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29、私は庶民なのよ……

「まあ、クリスティナ嬢が前回の賢者様と同じ『夢見』の能力持ち、という事は分かった。参考になるか分からないが、彼について記録されている書が我が家には残っている。読んでみるか?」

「お願いしたいのですが……よろしいのですか?」

 

 私が首を傾げると、辺境伯様は「問題ない」と告げる。


「ああ、同じ能力があるのなら読んでおいた方がいいだろう。幸い今は陽が真上には来ていないし、記録した書も数冊ほどだ。コニー殿が読めば、夕方までには読み終えるだろう」

「僕、頑張ります! 先に読んで、クリスさんが必要そうなところをまとめておきます!」


 私がお礼を言うと、更に気合を入れるコニーくん。やっぱり、可愛い。あら、マチルダちゃんも同じ事を思っているのか、口角が少しだけ上がっている。アビゲイルさんがいつの間にかこちらを見ていたらしく、話が終わったタイミングで声をかけてきた。


「じゃあ、この後の事は決まったかい? それで聞きたいんだが……結局この杖をお買い上げ、という事でいいのかい」


 そうだ、この杖をくださいっていう話はしていなかったわね。

 

「アビゲイルさんが良ければ、ぜひ!」

「わたしゃ、この杖がようやく日の目を見てくれて嬉しいんだよ。だから構わないさ」

「ありがとうございます。大切にしますね」


 私は杖をぎゅっと抱きしめた。見た目は魔法少女のステッキみたいに可愛いのに、これで高度な魔法まで使えるなんて……最高すぎる! まさに一石二鳥。


「ところで辺境伯様。お代は貴方が払ってくれるって話だったかい?」


 ニヤニヤと笑うアビゲイルさん。辺境伯様はその様子を警戒していたが、彼女に耳を貸すと眉間の皺が更に深くなる。話を聞き終えると、彼は諦め混じりに息をついた。


「まあ、最高傑作と言っていたからな。仕方ない」

「毎度あり〜!」


 一瞬で疲れた表情になった辺境伯様。そして満面の笑みのアビゲイルさん。もしかして、この杖……そんなに高価なものなのかしら?



 あの後ユウくんから教えてもらったのだけれど……あの杖は日本円で一千万円は下らない代物らしい。コニーくんもその値段を聞いて納得していたくらいだ。


 私は口をあんぐりと開ける。

 ……いやいや、日本円でも高すぎるでしょ!? この世界で見たら、もうとんでもない宝じゃないの!?

 

「それはそうだ。この大きさの魔石自体が手に入らないからな。仕方ない」

「そんな代物を私が使って良いのですか……?!」


 庶民感覚が抜けない私だ。この杖が一千万円の価値があると聞いて、杖を持つ手が震える。


「使える人が使うのは当たり前だ。そもそもその杖は……国一番の魔力量であった王宮魔術師殿でも使えなかったんだ。クリスティナ嬢が使えるのなら、君が使うべきだろう」

「私が持っていても、宝の持ち腐れだからねぇ……貰ったお金は次の杖を作るのに使うさね」


 あっけらかんと告げる二人に、私は「……はぁ」と気を抜けた返事をする。


 いや、言ってることは分かる。理屈も納得できる。けれど、一千万円の杖ですよ?

 おいそれと「じゃあありがたく!」なんて言えるほど、私は図太くないの……。


 視線でユウくんに助けを求める。肩をすくめて首を左右に振られた。

 マチルダちゃんに助けを求める。綺麗な笑みを返された。

 コニーくんは……ダメだ、目を輝かせて杖を見ている。


 味方が誰もいなかった……とはいえ、今さら「やっぱり返します」とも言えない空気ね。ありがたく頂戴する事にしましょう。

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