34、神官様にも変な人はいるのね……
私とマチルダちゃん、ユウくんとコニーくんの二手に別れて、私たちはテントで就寝する事になった。
その時、ユウくんがこう言ったの。
「じゃあ、見張りは俺とマチルダで」
「見張り……?」
見張りが必要な理由なんてあるかしら、と首を傾げると、ユウくんが苦笑いしながら教えてくれた。
「いやいや、この森は魔物が暮らしている森だぞ? 寝ている時に襲ってきたら、どうするんだ?」
「確かにそうね!」
そのための見張りだと理解した私は、「あ!」と思いつく。
「ユウくん、ちょっと試してみたい事があるんだけど……いい?」
「何をするんだ?」
「ふふふ、見てからのお楽しみ!」
満面の笑みで私は、魔法戦士スカイの緑カラーの凪ちゃんに変身すると、私は杖を掲げる。
その時、真っ青な表情のユウくんが、素敵な笑みのマチルダちゃんに捕まっていたのだけれど……何かあったのかしら? コニーくんはその二人を尻目に「頑張って下さい!」と声をかけてくれた。
よーし、おばあちゃん気合い入れて頑張っちゃう!
「護りの……嵐!」
やっぱり、外を見通せる防御壁が良いわよね。うん、透明で。あとは……防御するだけじゃなくて、攻撃したらどうかしら? それアリよね!
その言葉で杖の先端に風が現れる。そして風はどんどんと増えていき、広場の半分を覆うくらいの防護壁が完成した。ユウくんは口をあんぐりと開け、コニーくんはキョロキョロと見回している。マチルダちゃんは花咲くような笑顔で、こちらを見て手を叩いていた。
私は胸を撫で下ろしているユウくんの元へ行く。そして――。
「ユウくん、ね? 大丈夫だったでしょ?」
「防護壁か……良かった……お前、小学生の頃から何やらかすか分からなかったからな――」
「あら、私だって大人になったのよ?」
ふふん、と胸を張る。
「まあ、クリスの魔法の効果を疑うわけじゃないんだが……この防御壁がどんなもんか見てみたい。見張りはしようと思う」
ユウくんが真剣な表情で伝える。確かに、効果の確認は大事ね。
「それでしたら、私が交代で見張りましょう」
「いいのか?」
「ええ、慣れておりますので」
ユウくんはマチルダちゃんの言葉に頷く。
「それなら私も――」
「ダメだ。クリスは寝るのを優先させてくれ」
ピシャッと言われた私は、頬を膨らませる。
「お嬢様、勇者様の言う通りですわ。今は元気でいらっしゃいますが、以前は食事の量も足りていなかったのですから……」
そっか。元気だって私が感じていても、元はクリスちゃんの体だものね。疲れているかもしれないわ。
ユウくんもマチルダちゃんの言葉に同意しているし、体の事を考えてくれていたのね……。
「じゃあお言葉に甘えて寝かせてもらうね」
「コニーもな」
「僕は……はい、分かりました」
そうね。コニーくんは一番年下だもの。今はしっかり寝て、成長するべきよね。その事を自然と理解しているらしいコニーくんは、何かを思いついたのか、ばっと顔を上げた。
「でしたら、お二人に『良い睡眠を取れる魔法』をかけます!」
「「「良い睡眠を取れる魔法?」」」
全員の言葉が被るなんて、あら珍しい。
確かにそんな魔法があるなんて聞いたら、みんな驚くわよね!
コニーくん曰く、神聖魔法のひとつに『短時間で良質な睡眠を取る魔法』というものがあるんだって。何故そんな魔法があるのかと言うと、過去女神ジェフティ 様――ハルちゃんの事ね、を深く、深く信仰していた神官様がいたそうよ。
その神官様は本当に熱心だったらしく、睡眠時間を削ってまで祈りを捧げたり、女神様のために何かを行なったりしていたそうよ。それを見ていたハルちゃんが彼に授けたのが、『短時間で良質な睡眠を取る魔法』だったってわけ。
「神官様は大喜びで、毎日その魔法を使っていたらしいのです。それはそうですよね……敬愛する女神様より戴いた魔法ですから。けれどもあるとき、使いすぎて怒られたそうです」
「……使いすぎて、怒られた……のですか?」
マチルダちゃんは首を傾げる。うん、私も思った。
「『人間の本質のひとつは、寝る事。それを疎かにして祈られても、私は嬉しくありません。寝る事も修行と捉えなさい。どうしても忙しい時にだけ使いなさい。それすらできずに私に祈るなんて、説教コースよ?』と怒られたらしいです」
あ、確かにハルちゃんっぽい。
「怒られた神官様は感動して、その後は忙しい時期だけその魔法を使うようになったそうです。ただ、その人が言うには……『説教コースも捨てがたかった……』と言っていたそうです……」
コニーくんも自分で言いながら、少し引いている。
すごい人がいたのね……うん。
マチルダちゃんも「そんな逸話が」と呟いて、少し顔が引き攣っていたわね。ちなみにその時ユウくんは――。
「もしかして、あの有名な漫画の念能力のひとつじゃ……確か主人公の師匠の師匠が使ってたな……女神様がハルなんだろう? その可能性は高い気がするんだが――」
よく分からない言葉をぶつぶつと呟いていた。