22、ユウくんって本当に貴族なのねぇ
しばらくすると、ガタイの良い男性が現れる。
彼が辺境伯様のようだ。貴族と言えば、着飾っているイメージだったのだけれど、目の前の辺境伯様はワイシャツ一枚にズボンというシンプルな格好。このような服装でお客と会って大丈夫なのかしら? と思ったら、席に座った辺境伯様が頭を下げられた。
「このような格好で失礼する。ここは魔境の森に隣接しているので、有事の際にすぐに駆けつけられるようにしているのだ」
「頭を上げてください、シャトニルス辺境伯様。お忙しい中、お時間を作っていただきありがとうございます」
「こちらこそ、急に呼びつけてすまない。感謝する」
辺境伯様に対応するユウくんを見ていると、優雅で上品。本当に貴族なんだな、なんて改めて思ってしまうわね。
ユウくんは私と違って……ある日前世のユウくんの記憶を思い出しただけらしいから、元の男の子の記憶があるのよね。幸いな事に、元の性格と前世のユウくんの性格がそこまで差異がなかったようで、うまく融合できたと言っていた。
そこで礼儀作法についてはきっちりと教わっていたらしいから、対応できると言っていたけれど……どれだけ勉強したのかしら。すごいわよね。
挨拶する二人をぼーっと見ているとユウくんが私を紹介したので、立ち上がって右足を下げた後、ローブの両裾を持って膝を曲げる。昔テレビのニュースで皇族の方々がそうしていたのを見たわ。それを真似しておけば、どうにかなるかしら?
幸い、何も言われる事なく紹介は終わり、次のマチルダちゃんに移る。後でマチルダちゃんに礼儀作法について聞いておきましょう。全員が元の場所に座ると、話が始まった。
「勇者殿、メイユの森にアルミラージが出たというのは、事実か?」
「はい。コニーの話を聞いて、辺境伯様へとお伝えした方が良いかと思いまして」
「報告ありがたい。実は一ヶ月ほど前から、アルミラージがメイユの森に生息しているのではないか、と疑っている」
辺境伯様の話によれば、ここ最近メイユの森の狩人たちからの報告が上がっているのだそう。一頭、二頭くらいなら迷い込んだのだろうと判断するのだが、最近は集団で森に滞在しているのではないかと考えられているらしい。
辺境伯様の見立てによると、アルミラージは騒がしい場所を好まないのではないか、と考えられているようだ。そのため狩人が頻繁に現れるメイユの森には近寄らない、これが鉄則だったのだが……。
「アルミラージが嫌がる何かが現れたのかと、辺境伯様は考えていらっしゃるのですね」
「そうだ」
つまり魔境の森で何かが起こっている可能性が高い、というわけだ。
「それでお願いがあるのだが……出立を遅らせて、森の様子を調査してもらう事はできるだろうか? こちらが入手した情報によれば、女神ジェフティ様は完全に封印が解ける時期を一年後、とみなしているのだろう? 一週間ほどで良いので、森の異変を調べてほしい」
ハルちゃんはそんな事も神託で告げていたの……? と疑問に思い、無意識にコニーくんへと視線を送った。彼は私の視線の意味を理解していたのか、首を縦に振る。
考えてみれば、そうよね。封印が解ける数日前に神託を出しても意味はないわよね、と納得する。
ユウくんは辺境伯様の言葉に頷いた。
「依頼は請け負います。実は私たちも一週間ほど街を拠点に訓練を行ってから、魔族領へ向かう予定を立てておりました」
「それなら丁度良かった!」
辺境伯様は喜ぶ。ユウくんとしばらく話をしていたが、話がまとまったらしく、彼が説明してくれた。
「辺境伯様の屋敷には、魔境の森の資料が幾つかあるが、読ませていただく許可を得た。コニーとクリスはここで資料を読んでいて欲しい。俺とマチルダで野営の買い出しをしてくる。そっちは任せたからな」
「分かりました!」
「ええ、任せて!」
二人が部屋を退出後、私たちも案内の方に連れられて、魔境の森の資料がある部屋へと入って行ったのだった。