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39、魔物が暴走するかもしれないってどういう事?

 その後もしばらく調査をしてから、私たちは陽が落ちる前に街へと戻った。

 数日間いなかっただけなのに、街の喧騒(けんそう)が懐かしいと思うのは、森での生活に少しは慣れたからだろうか。


 私たちは辺境伯様との話し合いの前に、屋台で串焼きを一本購入して小腹を満たしておく。

 流石に面会中にお腹を鳴らすのは、ねぇ。


 辺境伯様の屋敷……と言うか、今見たらこれはお城よねぇ。

 お城に着いた私たちは執事さんにいつもの応接間へと案内された。

 そこには既に辺境伯様が座っている。一瞬待たせてしまったか……と思った私たちだったけれど、仕事のキリが良かったらしく、休憩も兼ねてこの場所に居たのだとか。


「それよりも、調査の結果を教えてもらえるだろうか?」


 辺境伯様の瞳が光る。

 その瞳を受けたユウくんが私たちを代表して話し始めた。



「なるほどなぁ……」


 辺境伯様が腕を組んでうなる。

 どうやら辺境伯様も薄々予想していたようだ。眉間に皺を寄せて、考え込んでいる。


「スライムが刃物で倒せる、出てくる魔物が小型のみ……そうか……やはり……」


 独り言で呟く間も、どんどん眉間に皺が寄っていく。

 そして扉の前に控えていた執事を呼ぶと、メモを書いて指示を出していく。

 

 辺境伯様が深刻に考えるほどの事なのだろうか、私は思った。弱い魔物だけしか出ない事の何が問題なのだろうか。街の人たちにとっては、その方がいい気がしない?


 こっそりとその事をコニーくんに訊ねる。コニーくんは私の意見に同意をしてくれた上で教えてくれた。


「それも一理あるのですが……弱い魔物しかいない、というのはスタンピートの予兆とも言われております」

「スタンピート?」


 聞き慣れない言葉だ。ただ、コニーくんの顔色が良くない事から、良いものではないと言うのは分かる。思わずユウくんの方へ向くと、彼が答えてくれた。


「スタンピートと言うのは、暴走した魔物が大量に現れて人々を襲う事を言う」

「魔物の……暴走?」


 不穏な言葉に私の眉間に皺がよる。

 

「はい。スタンピートは何故発生するのかが分かっておりません。ただ、『森の中から魔物がいなくなる』とスタンピートが発生するのでは、と言われています」

「コニー殿の言う通りだ。私も……我が祖先が土地を治めてから今までの史料を読み込んできたが、その可能性が高いと判断した。スタンピートは何千もの魔物が一斉に街を襲撃すると言われている。その中には空を飛べる魔物も何百といたらしい」


 空を飛べる魔物。そう言えば王都でも戦った魔物がいたわね……確か後ろにバードが付いたはず……あ、ヘルバードね。あんなのがいっぱいいるって事でしょう? それって大分マズイ事になりそうじゃない?

 

「ヘルバードがいっぱいはマズイわね……」


 そう呟いた私に、ユウくんが突っ込んだ。

 

「いや、アルバードだから」


 あ、アルバードね。やっぱりカタカナは無理よ。ひらがなで書いてくれないかしら? ほら、『とびはねごん』とか。


「また変な名前考えただろ……」


 うんうんと唸っていたからだろうか。ユウくんに見抜かれた私は、慌てて背筋を伸ばしてキリッとした表情を作った。

 

「ちなみにそのスタンピートは、いつ起こるか……どれくらいの規模で起こるのか……は分かりませんか?」


 そこが分かっていれば対策する事もできそうだけれど……。そう思って訊ねてみると、辺境伯様は腕と足を組み直して考え込む。

 

「規模か……少なくて数百、多くて数千だろうな。いつ……いや、正確には判断しかねるが……もしかしたら分かるかもしれない」

「そうなのですか?!」


 ユウくんが辺境伯様の言葉に驚いて聞き返す。辺境伯様は頷くと、地図を机に置いた。南側にこの街があり、北側は全て森となっている。


「魔境の森について書かれている地図だ。前代の賢者様が作られた地図を複製したものになる。まあ、ここに全て書き込まれている訳ではないのだが……。史料によると、大体こちらの方面から魔物がやってくるようだ」


 なるほどねぇ。北西の方向から魔物が来るのね。確かに地図を見ると北西方面に広く森が続いているもの。ここのどこかで集まって街に向かってくる感じなのかしら?


「それが原因かどうかは分からないが、スタンピートの前は東の方角で魔物の姿が見られなくなると言われている。前代賢者様の話によれば、どうも弱き魔物というのは、強き魔物のそばに寄っていく習性があるらしい」

「不思議な習性ですね」


 その事は知らなかったのか、コニーくんが驚いている。辺境伯様はコニーくんの言葉に反応すると、続きを話し始めた。


「だから君たちには東の方角の森の調査もお願いしたい。二日程でいい。もし魔物が全くいないようであれば、街に戻ってきて欲しい。それと……この地図を持っていくといい。前代賢者様の小屋の場所も書いてあるから、もし見つけたらそこの資料は好きにして欲しい」


 私たちは顔を見合わせて頷いた。

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