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19、うさぎ、そう確かにうさぎよね……?

 馬車は順調に進み、五日目。

 

 今までは両側に畑が一面広がっていたけれど、現在右手には木々が生い茂っている。魔境の森に隣接し、近くの街の名前からメイユの森と呼ばれているらしい。魔物は、厄災の箱(パンドゥーラー)が封印されている魔族領の方が多いとされており、そこから遠く離れたメイユの森にはほぼ魔物がいないそう。

 

「わぁ、それなら無事に着きそうねぇ」


 私が話すと、ユウくんが「それ、フラグじゃないか?」と呟いた。フラグとは?


 そのやり取りを忘れかけていた頃、急に馬車が止まった。驚いて私たちが扉から外へ出ると、馬車の前に立っているマチルダちゃんがいる。


「マチルダちゃん、どうしたの?」


 その言葉に振り向いたマチルダちゃん。


「大丈夫?! 何があったの?!」


 驚いて目を剥く私たちに、マチルダちゃんはなんて事ないように言った。

 

「ああ、いえ魔物が現れて馬車にぶつかりそうだったので、眠らせました」

 

 そう言って彼女は奥に倒れている何かを指差した。

 よく見るとマチルダちゃんの足元にもっふもふの何かが倒れている。うずくまっているように見えたので、どんな魔物なのかよく分からなかいけれど……大きさは車のタイヤくらい……いや、もう少し大きいかな?

 イッカクという鯨の仲間だったかしら? あれの角に似ているモノが生えているのが見える。あら? イッカクは牙だったわね。あれも牙なのかしら。


 彼女も怪我は無いみたい。私がほっと胸を撫で下ろしていると、ユウくんが呟いた。


「フラグを回収したな」

「ユウくん、何か言った?」

「……いいや」


 変なユウくんだなぁ、と思っていたのだけれど、その思考はコニーくんの言葉でかき消された。


「あれ、アルミラージですね」


 ちなみにコニーくん曰く、アルミラージは魔物の中でも大人しい部類らしい。あの大きさでぶつかって来られたら、馬車が壊れていた可能性もあるとの事だった。流石にここで馬車が壊れたら困るものね。マチルダちゃんがそれに気づいて止めてくれたのだろう。

 止めてくれた彼女も凄いけれど、なんでも知っているコニーくんが凄くて、思わず頭を撫でてしまった。彼は頬を少し赤らめながら、不思議そうな表情をしていたけれど、気にしない。

 それよりも……アルミラージってどんな魔物なのかしら?


「ねえ、ユウくんアルミラージって知ってる?」

「ああ、知っている。あっち(地球)で言う角が生えたうさぎだな」

「うさぎ?」


 可愛らしい魔物なのかしら? と首を傾げていると、コニーくんが「でもこれ――」と何かを言いかける。その時。

 

 奥からドッスン、ドッスンと音が聞こえる。ユウくんとマチルダちゃんは、私とコニーくんをアルミラージから離した。そして二人は何があっても対応できるようにするためか、武器を軽く構えている。

 それからすぐに主が姿を現した。

 

「あ、あれがアルミラージ……?」


 ユウくんの言う通り、姿はうさぎなんだけれども……「なんだかうさぎにしては大きすぎないかしら……?」と思わず呟いてしまった。だって、私より背が高くて横にふっくらしているもの。


 地球のうさぎって、大人でも抱っこできるくらいじゃなかったかしら……異世界って色々違うのねぇ。

 アルミラージは飛び跳ねて移動するらしい。姿形はユウくんの言う通り、角の生えたうさぎだけれど……大きさが違い過ぎない?コニーくん曰く、マチルダちゃんが昏倒させたアルミラージは子ども。元々頭もよく穏やかな性格なので、こちらから攻撃を仕掛けない限り問題ないと言う。


 ユウくんとマチルダちゃんは、アルミラージと視線が合ったのか、一度首を縦にふる。それを見たアルミラージは何度か私たちと子どもに視線を送ってから、何やら考え込んでいる。

 既にユウくんとマチルダちゃんは武装を解除し、両手には何も持っていない状態になっていた。


 私たちが無抵抗な事を理解したのか、アルミラージは一瞬のうちに子どもを口に咥え……すぐに元来た道をジャンプで引き返していった。

 音が聞こえなくなると、私たちはほっと胸を撫で下ろす。


「はぁ〜、何もなくて良かったわ……」

 

 私が無意識に告げると、マチルダちゃんも「本当にその通りですね……」と話す。


「もしアルミラージが子どもを殺された、と判断していたら戦う事になっていたからな。最初目が赤くなくて本当に良かった」

「目が赤いと何か問題があるの?」


 うさぎなら目が赤いのは普通じゃないかしら? なんて思っていたけれど、そういう事ではないらしい。


「目が赤い時は怒りで我を忘れている状態になっていて、無差別に襲ってくるんだ。だから討伐するしかなくなる」

「ええ。無駄な殺生はしたくありませんから」


 だから最初は赤目だった場合に備えて武器を構えていたのだという。アルミラージが現れた瞬間、二人は目の色が赤ではない事に気づき、すぐに武器を下ろしたのだとか。

 私が驚いて目を見開いていると、横から声が上がる。


「あ、あの……ひとつ疑問に思う事があるのですが……」

「コニー、どうした?」

「アルミラージは魔境の森を縄張りにしていて、メイユの森での発見例は一度もないと、聞いています。そんなアルミラージがなぜここにいるのでしょう……? メイユの森は鹿や熊などの動物が生息しているので、狩人がおります。アルミラージが生息していれば、近隣の教会にも報告が上がると思うのです。もしかしたら魔境の森で何か起きているのではありませんか……?」


 コニーくんの言葉に、マチルダちゃんとユウくんも考え込む。彼の言葉に私も一抹の不安を覚えた。

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