21、誰がチームの主導者になるのか……?
横文字と格闘した結果、覚えても三歩歩くとすぐ忘れる私に、ユウくんはため息をついた後「辺境伯様と呼べば良い」と助言をくれた。それならもっと早く言ってくれれば良かったのに……と思わずジト目を送ってしまったくらい、敵は強大だったわ……。
抜け道を教えてもらった私は、眉間に皺を寄せていた先程とは違い、満面の笑みで迎えの方を待っていた。
「そう言えば、お嬢様、ひとつ聞いてもよろしいでしょうか?」
そんな中でマチルダちゃんが私に訊ねてくる。
「どうしたの? マチルダちゃん」
「お嬢様がこの中で爵位が一番高いのですが……お嬢様は貴族への対応はできるのでしょうか?」
「……えっ?」
そう言えばクリスちゃんの実家は侯爵家だったわね。侯爵家って結構高い地位じゃなかった?
「あれ、ユウくんのご実家は……?」
「子爵家。クリスの方が上だな」
「あわわわわ……!」
初めて口から「あわわわ」なんて言葉が出たわ……。でも日本ではしがない庶民のお婆ちゃんよ? そんな私に対応できるかしら?
「対応、できるかしら」と告げて頬に手を触れながら首を傾げてみんなを見る。ユウくんは肩を竦めて首を横に振っているし、マチルダちゃんは私を見ているようで……実際は遠くを見ているようだし、コニーくんに至ってはそっと目を逸らしている。
まあ、分かっていたわ。無理よねぇ。
「ユウくんお願い〜」
「……そうなると思った」
「まあ、勇者様がチームの主導者として対応するのが、一番良い案でしょう」
「……僕もそうしていただけるとありがたいです」
ユウくんは「それが無難だな」と言って同意してくれた。胸を撫で下ろした私に、ユウくんは「そうだ」と言って私の方へ向く。
「クリス、辺境伯様の前でユウくんはやめとけ」
「え、じゃあ……勇者様なら良いかしら?」
辺境伯様で良いなら、ユウくんは勇者様と呼んでも違和感ないわよね? そう思って話せば、「そうだな」と可哀想な人を見るような目で私を見ている。ごめんなさい、ユウくんって呼んでるから、忘れちゃうのよ……!
しばらくして迎えがくると、屋敷へと案内される。屋敷にたどり着いた私たちは、男性と女性に分かれて引き剥がされた。私は頭に疑問を浮かべていたが、マチルダちゃんはこれから何が起こるのかを理解しているようで静かに、されるがままに身を任せている。
お風呂に入れられ、体を拭かれ……くすぐったくて笑ってしまった。マチルダちゃんはよく笑わなかったわね、と感心、感心。その後、用意されていた服を着せられて、部屋を出た。
ある一室に入ると、そこには既にユウくんとコニーくんがソファーに座って待っていた。領主様はまだお仕事をされているらしい。私たち二人も案内されたソファーに座り、しおらしい様子を見せる。
ユウくんたちには知られているけれど、「私は中身がお婆ちゃんです!」 なんて言ったら、普通は驚くものね。十六歳らしく振る舞った方が良いかしら? ……あら、十六歳ってどんな感じに振る舞えば……?
また一人で内心あわあわしている私をよそに、ユウくんやマチルダちゃんは落ち着いて紅茶を飲んでいるように見える。コニーくんは緊張している様子だけれど、私よりも自然と動けているような……気が。
まあ、きっとユウくんが対応してくれるわよね、と思ったら気持ちも楽になった。ユウくんって昔から本当に頼りになるわぁ。