「お嬢様に不埒な事はしないでくださいませ? 勇者様?」


 にこやかな……どこか圧のある笑みでマチルダちゃんはユウくんを見ている。怒っている彼女を見ると、少しずつだけれども冷静になってきた。

 

「よろしければ、街に帰ったら私と訓練でもいたしましょうか? 勇者様なら九時間くらい休憩、食事なしでいけるでしょう?」

「いや、流石の俺も倒れるが……」


 眉間に皺を寄せながら話すユウくんに、マチルダちゃんは声色を低くして叫んだ。

 

「お嬢様のほっぺに触るなど、言語道断! お嬢様、この方の処理は私にお任せを――」

「ちょっと待った! 処理って何だ! 処理って!」

「少々体で理解してもらうだけです」


 ニヤリと笑うマチルダちゃんを見て、慌てているユウくん。そして二人のやりとりを見て、コニーくんの顔が少しだけ青褪めている。キョロキョロと二人の顔を交互に見ていることから、止めた方が良いのか考えているのだろう。

 私はそんな三人の姿を見て、思わず吹き出してしまった。


 いや、失礼だと思うけど、この光景がシュールだったの。

 

 吹き出した私を見て、マチルダちゃんとコニーくんがこちらを見る。


「ごめんね、笑っちゃいけないと思ったのだけど……側から見たら面白かったの」


 笑いながら告げる私を見て、マチルダちゃんとコニーくんは胸を撫で下ろしていた。もしかしたら二人も心配してくれていたのかもしれない。

 「ありがとう」と話すと、いつの間にか隣にいたユウくんが私の肩にそっと手を置いた。


「気分は軽くなったか?」


 その言葉に目を見開く。そうか、きっとユウくんは私が思い悩んでいた事に気がついたのね。


「クリス一人で抱え込まなくていい。俺やマチルダ、コニーもいる。それに辺境伯様も軍を持っている。まあ、実際スタンピートが起こるかどうかもまだわからないんだ。何か起こったら全員で対処すればいい」


 私と視線が合ったユウくんは頷く。

 思わずマチルダちゃんに顔を向けると、彼女は綺麗に微笑んでくれた。その後コニーくんに視線を送ると、彼も両手で握り拳を作っている。

 

 ――そうか、私には仲間がいたわ。


 それだけで心強い。

 

「ありがとう、ユウくん」

「どういたしまして」


 照れ臭かったのか、ユウくんはそっぽを向く。その耳がほんのりと赤くなっている事に気づいたけれど、私は指摘しなかった。



「とは言え、あれとこれとは別ですから……後ほど訓練は一緒にいたしましょうね? 勇者様」

「……ハイ……」 

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