26、やはり最高傑作だった
アビゲイルさんと一階へと戻ると、ユウくんとマチルダちゃんが店の中を見ていた。事情を説明し、五人は連れ立って辺境伯様の屋敷にある訓練場を借りる事ができた。二つ返事で貸してくれたのは、元々辺境伯様はアビゲイルさんの常連客だからだろう。
理由を告げれば「成程、あの杖を……か。良いだろう! 折角だから私も見学させてもらおうか」と楽しそうに話す辺境伯様。どうやら彼もアビゲイルさんのあの杖の存在を知っているらしい。
私は訓練場に着くと、箱にしまっていた杖を取り出した。そして気合を入れるために髪の毛を高い位置でひとつ……ポニーテールに縛った。
「怪盗ポニー・テールみたいだな……」
ぼそっと呟くユウくん。そう、それよ! 怪盗ポニー・テール! 以前娘が『月刊誌なかよく』で読んでいたのを思い出した。どこかで見た事あるな、と思ったらそれね!
そういえば……怪盗ポニー・テールは変身するとき、いつの間にか杖を持っていたわね。彼女の変身シーンはいつも手品でここまでできるのかしら、と思っていたような気がするわ。
でもユウくんはなんでその漫画を知ってるのかしら?
「あら、ユウくんも『月刊なかよく』読んでたの? 意外だわ」
「いや、娘が以前テレビで見ていたから……」
私の言葉にユウくんの頬が赤く染まる。そう言えば娘が好きで、私も一緒にテレビを見ていた記憶があるわ。それなら納得ね!
その後、疑問が解決した私は深呼吸をひとつしてから、訓練場の中央に立った。手には、先ほど取り出したあの杖。重さはそれほどでもないのに、不思議と存在感がある。まるで昔からずっと使っていたかのように手に馴染む。
チラリと後ろを見た。面白そうな表情でこちらを見ている辺境伯様、不安と期待が入り混じったような表情で私を見ているアビゲイルさんとコニーくん……澄ました表情のマチルダちゃん。そして最後にユウくんと視線が合う。
彼の瞳は「大丈夫だ」と言っているようだった。私が軽く頷くと、彼も首を縦に振る。
「さあ、準備はできたか?」
辺境伯様の一言で私は改めて気を引き締める。杖をしっかりと握り、その先端を地面に向けた。杖を見て思い出すのは、勿論怪盗ポニー・テール。私は言葉に合わせて、それっぽいようにゆっくりと杖を高く掲げる。杖の先を見ながら、私はあの光景を思い浮かべた。
「いち!」
杖の先端から淡い光が降り注ぐ。その光は私の姿をかき消すように、私の体を包んでいく。
「にの……さーん!」
声を上げた瞬間、私の包んでいた周囲の光がまるでクラッカーのように色とりどりに変化して散っていく。そしてお決まりの……あのポーズ!
そう、私は真新しい衣装に包まれていた……まるで、あの“怪盗ポニー・テール”のように!