16、侍女ちゃんが仲間になりたそうにこちらを見ている
私は首を傾げた。
「えっと、私に仕える? 私に?」
私は元々仕えていたクリスちゃんじゃない。中身は異世界から来た七十八歳のお婆ちゃんだ。それなのに仕えるとはどういう事だろうか、と悩む。彼女の目はキラキラ輝いている。まるで楽しみを見つけた小さい子どものようだ。
私が返答に困っていると、正気を取り戻したマルクス様が狼狽えながら声を上げた。
「お待ちなさい、貴方の仕事は侍女でしょう? 多少武の心得はあるようですが……。魔族領へは辛い旅になるかと思いますので、生半可な決意では足手まといになりますよ」
その言葉は私にも当てはまるような気がした。別にピクニック気分で行くわけではないけれど……ドキッとする。遊びではないのだから、一生懸命魔法の研究をしなければ。
「司教様! 私、武の心得でしたら多少ありますわ! 足手纏いにはならないと思います!」
「まあ、確かに動ける者の動きだったが……けど……」
ユウくんも眉間に皺を寄せて考えている。彼も侍女ちゃんを連れていく事に反対なのだろう。そもそも……。
「ちょっと待ってもらえる? 私、外見はクリスティナちゃんだけれども、中身は得体の知れないおばあさんよ? クリスティナちゃんじゃないのだけれど、それで貴女は良いのかしら?」
遠回しに私も止める。若い彼女が危険な事をする必要はないと思うからだ。個人的にはコニーくんすら、このパーティへと入ることに抵抗はあるのだけれど……ハルちゃんの選択だ。これは理由があるはず。けれども侍女ちゃんは違う。
そう思って声をかけるのだが、彼女の決意は固いらしい。
「勿論、存じ上げております! 私としては勇者パーティーの一人として名が売れれば、将来の仕事が増えますし……」
あえて危険な道を行かなくても良いのでは? と思うけれど、マルクス様もその話には少し納得がいくようだ。
「侯爵家の紹介状がないのでしたら、確かにそうですが……他に方法はあるでしょう?」
彼に言われて、侍女ちゃんは「あります」と頷いた。では何故? そう思っていたら、楽しげな表情をしていた彼女から笑顔が消えた。
「一番は、お嬢様が何を成すのか、この目で見てみたいのです」
真剣な瞳でそう言われ、私は決意した。
「マルクス様、彼女も連れていきましょう」
「クリスティナ様……! ですが……」
まさかの私から同意の声が上がるとは思わなかったのだろう。マルクス様は少々戸惑っていた。後ろではユウくんもコニーくんも驚きを隠せないようだった。でも、私にも考えがあるのだ。行き当たりばったりではないので安心して欲しい。
「猶予を与えたらどうかしら? マルクス様から聞いたのだけれど、魔族領はすごく遠いのでしょう? その前にできたら訓練をしたいの。魔物と対峙するのも先程のアルバードが初めてだし、ちょっと不安なのよね。訓練の間は一緒に戦闘へ加わってもらって、もしそこで無理だと思ったら諦めてもらう……で、どうかしら?」
その意見に理解を示してくれたのは、コニーくんだった。
「あ……それは良い案だと思います……。僕も実は魔物との対戦や野宿に慣れていないので、訓練できるならお願いしたいです」
「俺は慣れているけど、コニーやミ……クリスティナ嬢からすれば、そうか」
ああそっか、と思う。森の中に宿があるわけではないものね。野宿の経験もしておかないといけないのね……一週間で慣れる事ができるかしら? 私、意外と図太いようだから大丈夫ね。
「なら、クリスティナ嬢の提案通りで行こう。マルクス様、それならいかがでしょうか?」
「ええ……まあ……それなら……」
渋々ではあるが、マルクス様の許可も得る事ができたわ。良かった、良かった。と思いつつ、私は座った。