14、みんなで一緒に魔力測定しましょ!
教会には魔力測定室、と呼ばれる場所がある。
私たちはマルクス様の案内で、その部屋へと入っていく。そこには占い師が使うような大きな水晶玉が置かれていた。陽の光が水晶玉に当たってキラキラと輝いており、存在を主張しているかのようだ。
儀式は私がこの水晶玉――正式名称は、魔力測定宝石。通称は魔宝石というらしい――に手を翳すだけで分かると言う。試しにコニーくんが手を乗せると、水晶玉が太陽のように光った。
「コニーは神官の中でも一、二を争うほどの魔力量の持ち主ですから」
そうマルクス様に言われて照れているコニーくんが可愛らしい。ただ、クリスちゃんの家族が言うには「序列」のようなものがあるはずだ。光の強さでそれが分かるのだろうか、と疑問に思っていると、その後宝玉の中に字が現れる。
『そこはちゃんと対策してるよーん』
ハルちゃんの声が聞こえた。流石、ハルちゃんである。勿論、数字が大きければ大きいほど、魔力量が多くなる。ユウくんもついでに測ってみると、コニーくんの光には及ばないが、なかなか眩しかった。マルクス様曰く、ユウくんの魔力量は上の中くらいなのだとか。
「では、最後にクリスティナ様、お願いします」
そうマルクス様に言われて水晶玉の前に立ったその時。
「マルクス様!」
扉の前が騒々しくなり、ある一人の神官が扉を開けて入ってくる。
「何事ですか! 騒々しい!」
「も、申し訳ございません! ですが……レーフクヴィスト侯爵家の方々が……!」
皆で顔を見合わせる。えっと、レーフ……ヴィト侯爵家? 誰かしら?
そう疑問に思っていると、マルクス様が私の方へと向いた。
「本当はそのまま放置しても良いのですが……現実を知ってもらうためにも部屋に入れましょう。それでよろしいでしょうか、クリスティナ様」
「……? 勿論」
私が首を傾げると、彼は苦笑いを見せた。
「そしてヘンリク様、クリスティナ様をお守りしていただけると助かります」
「任せてくれ」
その会話が終わった頃に、大音を上げて扉が開く。
「あ」
思わず私の口から言葉が溢れた。目の前にいたのは、クリスちゃんの家族だったからだ。そういえば、レー……なんちゃらって家名だった事を思い出す。まあ、それは良いとして……なんでここに来たのかしら? と頭に疑問符を乗せていると、クリスちゃんの父は唾を飛ばしながら話し始めた。汚いわね。
「ここまで来たんだ! あいつは我が家の娘だし、魔力量を見るくらいなら良いだろう?!」
「我が家の出来損ないが賢者に選ばれたなんて信じられませんもの?」
「あの出来損な――ひぃ!」
クリスちゃんのお兄さんが何かを言おうとしていたようだけれど、隣にいたユウくんの威圧に怯えたらしい。だらしないわね、なんて思っていると、クリスちゃんの両親も恐ろしい者を見るような表情をしていた。
マルクス様は彼らの前に陣取り、冷ややかな視線を送っている。
「見学は構いませんが、クリスティナ様に何かあれば、勇者であるヘンリク様が容赦しませんので」
クリスちゃんの家族は糸が切れた人形のように首を縦に振るだけだ。私はそんな彼らを尻目に、水晶玉の前へと立った。
皆に見守られながら、私は水晶玉に手を置く。すると目の前の水晶玉が光り始めた。あ、きっとコニーくんと同じくらいかしら? それはそれで嬉しいわね! と呑気にしていたら、急に目の前が光に包まれる。
あまりにも眩しすぎて、思わず目を瞑ってしまった。
私はぎゅっと目を瞑り、水晶玉の上に置いた手だけは離さないように気を配る。目を瞑っても瞼の裏に眩しさを感じるくらいの光だ。しばらくして光が収まったのか、眩しさが次第になくなっていく。完全に無くなったところで、恐る恐る目を開けると、隣にマルクス様が立っていて驚いてしまった。
「流石賢者様ですね。歴代、最高位の数値です」
「えっ」
「凄いじゃん」
「流石賢者様ですね……! 今まで見た事のない数値です……!」
ユウくん、コニーくんの二人が喜んでくれているところに、不快な声が耳に入ってくる。
「嘘だ! 私にも見せろ!」
そう言ってクリスちゃんの家族三人がマルクス様の近くへと歩いてくる。マルクス様は私をユウくんたちへと預けると、彼らと相対した。
「これは何かの嘘だろう?!」
「あの出来損ないがこんな数値なわけないじゃない!」
「クリス! お前! 何か細工をしたんだろう!」
クリスちゃんのお兄さんはそう告げると、私を捕まえようと両手を前に私の方へと向かってくる。彼の顔はまるで鬼のような……そんな表情だ。と言っても、私はクリスちゃんじゃないし、全く怖くない。むしろ、かかってこいと言わんばかりに身構えたのだが……。
私の横をすり抜けた影がふたつ。
クリスちゃんのお兄さんの首元にはいつの間にか、ユウくんの剣が突きつけられている。そして脇腹辺りには、侍女ちゃんの武器が……って、あれ、忍者が使うようなクナイにそっくりじゃない?
もしかして、侍女ちゃんは……くの一?! いや、この世界に「くの一」という言葉があるかは知らないけどね。
クリスちゃんのお兄さんは顔が真っ青だ。それはそうね。あと数ミリ動けば、刃物でグサリ! だもの。
「クリスティナ嬢を害する奴は俺が許さない」
お兄さんの目を見据えてそう告げるユウくんは、とっても格好良かった。