36、ピーコ1世って誰が名付けたんだよ(by 勇者)
数日、野営をしながら魔境の森の調査をする。
そして今まで出てきた魔物を逐一書き留めていたコニーくんが、ここに来て声を上げた。それは丁度昼食の片付けを終えた頃の話だ。
「ヘンリクさん、やっぱりおかしい気がします。以前読ませていただいた辺境伯様の報告書の魔物の出現率とは……随分差がありそうです」
「コニーもそう思うか? 俺は、魔物が小型しか出てこないのも気になった」
小型……そうね、スライムとミニ……ラージ? という魔物ばかりだったもの。名前は忘れてしまったけれど、辺境伯領にたどり着く前に出会ったうさぎ型の魔物のように、大きい魔物がいてもおかしくない気がするわ。
私がうんうん、と頷いていると、マチルダちゃんも口を開いた。
「そう考えると、スライムも弱くありませんか? 魔境の森のスライムは魔法で倒すものだ、と以前話を聞いたことがあったので……」
「えっ、そうなの?」
ユウくんとマチルダちゃんが、スパスパ切り裂いていくから、スライムって弱いんだなぁなんて思っていたんだけど……。そうじゃないのかしら?
今回私は戦闘で全く魔法を使っていないのよね。魔法を使わなくても倒せるから大丈夫かな? と思っていたから使わなかったけれど……もしかして、それって普通じゃなかったのかしら。
ユウくんはみんなの話を聞いて、何かを考え込んでいる。そして何かを思いついたのか、私を見た。
「なあ、クリス。魔法で鳥を出せないか?」
「鳥?」
「ああ。事前に辺境伯様へコンタクトを取っておきたいと思ってさ」
今回の件を報告した方が良いとユウくんは考えたのね。
「なるほど、今日は街へと帰るのですね」
「ああ。事前に言っておけば、辺境伯様も時間を取ってくれるだろうから」
そっか、面会の約束を取り付けるって事ね! そのための伝達を私の魔法で行う、と……。
ユウくんは鞄の中から取り出した紙に、軽く何かを書きつける。ふむふむ、今日面会時間を取っていただきたい、って書いているのね。
「後はこれを届けるだけなんだが……」
「それで鳥なのね! ちょっと考えてみるわ!」
「え……変身の魔法ってとても高度なのでは……?」
コニーくんが何か呟いていたけれど、何となくできそうな気がするのよねぇ。きっとこの杖のおかげだと思うのよ。
うーん、ユウくんが望む事は分かったのだけれど……変身の魔法ねぇ。
……あ、あれがあるじゃない!
本当はコンパクトだけど、今回は杖を使いましょう。
「ねえ、ユウくん。魔法使いの魔法の杖って英語でなんて言ったかしら?」
「えっ……ウィザーズ・マジック・ワンドだったか?」
なら、呪文はこうかしら?
私は目の前に落ちていた両手ほどの大きさの石に目掛けて呪文を唱える。
「ウィズマジワンド ウィズマジワンド……鳥になーれ!」
いつものように赤い宝石から光が溢れ、石が光に包まれる。光がなくなるとそこに現れたのは……インコだった。
「前世で飼っていたピーコ1世よ!」