37、ピーコ1世ってそんなに便利なの?
「ピーコ1世……」
ユウくんが呆然と口を開いている。
魔法の成功に驚いたのかと思っていたら、思わぬ言葉が耳に入ったの。
「いや、ミヤ……クリスがまともな名前をつけているなんて……!」
「え、ユウくん。そこに驚いたの?」
コニーくんとマチルダちゃんは石が変身した事に驚いたのが、まじまじとピーコ1世を見ているのだけれど、ユウくんは名前に驚いていたらしい。
「これは娘が付けた名前だからね」
本当はインコをもう一羽飼って、ピーコ2世って名付けようとしていたのだけれど……。娘たちの納得する子がいなくて、二羽目は飼わなかったのよね。
結局私たちはピーコって呼んでたけど。そんな話をしたら、ユウくんは胸を撫で下ろして言ったの。
「娘さんにクリスの壊滅的なネームセンスが、本当に移らなくて良かったな……」
「ユウくん、意外とひどいわね」
「いや、すまん。思っていたことが口に出た」
まあ、仕方ないよね〜ってハルちゃんも笑っているような気がした。解せないわ。
「クリスさん! 変身魔法を使えるなんて、凄いですね!」
そんな少し荒んだ私の心を慰めてくれたのは、勿論……癒し枠のコニーくん。
とっても素敵なキラキラした瞳でピーコを見てくれて……おばあちゃんは嬉しいわ!
「石を動物に変える魔法は、今までになかったと思います!」
その言葉を聞いて、マチルダちゃんの顔が曇る。
「お嬢様、私たちと、まあ辺境伯様の前では良いですが……あまり軽々と魔法は使わない方がよろしいかもしれません」
「あら、何でかしら?」
首を傾げる私に、マチルダちゃんは話す。
「お嬢様の魔法は有用すぎます。権力者の目に入れば、その者たちのために力を使え、と言われるかもしれません」
「いわゆる、飼い殺しってやつか……」
マチルダちゃんは頷く。
「ええ。きっとお嬢様の魔法でしたら、『姿を消す魔法』なんかも使えそうじゃありませんか?」
きっと使えると思うのよね。一瞬、それも面白そうって思ったもの……。
「まあ、勇者一行の賢者様ですから、その心配は少ないかもしれませんが……それでも馬鹿はいますから。あいつらみたいに」
「そうだな。俺を勇者と理解しているのに突っかかってきた家族がいるからな」
ため息をついたユウくん。そんな人いたかしら……と思っていたが、思い出した。クリスちゃんの家族のことね。
「それに色んな魔法が使えるとは言え、クリスは接近戦ができないだろ? 見せびらかさずに、隠すに越した事はないな。ちなみにピーコ1世は自然に石に戻るのか?」
「ううん、多分そんな事はないと思うけど……」
ひみつのマリコちゃんでは、確か変化を解く時に呪文を唱えていたはず。私はまだ呪文を考えていないので、それを言わなければ解除できないはずだ。
「それなら良いが……ピーコ1世を解除するのは、またここに戻ってきてからにするぞ。一応クリスは詠唱をここに書いておいたら良い。忘れたら元も子もないからな」
そう言われて渡されたのは、一冊の本。中身を見ると、何も書かれていない白紙だ。
しかもありがたい事に、ペン内蔵型だった。
ユウくんも、コニーくんのように記録をするために持ってきていたらしいけれど、前衛のため動くことが多い。だから、記録はコニーくんに任せる事にしたためか、使っていなかったようだ。
「念の為、持ってきておいて良かった」
そう笑うユウくんに昔の面影を感じつつ、私は感謝を伝えた。