18、コニーくんの可愛さは天下一……
翌日馬車の中。
私はユウくんとコニーくんと一緒に馬車で移動していた。御者はマチルダちゃんである。最初はユウくんが御者をやると言っていたのだけれど、マチルダちゃんに押し切られてしまったようだ。
「アナタは私よりも若いんですから、お姉ちゃんに任せてください」と言われて、背筋に悪寒が走ったらしく引き下がったみたい。ユウくんは落ち込んじゃって「前世も含めたら俺の方が年長者だ……」と肩を落としていたけどね。最終的に一日交代となったよう。
ちなみにあの後、ハルちゃんも『ユウくんもいるし、もう大丈夫だね! 私、仕事があるから、一旦抜けるね! また見にくるよ〜』と言って去っていった。確かに繋がりが消えた気がする。
そしてユウくんからクリスちゃんの家族の顛末を聞いた。私の準備が思ったより大変だった事もあって、マルクス様から話を聞いていてくれたらしいの。
結局、家族たちはクリスちゃんを虐げたという理由で侯爵家の当主を下されたとの事。現在侯爵家は王家預かりになっているらしい。
それに魔力測定をしていなかった事も仇になったようね。元々序列十位以内だったらしいけれど、あの後強制的に測らせたところ、兄は二十位前後、父と母なんて五十位前後となっていたみたい。努力は裏切らない、と日本では言うけれど……これを見ていると、怠惰も裏切らないのねぇ。
三人は愕然としていたらしいわ。
そういえば、今のユウくんはヘンリクくんって名前なのよね。私はユウくんと呼んでいるけどいいのかしら、と思って聞いてみたら、「勇者のユウだから良いんじゃないか」って。本人が良いならお言葉に甘えましょう。
ちなみに私はクリスと呼ばれる事になったわ。流石にミヤじゃ誰か分からないものね。
「そういえば、コニー。ひとつ聞きたい事があるんだが」
馬車に乗ってしばらく経った頃、ユウくんがコニーくんに声をかけた。
「な、なんでしょうか……?」
ユウくんの言葉に肩が跳ねるコニーくん。ちょっと、ユウくん! 驚かせちゃダメじゃない!
「あ、いや、すまない……驚かせるつもりはなかったのだが……」
「い、いえ……僕こそすみません。急に声をかけられると、いつも肩が跳ねてしまうので気にしないでいただけると助かります……」
「あら、それだけ集中力があるという事ね! コニーくん凄いわ!」
「あ……ありがとうございます……」
コニーくんを褒めれば、最初はぽかんと口を開けていた彼の頬が次第に赤くなっていく。あら、ちょっと照れているみたい。ああ、やっぱり可愛いわぁ〜と微笑ましく見ていると、私から温かい目で見られている事に気づいたコニーくんは、少し嬉しそうに見えた。
「魔力について聞きたい事があるんだが、良いか?」
魔力! 魔力測定で魔力量が多い、と知ったのは良いけれど、実際私も魔力について知らないのよね。ユウくん良い事聞くじゃない!
「僕で答えられる事であれば……」
コニーくんは自信なさそうに話す。
「俺はいつも詠唱なしで魔力を利用しているのだが、魔法も詠唱なしで使う事ができるのか?」
「あら、ユウくんは詠唱なしで魔法を使えるの? 凄いじゃない!」
両手を叩いてたら、ユウくんが複雑な表情をしていた。「なんかおばあちゃんに褒められた気分だ……」とか言っているけれど、覚えているかしら? クリスちゃんの中身はこの私……おばあちゃんよ?
コニーくんは私たちのやり取りの間に、少しだけ考え込んでいた。
「え、えっと、ヘンリクさんが魔力を使う時って……どんな時でしょうか?」
「魔力を使う時……ああ、肉体を強化させる事が主だな」
そう言って彼は力こぶしを作ってから、そこに透明な何かを纏わせた。透明な何かはコニーくん曰く、魔力らしい。
この世界の魔力とやらは見えるようだ。私がよく見ていた魔法少女系のアニメや漫画では魔力という言葉は使われていなかった気がするし、魔力が見えるという描写もなかったと思う。目に見えるなんて、不思議よねぇ。
「た、多分ですが……ヘンリクさんのように……体内にある魔力を体にまとわせるだけであれば、詠唱は必要ないと思われます。ヘンリクさんは魔力自体をそのまま体の強化に使いますが、ク……クリスさんは魔力を何かしらに変化させてから使っているので、詠唱が必要なのかと思われます」
「……」
うーん、なんとなく理解できるような、できないような? ……でも、そう言ったらきっとコニーくんは自信を無くしちゃうわ。どうしたらいいのかしら?
「つまり自分自身の強化に使う際は、詠唱がいらないという事か。クリスやコニーのように、魔力を水や火に変化させる魔法や、他者に付与させる魔法は詠唱が必要になるという事だな?」
「そうです! クリスさんや僕の使用する魔法は、魔力を変化させなければなりません。その変化を安定させるために詠唱が必要ではないかと言われています」
コニーくんは水を得た魚のように話す。先程のオドオドした姿がまるで嘘のよう。
「コニーくん、若いのによく勉強しているわねぇ」
「ああ、本をよく読んでいたとは聞いていたが、まさかここまでとは……凄いな」
二人で感心していると、コニーくんは真っ赤になって狼狽えた。
「いや、僕なんか、まだまだで――」
「まだまだなわけないだろう?」
耳まで赤く染まったコニーくんの言葉を遮ったのは、ユウくんだ。
「この若さで多くの本を読んで、理解している事が凄いんだ」
「で、でも……僕は記憶力が良いからで……本を読んでそれが役に立てばいいなと……それに楽しいから本を読んでるから……」
まだまだ謙遜しているコニーくん。少ししどろもどろしている。
「そこよ! コニーくん! 自分の強みを理解して、他の人のために役立てようとする姿……! それができる人はそこまで多くないのよ! だからユウくんも私も、コニーくんは凄いねって話しているの! ね、ユウくん」
ユウくんは私の言葉に頷いている。
最初「でも……」と俯いていたコニーくん。何も言わずに、私たちは孫を見るような視線で彼に笑いかけると……コニーくんは視線を下に向けた後、頬を真っ赤にして「……ありがとうございます」と恥ずかしそうに言った。
――あらまあ、可愛すぎる……!
マチルダちゃんも頬を染めながら、チラチラとこちらを見ている。三人の意見が初めて一致した瞬間だった。