20、一難去ってまた一難?
一抹の不安と共に出立した私たちだったが、その後何事も起こる事なく。私は一人コニーくんから色々な話を聞いては、感心していた。
「凄いわねぇ……」
コニーくんの情報収集力に驚きを隠せない。ユウくん曰く、コニーくんは瞬間記憶能力を持っているのだとか。それで一時期友人や家族にも気味悪がられたりした時期があったそうなのだ。
私たちが心配そうにコニーくんを見ていたからか、彼は「でも今は皆さんのお役に……少しは立てていると思うので……この能力があって良かったと思いました」と恥ずかしそうに言う姿が可愛くて、また頭を撫でてしまった。
コニーくんの情報量は凄く、改めて情報収集の大切さが身に染みる。私もこれから向かう魔境の森について情報を集めた方が良いわね。そう思って話せば、コニーくんから「魔境の街で調べましょう」と言われた。なんでも、魔境の森について一番資料があるのは、森に隣接する魔境の街だそうなので。
その日から二日後。
私たちは無事魔境の街に辿り着く。本当はシャトニーの街というオシャレな名前がついているらしいのだけれど、魔境の森の存在が大きすぎて、魔境の街と国内で呼ばれているらしい。
魔境の森とほぼ隣接するため、非常に高い城壁で街を囲んでいる。けれども城壁の中に入ると、今まで泊まった街にはない程の賑わいが見てとれた。たまに現れる魔物を討伐し、その素材をこの街で加工して販売しているらしいのだが、領主様がきちんとそのお金を街へと還元しているからこその賑わいなのだそう。
私たちはコニーくんの道案内で一度教会へと足を運ぶと、教会の司祭様は私たちを笑顔で受け入れてくれる。
白髭のお爺様で、風貌は帽子を取ったサンタさんのよう。渋くて格好良いわねぇ……そんな司祭様が涙目でコニーくんを見ているではないか。彼は「大きくなったね」と手で涙を拭う。
話を聞いたところ、なんと。この方が最初にコニーくんの能力を見抜いた方なのだとか。家族の視線を受けて心が沈んでいたコニーくんを支えたのが、この方……ベイツ様だったようで。
コニーくんは、「ベイツお爺ちゃん」と呼んで嬉しそうにしていた。爺と孫の微笑ましい再会に私たちは顔を綻ばせる。二人の抱擁が終わると、私たちは教会の一室に腰を下ろす。そこで旅の疲れを癒していた。
紅茶や軽食で一息ついた頃、扉をノックする音が部屋に響いた。
「皆様、ベイツでございます。シャトニルス辺境伯様からの使者殿がお会いしたい、と仰っているのですが、お時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
「シャト……ルス辺境伯様?」
「シャトニルス辺境伯様だ」
耳打ちしてくるユウくんに感謝しつつも、私は首を傾げた。
「なんでユウくんは横文字覚えられるの?」
「十八歳で若いからな」
それを言ったら私も十六歳なんですけど? この差はなんだろうか……。私はとにかく「シャトニルス辺境伯様」と小声で呟く。その間にマチルダちゃんが、「どうぞ」と声をあげてベイツ様ともう一人の男性を部屋へと入れていた。
「お疲れのところ、申し訳ございません。我が主より言伝をお持ちいたしました」
「ありがとうございます」
ユウくんは右手を体に添え、左手を水平に差し出す格好良いお辞儀をとっている。わぁ、素敵ね! と声が出そうになって思わず唇をキュッと結んだ。危ない、危ない……今は面会中だったわ。
「魔境の森に関する事で、皆様とお話しをさせていただきたいとの事です。お疲れでなければ、この後お時間をいただけると嬉しいのですが、いかがでしょうか?」
私たちは顔を見合わせる。一番疲れていそうなのは、マチルダちゃんだけど……。そう考えたのは私だけではなかったみたい。私が彼女に顔を向けると、ユウくんもコニーくんもマチルダちゃんへと視線を送っていた。
そこで自分が疲れていると思われている事に気づいたらしい。
「私は問題ございません」
そう頭を下げたマチルダちゃんを見てから、ユウくんはコニーくんと私を見る。私たちが首を縦に振るのを見たユウくんは、使者様に頭を下げた。
「よろしくお願いします」
「ありがとうございます。それでは、改めて案内の者を向かわせますので、少々お待ちください」
「ありがとうございます」
そう告げて使者様は帰っていく。私は気合いを入れた。
「よし、私はまず辺境伯様の名前を覚えなくちゃ! えっと、シャニル辺境伯様だったっけ?」
「シャトニルス辺境伯様だ」
「くっ……本当に……横文字は……私の敵よ……」
そう呟いた私に、ユウくんは告げた。
「本当に、お婆ちゃんみたいだな……」
「そうよ、中身はお婆ちゃんですもの!」
クリスちゃんの苗字すら覚えられない……しかもユウくんの今の名前も覚えられていない私に、この横文字は厳しいものになるだろう……。ユウくんって呼べばいい、と許可を得られて本当に良かった……。