38、だって言ってみたかったんだもの
ピーコについては、私が魔法でテイムしたという事にするらしい。テイムは日本語だと手懐けるという意味なのね。
まあ、確かに側から見たら石が生物になったなんて思えないし……それが一番無難でしょう。
うんうん、と頷いているとマチルダちゃんが話し出す。
「ただひとつ心配な事がありますね。この鳥が新種だと思われて、研究させてほしいと言われたらどうします?」
「……でしたら、手紙を渡したらクリスさんの元へすぐ戻ってくるように指示をしておけば良いと思います。そうすれば、辺境伯様に尋ねられた時も『すぐに逃してしまって』と言えませんか?」
「それにプラスして、『手紙の行き来でテイムが限界だった』と言っておけばいい。クリスの魔力を見ている辺境伯様なら、きっと色々と察してくださるだろうし、こちらにも合わせてくれるだろう」
本当にありがたいわねぇ。私はそう言うところがよく分からないから、皆に任せましょう。
ふむふむ、じゃあまずはピーコに、手紙を渡したら戻ってくるように指示をして……うん、これで良いでしょう。
「じゃあ、ピーコ。よろしく頼むわね」
ピーコはピィ、と一声鳴くと大空へと羽ばたいていった。
しばらくして。
私たちは調査を続けていた。みんなの言う通り大型の魔物は出ず、スライムのような小型の魔物ばかりが現れる。前衛二人が倒し、コニーくんと私は二人の様子を観察しながらメモに書き込んでいく。その作業が何度か続いた後、「ピィ」という声が空から聞こえた。
「ピーコ! おかえりなさい……あら? 手紙?」
羽を動かしているピーコの口には、紙が挟まっている。
私がピーコから紙を受け取って内容を確認する間、ピーコは私の肩で休んでいた。ユウくんたちも私の様子に気がついたのか、集まってくる。
「どうした?」
「ピーコが辺境伯様からの手紙を咥えていたの。了承してくれたみたいね」
そう言ってから私はユウくんに手紙を渡す。そこには急いで書いたのだろう、『了解』という文字が書かれていた。
「きっとピーコ1世がクリスの指示通りに手紙を渡してすぐに飛び立とうとしたのだろう。字の崩れを見るに、慌てて書いたんだろうな」
そっか、すぐに帰っておいで。と私が指示を出していたからね。
頭を私の頬に擦り付けてくるピーコにお礼を言いながら撫でる。するとピーコも満足したような表情でこちらを見ていた。
……そうね、お別れの時間ね。
「ピーコ、ありがとう。また会えて嬉しかったわ」
「ピィ」
最後にもう一度ピーコの頭を撫で、私は呪文を唱えた。
「キッテスキッテスルルル」
そう、ステッキを反対に読んでみたのよね。私の持っているのはどちらかと言うと、ステッキって感じだから。
ピーコは最後にまた一度鳴くと、元の石へと戻っていった。
ピーコが石に戻ってからも……私はしばらく、その石をじっと見ていた。
なんとなく、そこにピーコがいるような気がして……分かってる。もうなんの変哲も無い石に戻っているのにね。
そんな時、ぽんと肩を叩かれた。ユウくんだ。
「そんなに気になるなら、持っていけばいい」
「でもどうやって……?」
「ほら、クリスには魔法があるだろ?」
ユウくんに言われて気がつく。そうね! 私には魔法があるじゃない!
物を小さくする……あ、あの魔法があるわね。
「太陽の鍵よ、秘密の扉を開いて……封じられた力を解放せん――石よ小さくなれ、スモール!」
「いや、そもそもクリスが持っているのは鍵じゃないし……魔力を込めるだけなんだから、前半の詠唱要らなくないか?」
隣でユウくんが言ってるけど、雰囲気ってものがあるじゃないの!
今は周囲に魔物がいないようなのだから、一度くらいカードキャプターうめちゃんの詠唱を言わせてほしいのよ!
杖の先に光が溜まっていく。そしてその光が石に当たると、両手ほどの大きさだった石がどんどん小さくなっていく。
しばらくして天然石の標本くらいの石の大きさになると、光はそこで消えていった。
「これくらいなら持ち運びもしやすそうね!」
ポケットに入れておけばいいかしら……?
と考えていたところで、隣にスッと何かが差し出される。差し出したのはマチルダちゃんで、手にあるのは石がちょうど入るくらいの大きさの袋だった。
「良ければこちらをお使いください。そのまま置いておくと、無くしてしまうでしょうから」
「え、マチルダさん?! いつの間に作ったのですか?」
驚きで声の出ない私の代わりにコニーくんが声を上げた。
「今、ちょちょいのちょいと」
「いや、ちょちょいのちょい、で出来るような物じゃないぞ……?」
「侍女ですから」
胸を張るマチルダちゃんにユウくんが頭を抱える。
「常識人がいねぇ……いや、コニーは常識人か……」
そう呟くユウくん。
あら失礼ね。私は常識人じゃない。