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25、最高傑作であり失敗作

「素敵〜! 手に取って見ても良いですか?」

「あ、ああ。構わないよ」

 

 アビゲイルさんに許可を得た私は、箱の中から杖を取り出す。この杖は今までと違って、天辺に拳ほどの赤い宝石のようなモノが埋まっていた。まるで王冠の上に宝石が乗せられているよう。土台の王冠部分の下には十字架のような装飾が彫られている。

 どこかで似たような杖をみたことあるような……。私が首を傾げていると、アビゲイルさんが話し始めた。


「それはねぇ。私の最高傑作であり、失敗作でもある杖なのさ」

「最高傑作でもあり、失敗作でもある……?」


 彼女の言葉の意味が分からず、私は同じ言葉を呟いていた。コニーくんもアビゲイルさんの言葉を理解できなかったのか、目をぱちくりとさせている。


「その赤い宝石は魔石と言ってね。魔物を倒すと稀に入手できるモノなのさ。この魔石は魔力との相性が良くてねぇ……あ、ほら、そこの杖にも小さいが埋め込まれているだろう?」


 指差された杖を改めて近くで見てみると、確かにスパンコールほどの大きさの石が持ち手に埋め込まれていた。


「埋め込まれていますねぇ」

「話は変わるけど、魔法は魔力のままでは発動しないのは知っているだろう?」


 初日にコニーくんが話していた件だ。私は首を縦に振る。


「数年前のことさ……王宮魔法使いの一人がこの店を訪れてね。魔石の研究結果を教えてもらったのさ」

「その研究結果は僕も見た事があります! 使い道の限られていた魔石でしたが、その研究によって魔力を魔法に変換する助けとなる素材だと判明したのですよね?」

「おや、若いのによく知っているねぇ。その通りさ」


 アビゲイルさんはコニーくんに優しく笑いかけた後、私の持っている杖を見る。その視線は柔らかくもあり、寂しくもあり……複雑な思いが詰まっているような気がした。

 その後彼女の話によると、元々魔石は魔力を貯めるという使い方をしていたそうな。そのため大きい魔石は重宝されたが、杖に使用されているような小さな魔石は使えないクズ石という扱いだったらしい。


「その魔法使いから依頼を受けて、杖に魔石を埋め込んでみたのさ。彼の話によれば、魔石はそんなに大きくなくて良い、という話でね。丁度手元にあったクズ石を杖に埋め込んでみたら、魔法が発動しやすくなったと評判になったのさ。ここまでが前提さね」


 話を一旦止めた彼女は、私の手にあった杖へと優しく触れた。そして悲しそうに呟く。


「私はその時思ったのさ。大きい魔石で作れば、より使いやすい杖ができるのではないか、と。それで出来たのが、その杖さね。けど……その杖は日の目を見る事がなかったのさ」

「……何故?」


 私は無意識に声を上げていた。彼女の声がだんだんと低くなっていく。


「使いこなせる者がいなかったのさ……お坊ちゃんなら理由は分かるだろう?」


 アビゲイルさんの表情は暗い。コニーくんはいきなりの指名でワタワタしていたけれど、「もしかして……」と目を見開いた。


「魔石が大きすぎて、魔力を充填できる人がいなかったとか……?」

「ん、コニーくん、どういう事?」


 コニーくんの話が分からず、私は首を傾げる。

 

「先程、アビゲイルさんが『魔石は魔力を貯めるという使い方をしていた』という話をしていましたよね? 魔石は魔力が完全に貯まるまで魔力を吸い取る性質もあると聞いています……つまり、この魔石に魔力を全て貯められる人がいないのではないでしょうか?」

「その通りさね……魔石が大きすぎて、魔力を一気に半分以上持ってかれてしまうのさ」

「魔力を一気に持ってかれてしまうと、めまいや頭痛などの症状が現れるので、魔法を使うどころではなくなってしまうのです」

 

 だから、最高傑作でありながら失敗作なのね……と私は理解した。素晴らしい杖である事は間違いないけれど、使いこなせる人がいないのでは宝の持ち腐れというやつね。

 魔力が桁外れに多い人がいれば良いのだけれど……ん?


「ねえ、アビゲイルさん。私がこの杖使ってみても良いかしら?」


 満面の笑みで彼女に問う。

 

「お嬢ちゃん、話を聞いていたかい?」

「ええ! 魔力の多い人が使える杖なんでしょう?」


 ニコニコと告げれば、アビゲイルさんは目を丸くする。


「いや、そうなんだけど……」


 何かを話そうとする前に、コニーくんが声を上げた。

 

「確かに、クリスさんなら使いこなせるかもしれません! 歴代一位の記録を塗り替え、桁違いの魔力を持っているクリスさんなら!」


 コニーくんの目は爛々と輝いている。アビゲイルさんは「歴代一位……」と呟いてから、ふっと口角を上げた。


「ではお手並み拝見といこうじゃないか」

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